ニュース

ベルの物語

ベル、ピアノで遊ぶ (その1)

ベルは、こども教育学科に住んでいる クマです。

大学の賢風館5階にある コモンズという部屋で 暮らしています。

 

いつもは にぎやかな大学ですが、今年の春、ベルは ほとんど一匹で 過ごしていました。

大学が、長いお休みになってしまったからです。

ベルのいるコモンズは うす暗く、どんよりとした空気が ただよっていました。

ベルは、その中で 息をひそめながら、何かが 動き出すのを じっと 待っていました。

 

やがて 春が過ぎ、梅雨の季節が やってくると、コモンズの空気が 少しずつ 変わってきました。

はじめに、風にのって 小さな子どもたちの声が 聞こえてくるようになりました。

つづいて、もう少し大きな子どもの声も 聞こえるようになりました。

でも、学生さんたちの声は、まだ 届きません。

 

ある日のことです。

音楽の先生が、ふらりと コモンズに やってきました。

「ベルちゃん、こんにちは。この前、ピアノを 弾いてみたいって 言ってたね。もしよかったら、大きな部屋の 大きなピアノを 弾いてみない?」

先生は、ベルとの約束を 覚えていてくれたのです。

ベルの目が、きらんと光りました。

「くぅー、くぅー、くぅー。(ピアノ、弾くっ! 弾くっ!)

ベルの身体中(からだじゅう)が そう叫んでいました。

 

音楽の先生は、ベルのお散歩用に 青い台車を 持ってきてくれました。

さあ、お出かけです。

今日は 一人では ありません。

ベルは、オリの中から ようやく外に 出られたような気持ちになりました。

(続く)