京都光華女子大学 短期大学部 ライフデザイン学科 ニュース 絹の性質の話 ~絹(シルク)にまつわるトリビアその2

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絹の性質の話 ~絹(シルク)にまつわるトリビアその2

こんにちは。ファッション分野担当教員の青木正明です。
日本の歴史と文化に常に寄り添ってきた絹素材。前回はそんな話をさせて頂きました。ではなぜ私たち日本人をはじめとした世界の各地で絹が愛されたのでしょうか? 今日はそんな絹の素晴らしさを理科っぽい視点から少しだけお話してみます。

絹の断面は三角形

絹と言えばやはり「光沢」ですよね。綿、麻、毛など他のどの天然繊維とも違う独特の光沢感、これは絹の繊維断面がほかの天然繊維と違って特殊な形をしているからなのです。
絹の繊維はお蚕さんが口から吐いて(厳密には吐いているわけではなく引き延ばしているのですが)出来上がります。吐かれたばかりの絹の繊維は図のように少々変わった断面をしており、フィブロインという2本のタンパク質を、セリシンというべとべとしたタンパク質が囲んでいます。フィブロインというのはしなやかで強い繊維状タンパク質です。お蚕さんはこの丈夫な材料を体の中にある絹糸腺で大量に作り繭の壁を築いて、4~5日間の蛹時代をやり過ごすわけですね(その前に私たち人間が彼らを殺めてその壁をいただいてしまうのですが)。この丈夫なフィブロイン繊維は断面が三角形なのです。
三角形の断面をしたフィブロイン繊維は言ってみれば三角柱なので側面は平面ですよね。平面の形をしていると、光を反射する際に丸型や扁平型の断面をした円柱や楕円柱の側面のような曲面よりも拡散反射が起こり難いです。「光沢」というのは、鏡面反射(光が入る角度と反射する角度が同じで鏡のように反射する)と拡散反射(光が入る角度と反射する角度が全くでたらめ)の割合による複雑なものなのですが、この拡散反射が少なめのほうが光沢感が現れることが多いようです。すなわち、絹繊維は三角形に近い断面をしているために、平面に近いすべすべな側面が鏡のように光を反射することが多く、独特の光沢感になっているようです。こんな三角形をした断面の天然繊維って他にはないのです。
ちなみに絹光沢をもつポリエステルやナイロンの繊維はやはりその断面が三角形をしていることが多いです。これは絹繊維の断面を研究してそれを真似て開発したおかげで出来たもの。バイオミメティクス(生物模倣)といった最先端の科学技術のひとつですね。



絹は着ていないのと同じ?

絹繊維の特徴のもう一つは「透湿性が高い」ということです。透湿性とはとても簡単にいえば「ムレにくい」ということでしょうか。
私たちの皮膚表面からは常に水分が蒸発して水蒸気として存在しているので衣服内は常に湿度が高い状態です。片や外気は雨降りの屋外でもなければ湿度は衣服内に比べると低いです。水蒸気は湿度の高いところから低いところに移りたいのですが、それを邪魔しているのが衣服の布でして、布が水蒸気の移動をどの程度邪魔をしないか、というのが透湿性です。学術論文で調べても絹繊維はほかの繊維に比べ透湿性が高い結果を示すものがいくつか出てきます(「繊維層における透気性と透湿性」1972など)し、数値でお伝え出来ないのですが、筆者が株式会社ワコール勤務時代に最適パジャマ素材開発のために実験した繊維素材ごとの透湿性テストでも絹素材は一番透湿性が高かった記憶があります。「着ていないのと同じ」までは言えないと思いますが、私たちの体から常に発せられる水蒸気が外に出る邪魔を最もしにくい服を作りたいなら、絹で作るのが一番でしょう(もちろんこれは糸の太さや織編密度とも大きく関係しますけど)。高温多湿の夏を抱えた日本において、古来貴族が残した文献で皮膚病の記録が見られないことと、古来絹が愛されてきたこととも、何か関係があるかもしれません。

絹の話第一弾「絹(シルク)にまつわるトリビア ~その1」はこちら