京都光華女子大学 健康科学部 心理学科 ニュース となりのトトロを考える~心理カウンセラーの視点から~@マイナビ進学フェスタ②

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となりのトトロを考える~心理カウンセラーの視点から~@マイナビ進学フェスタ②

【①からの続きです】

物語のクライマックスは、母の病気の悪化(実は風邪を引いた程度。約束していた一時帰宅が延期されただけ)、電報でわきおこったサツキの不安、それを見たメイの失踪、村を挙げての捜索、夕闇迫る中でのサツキの祈り「お願いトトロに会わせて」へのドラマチックな展開である。夕闇とともに死の不安(タナトス)が募るなかでの祈りによって、トトロへの道(けものみち)が開ける。悲運から幸運への転換である。サツキの願いを聴いてトトロは一瞬にして了解する。全部、まるごとわかるのである。

みなさんは、自分のことがまるごとわかってもらえた感動を経験したことがあるだろうか?自分が今、相手に伝えようとしていることが、そっくりそのまま伝わっているとの実感!そのとき相手の人は、トトロなのかもしれない。

長い爪の手でサツキの二の腕をやさしく包み込む。その動きは精妙で、動き自体がやさしさなのである。トトロは意味不明に笑う。神の笑いは人間にとっては意味不明なのだ。大木の梢に上昇する。雄叫びで猫バスを呼ぶ。メイを乗せて、見送るトトロ。猫バスはトトロの分身なのだ。

行き先を願えば、願い通りに最短距離を疾走する猫バスに世の中の人々は気づかない。犬は気づいて吠えている。メイを探し当て、メイの願いの、母親の入院先七山病院に直行し、心配するほどのこともなかった母と見舞いにきている父を姉妹と猫バスは窓の外の木の上から見ている。物音がして父と母は窓辺を見るとメイがずっと抱きしめていた見舞いのトウモロコシがある。「いま、そこの松の木の上でサツキとメイが笑ったように見えたの」と母が父に言う。

夢だけど夢じゃなかったことを証明する木の実、発芽、とうもろこしが「心の世界」と「現実の世界」をつないでいる。つなぐ力は「イメージ」「祈り」なのである。事実と夢をつなぐイメージと祈りには「真実」を私たちに観せてくれる力がある。

臨床心理学は、もともと「異常心理学」と呼ばれていたとおり、現実離れした言動を来した人を理解し、治療しようとして発達してきた心理学である。つまり、悪夢とも言うべき悲運と悲惨の中で苦しむ人々とともに悪夢の裏側に希望を見いだしていく仕事なのである。悪夢をよき夢に転じる心理臨床的な力を生み出す授業を高校生に紹介できたとしたら、彼らの進路が開かれる契機となるかもしれない。

やはり、宮崎駿アニメには恐るべき力がある、と私は思った。なぜなら、京都光華女子大学のブースには、開始前から長蛇の列ができていて、男子高校生までもが大勢来ていたのだった!

藪添 隆一(2017年7月27日)