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教員コラム

我が家のアニマル・セラピー

私は、環境心理学でごみ処理問題や地球温暖化など人間の心理と環境の関連性について話をしているが、その中でも多くの学生さんがより興味をもたれるのがアニマル・セラピーである。アニマル・セラピーとは、動物を介在した治療的介入(活動)であり、病院や養護施設などの様々な場所で動物とのふれあいを通じて人が癒されている。ただし、人畜感染症など衛生管理上の問題があるため、日本の施設には思いのほか浸透しない反面もある。アニマル・セラピーの効用としては、リラックスやくつろぎ作用などの心理的利点、乗馬療法にみるリハビリなどの生理的利点、そして人間関係の潤滑油などの社会的利点があげられる。

7年前に私は自分が決断した手術で愛犬を突然失った。そのため「もう絶対犬は飼わない」と心に決めていたが、縁あっていまの愛犬ソラが来てくれた。最初は、私が前の犬を忘れられずどうしても比べてしまい、なかなか心が通じていると思えなかった。私の年齢のこともあり、正直言って毎日の散歩が「きついな~」って思うこともある。しかし、3年たって、大人ばかりの私の家族に多くの笑いと癒しを与えてくれていると実感できるようになった。

実は、この原稿を書いている最中、89歳の母が終戦記念日の黙とうをするために姿勢を変えたとたん「こむら返り」を起こし、突然イタイイタイと騒ぎ出した。クーラーのきいた応接間で腹を出して爆睡していたソラが、いち早く母のそばへ駆け寄った。一歩遅れた姉と私が母の両足をマッサージしていると、ソラは「私は何をしたらいいの?」と言わんばかりに私たちの周りをうろうろし、痛がる母の顔をのぞき込んだりなめたりする。私が「ソラはそこでみていてくれればいいからね!」というと、ずっと母の枕もとで母を見つめていた。母もソラに手を伸ばし、「痛い痛い!大丈夫だからね!いたたた~~!かわいい顔してるねソラ!」と悲鳴とやせ我慢を繰り返している。母が痛いというとソラの顔が曇るから(母にはそう見えるらしい)、ソラに心配させまいと一生懸命なのだ(私たちには、そこ違うだの、そこさわらないで!だの文句ばっかり言っていたのだが)。ほんの30分ほどの出来事だったが、ソラがいたことで母はこむら返りと闘う気力をもらい、私たちはそれに感謝した。このソラ・セラピーによって日々私たち家族は癒されている。

人は、他の動物の命を委ねられた存在である。地球の環境如何によっては絶滅を余儀なくさせられる動物もいるし、もっとミクロレベルでいえば、ペットの幸せは飼い主にかかっている。私もその一人として、私に委ねられたソラの命をかけがえのないものと考え、できる限り愛おしんで一緒に暮らしていきたいと思う。

「原稿書けたよ!」と振り返ると、ソラはまた腹をだして爆睡していた。

川西 千弘(2016年8月20日)