京都光華女子大学 健康科学部 心理学科 ニュース 意識の裏側を流れる物語について②

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教員コラム

意識の裏側を流れる物語について②

【①からの続きです】

4. 学生・院生の思考力がのびる
当たり前のことかもしれない。毎晩、彼らは夢を見て、目覚めたら夢を記録する。つまり、寝ても覚めても「研究」しているのだ。自分の本音を探求していると言ってもいい。ゼミで指摘されたことは、自分の人生の物語にかかわることなので何よりも気になる。本を読んで調べることもある。実家に帰省して、親、親戚に尋ねて、自分の家の歴史を調べだした学生も多かった。ほとんどの学生は卒論、修論のテーマを自分で決めて書き上げてしまった。

5. 男女相互の理解を深め、尊敬の念をもつようになる
特に女性の心の発達が著しいことに男性があぜんとすることが多かった。結婚、出産はまだまだ先のことと学生は男女ともに考えている。しかし、女子学生の夢には「伴侶を選ぶ夢」「出産と育児の準備の夢」などが多いのである。

<1・女子学生の夢>
私は一人の男と暮らすことになった。新居は見知らぬ町で、不思議なことに女ばかりの町である。男は自分の夫だけである。

<2・男子学生の夢>
 私は大きな丸い石のような物の上であぐらをかいて座っている。精神統一しようと頑張っているのだ。しかし、気がちって仕方がない。気がちると座っている石がゆっくりと動き出すことに気がついた。やばい!と精神統一すると、止まるが、安心して気を緩めるとまた動き出すのだった。どこへ行くのかわからない。不安になって石の下の方をのぞき込んで見ると、それは大きな亀だった。亀は私の気のゆるみと連動しているのか、私の体の一部分みたいに歩き出そうとしていた。

<1・女子学生の夢>は、結婚の覚悟がテーマである。一人の男を選ぶということは、他の男性すべてをあきらめることに等しいのだ。結婚後は、夫以外のおとこがいない町にある新居に住むこととなる。

<2・男子学生の夢>は、下半身が意志の統率下にない、独自の意志()によって動く、という夢である。「下半身」とは性欲を言う。彼は精神統一、つまり意志の力を結集して自己の性をコントロールしようと努力している。しかし、それは、昔からの修行僧の「修行」のように困難なのである。

<1>には男子学生たちからの尊敬の念が感想として寄せられた。学生時代の男子の多くは、結婚は遠い未来にイメージされている。ところが同年代の女子が夢の中で「一人の男を選ぶ」ことを物語思考していることに気がつかされて感動したのだった。

<2>には女子学生たちから「精神統一、ご苦労様」とねぎらいの言葉が寄せられた。昔からの修行の一大課題である「男の性のコントロール」に眠りながら取り組んでいる男子学生はすごい、というわけである。と同時に、女の子から見れば不思議なほどに強い衝動性が男性にあることが印象的だったようである。

6. 夢からジブリへ
男女共学の大学ゼミで行ってきたグループ夢分析と似たことを京都光華女子大でしようとしている。それは「ジブリアニメ分析」である。学生の夢の代わりに「物語思考」の象徴化、具体化したアニメ作品を鑑賞し、夢分析の手法を学生に伝えたいと思っている。そのはじめの一歩となった「となりのトトロを考える」の一部分は以前にこのコラムで紹介したが、今後、「ハウルの動く城」「千と千尋の神隠し」なども授業に活かしているので紹介したく考えている。

藪添 隆一(2017年7月12日)