防災リュックの重さの目安、「成人男性15kg・成人女性10kg」という数字を見て、中身にこだわって準備したのに、実際に持ってみると重すぎる…。「これで本当に逃げられるの?」そう感じる方は多いと思います。
私、若いころにイベント会場設営のアルバイトをしたことがあるんです。ある日、集合したときに上司から言われたのは「今日は呉服のイベントだから」でした。なーんだ、服なら余裕じゃん?と思って気合い十分、運搬を始めましたが、完全に舐めてましたね。呉服がパンパンに詰められた箱って、めちゃくちゃ重いんですよ。開始10分で無表情になったサトウですこんにちは。1週間体が動きませんでした。
私のアルバイトはなんとかやり切りましたが、災害時にはそんな賭けみたいなことはできませんよね。いざ災害が起こったときに「想定外の重さ」で深刻な状況とならないよう、今回は防災リュックの重さについて考察していきます。
- 防災リュックを準備しているが、重さが不安な方
- 「とりあえず10kg詰めた」状態の方
- 体力に自信がない方
一般的に言われている防災リュックの重量目安

防災リュックの重量目安として、「成人男性15kg、成人女性10kgが目安」とされていることが多いですね。例えば政府広報をはじめ、広島県、横須賀市など多くの自治体もこの目安を掲載しています。
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では、この重量が体重の何%を占めるのでしょうか。厚生労働省「国民健康・栄養調査(2019年実施)」によると、日本人の20〜29歳の平均体重は男性67.6kg、女性52.0kgです。これをもとに計算すると以下のようになります。
| 体重 | 防災リュック(目安) | 体重に対する割合 | |
|---|---|---|---|
| 男性 | 67.6kg | 15.0kg | 22.2% |
| 女性 | 52.0kg | 10.0kg | 19.2% |
出典:厚生労働省「国民健康・栄養調査(2019年実施)」
平均体重で考えると、防災リュックの重量は体重の約20%前後になることがわかります。では、この「体重の約20%」という重さは、避難行動において妥当なのでしょうか?研究論文を紹介しながら考えていきます。
体重の20%は重すぎる?—避難行動の実験から
まず、「避難行動とバッグの重さ」という、この記事のテーマに直接関連する黒田ら(2022)の研究では、女子大学生が被験者となり、体重の約20%の防災バッグを背負った状態での避難行動の実験を行っています。この実験は垂直避難、つまり階段を登っていくものでしたが、身体的負担が大きく、論文の中では「安全な避難が困難になる可能性も考えられる」と記されています。

少なくとも垂直避難という高負荷条件においては、多くの防災ガイドラインが「目安」として示している重量は過負荷になる可能性が考えられます。
運動学・バイオメカニクスから見た「荷重のボーダーライン」
次に、運動学の観点から見てみましょう。直井ら(2014)の研究では、リュックサックを用いることによる姿勢改善への効果が整理されていますが、一方で体重の15%負荷は腰部へのリスクという点から避けるべきであるとも指摘されています。
また、運動学・運動力学の観点から「リュックの荷重はどのくらいに制限した方がよいか?」については諸説あり、「体重の20%の荷重は避けるべき」とした研究(Lehnen et al., 2017)、「体重の10%を制限とすべき」という通説を紹介しているもの(Grimmer et al., 2002)などが存在します。姿勢や歩行スピードなどに影響を及ぼすことが考えられるためです。
「リュックサック」というバッグの特性上、私が調べた限りではこのような研究は子ども(学校の生徒)を対象としたものが多いような印象です。成人を対象とした研究が少ない中で、子どもを対象とした研究から得られた知見を傍証として参照しておきます。
Brackley and Stevenson(2004)の研究でも紹介されているように、バックパックの重量は体重の10%〜15%を制限とすることが推奨されており、米国小児学会(American Academy of Pediatrics)でも、子どもが背負うリュックの重さを「体重の15%以上にしないよう」同様に推奨しています。また、男子小学生を対象としたChen and Mu(2018)の研究では体重の5%、10%、15%のリュックサックを用いた比較を行っており、体重の15%の荷重は避けるべきと結論づけられています。Singh and Koh(2009)の研究では、体重の20%のリュックを背負った場合、無負荷時に比べて歩行や姿勢の安定性が異なったとも報告されています。
これらはいずれも子どもを対象とした研究であり、一般的に成人は子どもより筋力・骨格が発達しているため、同じ体重比の荷重への耐性は高いと考えられます。そのため「成人にそのまま当てはめることはできない」という点は念頭に置く必要があります。一方で、荷重が姿勢や歩行に与える力学的な影響は大人と子どもで完全に別物ではないと考えられ、参考となる点はあるのではないかとサトウは考えます。
なお、登山という身体的負荷の高い活動でさえ、ザックの重さの目安は「体重の10%〜15%」と言われることもあります。安保ら(1998)では、初心者が安全に登山を行うには(体重の40%との比較にはなりますが)10%のザック重量が望ましいとされています。計画的・体力のある登山者でもこの数字である以上、緊急時の避難行動ではより慎重な重量設定が求められると考えられます。
サトウは「体重の10〜15%」説を推したい
以上の研究を概観すると、直接的なエビデンスは限られているものの、防災リュックの重量は「安全な避難行動を取れること」を重視すると体重の10〜15%に収めることが一つの目安として考えられます。もちろん、個人の体力・体格・避難経路の状況によって最適な重さは異なります。あくまでも「自分にとって走って逃げられる重さか」を判断するための参考値としてお使いください。日本人の平均体重で換算すると、具体的にはこうなります。
| 体重 | 目安の重量(10%) | 目安の重量(15%) | |
|---|---|---|---|
| 男性 | 67.6kg | 6.8kg | 10.1kg |
| 女性 | 52.0kg | 5.2kg | 7.8kg |
出典:厚生労働省「国民健康・栄養調査(2019年実施)」をもとに算出
私は講演などで「防災リュックの目安は成人男性15kg、成人女性10kgです。これ以下に収め、かつ実際に背負って走れるか確認しよう」と伝えています。15kgや10kgを実際に背負って走ってみると、身体に相当な負荷がかかることがわかって頂けると思います。大事なことは「災害が起きる前に自分で試してみる」です。
防災リュックを揃えたら、実際に背負って10分歩いたり走ってみてください。「重い」と感じた時点で、避難行動では確実に支障が出ます。中身を見直すサインです。
防災リュックから何を削ればいいの?—「ちょっと防災」アクション
「でも、必要なものを入れたら10kgを超えてしまう……」という方も多いと思います。
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何を削るかの優先度はこちら
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優先度の整理は既存記事に譲りますが、軽量化の基本的な考え方をここで1つだけ伝えます。防災リュックの中身を「命に直結するもの」と「あれば便利なもの」に分けてください。災害発生直後に命をつなぐために本当に必要なものだけを優先する。それだけで多くの場合、重量はかなり削れます。
さいごに:重さは自分で決める
この記事は「成人男性15kg、成人女性10kg」という防災リュックの目安を否定するものではありません。繰り返しになりますが、大事なのは「自分にとって走って逃げられる重さか」を確認すること。「命をつなぐために必要なものは何か」にこだわること。それは人それぞれ違います。この2つを叶えられる重さを自分で見つけていきましょう。
「ちょっと防災」、今日から始めてみてください。
このブログは、学生や地域の皆様が防災の基本を体系的に学べる「オンライン防災教本」を目指して、本学教員である筆者の研究・教育成果に基づき作成しています。
実際の災害時は現場の状況に応じた柔軟な判断が求められます。記事に含まれる情報の活用は読者の皆様の判断と責任において行っていただきますようお願い申し上げます。また、記事の内容は大学の公式な見解や推奨を意味するものではありません。なお、記事に含みうる誤りに関する一切の責任は筆者に帰属します。
- 黒田慎太郎, 森村和浩, 高木亮, 松本希, 飯田智行 (2022).「防災バッグ持ち出し時における保育者の運動強度及び身体的負担」. 岡山体育学研究, 29巻, pp.17-22.
- 直井俊祐, 勝平純司, 丸山仁司 (2014).「リュックサック使用が歩行動作の運動学・運動力学的変化に及ぼす影響—若年者と高齢者を対象として—」. 理学療法科学, 29巻6号, pp.923-926.
- Lehnen, G.C., Magnani, R.M., Souza, G.S.S., Rodrigues, F.B., Andrade, A.O. & Vieira, M.F. (2017). Effects of backpack loads and positions on the variability of gait spatiotemporal parameters in young adults. Research on Biomedical Engineering, 33(4), pp.277–284.
- Grimmer, K., Dansie, B., Milanese, S. et al. (2002). Adolescent standing postural response to backpack loads: a randomised controlled experimental study. BMC Musculoskelet Disord, 3, 10.
- Brackley, H.M., Stevenson, J.M. (2004). Are Children’s Backpack Weight Limits Enough?: A Critical Review of the Relevant Literature. Spine, 29(19), pp.2184-2190.
- Chen, Y.L., Mu, Y.C. (2018). Effects of backpack load and position on body strains in male schoolchildren while walking. PLoS ONE, 13(3): e0193648.
- Singh, T., Koh, M. (2009). Effects of backpack load position on spatiotemporal parameters and trunk forward lean. Gait & Posture, Vol.29(1), pp.49-53.
- 安保真一, 青山賢吾, 星島葉子, 鳥越康江, 山元健太, 山口英峰, 斉藤剛, 小野寺昇, 松井健 (1998). 大山登山におけるザック重量の違いがRPEと心拍数に及ぼす影響(第1報)−対体重ザック重量10%と40%の比較−. 登山医学, Vol.18, pp.83-88.
- American Academy of Pediatrics.「Backpack Safety」(閲覧日:2026年3月2日)
- 厚生労働省「国民健康・栄養調査(2019年実施)」(閲覧日:2026年3月2日)
- 広島県「みんなで減災」はじめの一歩.「防災グッズ一覧」(閲覧日:2026年3月2日)
- 横須賀市.「非常用持ち出し品・非常用備蓄品の準備」(閲覧日:2026年3月2日)
- 奈良県.「防災教育コンテンツ「土砂災害から身を守ろう」」(閲覧日:2026年3月2日)
