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2026.02.05 授業活動学生の服飾史レポート「世界の服飾史における革新と流行」
こんにちは。ライフデザイン学科教員の青木正明です。
私が担当している授業「世界の服飾史」の課題の中で、学生が近世の服飾史で起こったできごとから「革新」と「流行」について興味深い考察をしてくださいました。創造的な現象が、最終的には没個性化につながる、という流れをわかりやすく解説してくださっています。ぜひ一度ご覧ください。
世界の服飾史における革新と流行
H. Y.(2024年度入学)
1.はじめに
本レポートでは、世界の服飾の歴史を「革新」と「流行」という二つの視点から考察する。時代を画するような革新的な服装やスタイルは、既存の常識や規範を踏み越える行為、あるいはそれらを意図的に破壊することによって生み出されてきたと言える。授業を通して、革新とは必ずしも連続的な改良の延長線上にあるものではなく、むしろ「それまで当たり前とされてきたことを疑う姿勢」から生まれるものであることに気付いた。コルセットによる身体規範への反発や、女性が一人でも着用できる服の発明など、服飾史における革新の多くは、登場当初は非常識、あるいは逸脱と見なされてきた事例である。本レポートでは、こうした世界の服飾史における具体例を取り上げ、革新がどのようにして誕生し、受け入れられていったのかを考察する。また、流行についても重要な視点として扱う。流行は、「創造」と「模倣」という一見相反する二つの側面を内包している。本レポートでは、世界の服飾史における具体例を取り上げながら、革新がどのように誕生し、いかにして流行として社会に受容されていったのかを明らかにしていきたい。
2.常識を破壊した服飾の革新的事例
2-1革新の定義と身体規範への挑戦
革新とは、新しいデザインや素材の導入にとどまらず、社会規範や身体に対する価値観そのものを問い直す行為でもある。その代表的な例が、女性の身体規範を象徴する衣服であったコルセットからの解放である。コルセットは近世18世紀のロココ時代に、パニエやストマッカーとともに着用され、女性のウエストを細く補正し、女性らしさを強調するために用いられていた。

1770-1790年頃のコルセット Fashion Museum Antwerpen所蔵 Wikipediaより
しかし、19世紀に入ると、コルセットが女性の健康に悪影響を及ぼすという指摘が医学的観点からなされるようになる。呼吸器疾患や肋骨の変形、内臓の損傷、さらには妊娠や出産への悪影響などが問題視された。その後、20世紀初頭における女性参政権の認可、New Woman思想といった、女性の社会進出が表れてきたことなどを理由に、コルセットをつけないスタイルが流行するようになる。この身体規範からの解放は、その後の女性服のデザインを大きく変化させる重要な転換点となった。
2-2性別規範を揺るがす服飾
性別役割や性別規範を揺るがした革新的な服飾の事例として、20世紀を代表するデザイナー、ガブリエル・シャネルの存在は欠かせない。20世紀初頭のヨーロッパでは、スポーツの流行や女性の社会進出を背景に、従来の装飾的で動きにくい服装に代わり、動きやすいデザインや素材への偏りが顕著になった。そのような時代の中で、シャネルは女性が一人でも簡単に着用でき、着心地の良い服を生み出した。彼女は本来男性服や作業着に用いられていたジャージー素材を女性服に取り入れ、装飾を極力排したシンプルなデザインを打ち出した。前世紀からのアール・ヌーヴォーに代わり、幾何学的で図柄がシンプルなアール・デコの特徴にも合致していた。

シャネルによるジャージー生地を用いた服 1917年発行ファッション誌”Les Elegances parisiennes”掲載 Wikipediaより
シャネルの発明は、女性が自ら行動する主体へと変化していく社会的な流れと強く結びついていた。これは性別規範を揺さぶる革新であると同時に、新たな女性像を提示する象徴的な存在であったといえる。
3.流行の成立「創造と模倣の関係」
3-1流行における「創造」
流行の出発点には、必ず「創造」や「革新」が存在する。創造的なものや革新的なものは登場当初は奇抜で理解されにくく、大衆から批判されることも少なくない。ミニスカートはその典型例である。ミニスカートが流行したのは20世紀後半だが、その形自体はそれ以前から存在していた。しかし当初はおかしな服という扱いで、一般化することはなかった。その後、変わったものが好きな若者がミニスカートを着用し始め、マリー・クワントが自分の店で販売したことをきっかけに、一気に注目を集めるようになる。この段階が、流行の前身となる「創造」の局面である。

マリークワントによる1967年発表の広告ポスター Image courtesy of The Advertising Archives
3-2模倣による拡大と流行の定着
革新的なスタイルが注目を集めると、それを模倣する人々が現れる。流行とは、特定の個人や集団の創造的行為が、多数の人々によって反復されることで成立する現象である。模倣が進むにつれ、そのスタイルは特別なものではなくなり、日常的な装いとして社会に定着していく。この過程で、革新は没個性化し、流行として完成する。このように、流行は「創造」と「模倣」という相反する要素によって支えられており、どちらが欠けても成立しないことが服飾史から読み取れる。
4.服飾史から見る革新と流行の意義
服飾の革新や流行は、その時代を生きる人々の価値観や願望を映し出す鏡である。コルセットからの解放やシャネルの服が広く受け入れられた背景には、女性の社会進出や自立への欲求が存在していた。革新が流行へと変化するためには、社会の方向性と一致していることが重要であることが分かる。
5.おわりに
本レポートでは、世界の服飾の歴史を「革新」と「流行」という二つの視点から考察した。性別規範や身体規範を逸脱する試みとして生まれたコルセットからの解放やシャネルの服は、当初は革新的であったが、模倣を通じて流行へと変化していった。しかし、流行は必ずしも一方向に進むものではない。近年見られるY2Kファッションや平成リバイバルのように、過去の流行が再解釈され、現代的な価値観と結びつくことで再び流行する現象もある。今後の服飾史においても、過去の革新が新たな形で再評価され、次の流行を生み出していくと考えられる。服飾の歴史とは、革新と流行が繰り返し交差する連続的な営みなのである。
★参考文献
岡本太郎(2022)『今日の芸術 時代を創造するものは誰か 新装版』光文社文庫
|1700s-1750sのコレクション|KCI デジタル・アーカイブス
コルセットの歴史。女性の身体の解放とフェティシズム。【FASHION ENCYCLOPEDIA Vol.3】 | Vogue Japan
ミニスカートはどうやって生まれた? 女性起業家の先駆けだったマリー・クワント(宮田理江) – エキスパート – Yahoo!ニュース
