京都光華大学 短期大学部 ライフデザイン学科 ニュース 偉大な漫画家、手塚治虫氏の未完の作品のこと

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偉大な漫画家、手塚治虫氏の未完の作品のこと

こんにちは。ライフデザイン学科・デザイン企画分野担当の三原康弘です。

暑い日が続きますが、大学ではもう少し夏休みが続きます。今日は、少し個人的なお話をさせて頂きます。

確か中学生の頃、夏休みの宿題(読書感想文)で『路傍の石』(山本有三)を読みました。この作品は未完で、主人公の吾一の行く末が分からないまま終わってしまったので、感想文の最後に「続きが読みたい!誰か書いてほしい!」と書いた覚えがあります。
『路傍の石』は小説ですが、手塚治虫さんの漫画作品にも未完のものがさくさんあります。手塚さんは1989年2月に60歳で亡くなられたのですが、直前まで雑誌掲載作品を複数連載中でした。その作品は、『ネオ・ファウスト』、『ルードウィヒ・B』、『グリンゴ』の3作品で、いずれも未完(絶筆)です。
 私は、手塚さんが亡くなられる少し前の1985年頃に学校の図書室で手塚作品に出合い、『火の鳥』、『アドルフに告ぐ』、『ブッダ』、『ブラックジャック』などの作品を読み始めていた頃なので、訃報を知り大変ショックを受けました。それから、未完となった上記の3作品も順番に読みました。読後の感想は、やっぱり「続きが読みたい!」。でも…この「続き」って絶対に読めないんですよね。3作品がいずれも独創的で面白くて(表現が乏しくてすみません)、その先を手塚さんがどう構想していたのかなんて、当然手塚さんにしか分からず、予想さえも許してくれません。仮にストーリーに連続性がない一話完結もので、キャラクターや諸々の設定が固まっているものであれば、他の人が描くことも不可能ではないかなと思います。ですが、どの作品も独創性が高く、何が伏線になっているのかも全く分からないので、その「続き」なんて誰も描きようがありません。ですので、残念な気持ちを持ったまま、未完ですが完成度の高いこれらの作品を今でも繰り返し読んでいます。


上記の3作品、非常に簡単ですが以下ご紹介します。
 『ネオ・ファウスト』は、ゲーテの戯曲『ファウスト』をテーマにした作品で、手塚さんはこれ以前にも『ファウスト』、『百物語』という作品を描かれています。いずれも悪魔と契約した男の物語で、『ネオ・ファウスト』と合わせて三部作と呼ばれることもあります。

 『ルードウィヒ・B』は、ベートーヴェンの半生を描いたものです。ベートーヴェンを逆恨みする登場人物(フランツ)が本当に腹立たしい人で、でもかわいそうな背景もあるところが手塚さんらしい設定です。ベートーヴェンのピアノ演奏シーンは、音が聴こえてきそうなほどの迫力ある表現で圧巻です。

 『グリンゴ』は、南米のとある国が舞台で、日本の商社の南米支社に赴任してきたサラリーマンの奮闘記です。連載当時はバブル期ど真ん中の昭和60年代で、「24時間戦えますか♪」の時代。異国の地で幾多の苦難に直面しながら、意地とプライドでそれらを乗り越えようとするモーレツ「日本人」サラリーマンの物語です。

 ご興味のある方は是非読んで、その先を想像してみてください。