ニュース
2026.02.03 授業活動学生の服飾史レポート「フリルやリボンを身に付けたヨーロッパの男性服」
こんにちは。ライフデザイン学科教員の青木正明です。
私が担当している授業「世界の服飾史」の課題の中で、学生が16~18世紀の男性ファッションについて語ってくださいました。この時代、現代の私たちから見ると非常に女性的な装飾が多いのですが、そのあたりの紹介から、「女性らしさ、男性らしさとはなにか?」という現代ジェンダー論に関わる事柄を考察をしてくださっています。ぜひ一度ご覧ください。
フリルやリボンを身に付けたヨーロッパの男性服
S. O.(2024年度入学)
本レポートでは、16世紀から18世紀のヨーロッパにおいて男性が身に付けていたフリルやリボンなどの装飾が付いた服装に注目し、その意味や社会的背景について考察する。
授業内で紹介された当時のヨーロッパの男性服は、現代の感覚から見ると女性的に感じられる要素が多く、なぜこのような服装をしていたのか疑問に思った。それがこのテーマを選んだ理由である。当時の男性服の特徴や変化を整理し、「女性らしい服装」の理由を明らかにしていきたい。
16世紀から18世紀のヨーロッパでは、王侯貴族を中心に、男性の服装は非常に華やかで装飾性の高いものであった。レースを用いた大きな襟や袖口のフリル、色鮮やかなリボン、刺繍や宝石が施された衣服は、男性服の代表的な特徴である。これらの装飾は、単なる流行や美的感覚によるものではなく、社会的地位や権力、富を視覚的に示す重要な役割を担っていた。当時の社会では、服装が身分を示す最も分かりやすい手段の一つであり、華やかな服装は支配階級であることを強調するものであった。
特に17世紀のバロックの時代には、男性服にもレースやリボンが積極的に取り入れられた。バロック様式は壮大さや装飾性を重視する芸術様式であり、その影響は建築や絵画だけでなく服飾にも及んだ。男性の上着や袖口には繊細なレースがあしらわれ、肩や膝、靴には多くのリボンが結ばれた。このような装いは、動きやすさよりも視覚的な豪華さが重視されており、肉体労働とは無縁の階級であることを示す象徴でもあった。

「微笑む騎士」フランス・ハルス 1624年 Wikipediaより
17世紀後半のフランスでは、ルイ14世の宮廷文化がヨーロッパ全体の服飾に大きな影響を与えた。ルイ14世は、自身の権威を示すために華麗な服装を好み、宮廷に集う貴族たちにも同様の装いを求めた。リボンで装飾された上着やブリーチズ、かつらや赤いヒールの靴などは、権力と威厳を象徴するものであり、当時の理想的な男性像を形作っていた。この時代において、装飾的であることは女性的であることを意味せず、むしろ洗練された男性らしさの表現であったと言える。

「ルイ14世の肖像」 リゴー 1701年 ルーブル美術館所蔵 Wikipediaより
しかし、18世紀後半から19世紀にかけて、男性服は大きな変化を迎える。フランス革命によって特権階級の象徴であった華やかな服装は否定され、市民階級が社会の中心となるにつれて、実用性や簡素さが重視されるようになった。さらに産業革命の進展により、活動的で合理的な服装が求められるようになり、男性服からフリルやリボンといった装飾は次第に姿を消していった。
この流れの中で登場したのが、19世紀のダンディズムである。ダンディズムとは、過度な装飾を避けながらも、仕立ての良さや着こなしの美しさによって洗練された男性像を表現する思想である。黒や濃紺を基調としたシンプルなスーツは、節度や理性を重んじる男性像を象徴し、現代の男性服の基礎となった。この変化によって、かつて男性服の象徴であったフリルやリボンは「女性的な装飾」と見なされるようになっていった。

「ウェリントン公爵とロバート・ピール卿」 ウィンターハルター 1844年 Wikipediaより
16世紀から18世紀のヨーロッパにおいての男性の誇張的な装飾は、身分や権力を表すためのものだった。では次に、日本における身分や権力を表す服装について考える。日本では、武士階級を中心に、裃や狩衣、直衣などが身分を示す服装として用いられてきた。これらの服装は、ヨーロッパのように華やかな装飾を多用するものではないが、色や文様、素材、着用できる場面が厳格に定められており、秩序や格式を重視する特徴がある。ヨーロッパが装飾の華やかさによって権力を示したのに対し、日本では規則性や形式によって身分が示されていた点が大きな違いである。
以上の考察から、16世紀から18世紀のヨーロッパ男性服が現代の私たちに女性的に感じられるのは、当時の人々の価値観ではなく、19世紀以降に形成された近代的なジェンダー観によるものであることが分かる。つまり、当時の服装が「女性らしい」と感じるのは現代を生きる私たちだけだ、ということだ。服装は社会構造や権力関係、時代の価値観を反映するものであり、男性らしさや女性らしさも固定されたものではなく、歴史的に変化してきた概念である。当時の男性服を現代の基準のみで判断するのではなく、その背景を理解することが、服飾史を学ぶ上で重要であるとこのレポートを通して感じた。
さらに、この考察は現代社会におけるジェンダーの問題を考える上でも重要なものと言える。服装や外見に対して、「男性らしさ」「女性らしさ」という固定概念を基準に個人の選択を制限する場面は少なくない。しかし歴史を振り返ると、かつては男性が装飾的な服装を身にまとっていた時代もあった。服装が持つ意味は時代や社会によって変化するものであり、特定の服装を性別と結びつける考え方は正しいものではないことが分かる。過去を学ぶことは現代の多様な表現を生み出すことにもつながることに気が付いた。
★参考文献
