2026.03.31 ぼうさいらぼ

「電気の次はガス」は間違い? 地震後のガス復旧が長期化する理由と、今できる備え

「地震の後、ガスが止まった」この経験をされた方は多いと思います。でも、すぐ復旧するでしょ?いやいや、その考えは甘いと言わざるを得ません。

わたしが東京へ出張したときのこと。ランチは、前から行きたかったお店に決めていました。きっと並ぶんだろうなぁ……よし!開店前に並ぼう!意気揚々とお店に着くと、誰もおらずなんと1番でした。テンション上がり気味で待つ……あれ、誰も後ろに並ばないな……もう開店時間だぞ……隣の店はもうオープンして繁盛してるな……さすがにおかしいと思って、ふと店の前の張り紙をみたら「定休日:水曜」の文字(その日は水曜)。開かないお店の前で1時間もじっと立っていたサトウですこんにちは。誰か教えてよ!

「開く」と思い込んでいたお店が、実は最初から開かない日でした。あなたも「ガスはすぐ復旧する」と、根拠なく思い込んでいませんか。「もうすぐだろう」と待ち続けることが、被災後の生活を一番しんどくします。今回は、インフラのうち「ガス」に着目して、復旧の順番と、ガスがなかなか復旧しないことを想定した備えについて解説します。

この記事でわかること
こんな人におすすめ!
  • 「地震の後にガスが止まったら何もできない」と思っている方
  • カセットコンロをまだ持っていない方
  • 「ガスはすぐ復旧するでしょ」と思っていた方

なぜ地震でガスが止まるのか

現代の都市ガスや一部のプロパンガス(LP)には「マイコンメーター」が設置されています。このメーターは内部に地震センサーを持ち、震度5程度以上の揺れを感知すると自動的にガスを遮断します。

「なぜわざわざ止めるのか」と思う方もいるかもしれませんが、理由は簡単です。地震による配管の破損・接続部の損傷が確認されていない状態でガスを流し続けると、ガス漏れ→火災・爆発のリスクが生じるためです。安全のために、ガスを遮断するんですね。

また、プロパンガスの場合は各家庭のガスボンベに設置された「緊急遮断弁」も同様に作動します。

マイコンメーターが止まっただけの場合(ガス管に損傷がない場合)は、一定の手順を踏めば自分でガスを復旧させることができます。ただし、大規模地震後は「自分での復旧を試みる前に、ガス会社の案内を必ず確認する」ことが大原則です。

参考:東部ガス「マイコンメーター」 https://www.tobugas.co.jp/safety/system/meter/

「電気・水道・ガス」の中でガスが最後に復旧する理由

大規模地震後のライフライン復旧には、おおよそ共通する順番があります。

1位:電気(数日〜1週間程度が目安)

発電所・変電所が無事であれば、電線の修復だけで通電できることが多い。

2位:水道(1ヶ月弱が目安)

地下の配管を修復する必要があるが、幹線から順に復旧していく。

3位:都市ガス(1〜2ヶ月以上が目安)

ガスが最も時間がかかる理由は、復旧が「全戸確認必須」のプロセスだからです。

参考:日本気象協会「備蓄品はこれが必要」 https://tenki.jp/bousai/knowledge/48ae160.html

ガスは電気・水道と異なり、「管を修復して圧力をかければOK」ではありません。すべての家庭で「ガス管に損傷がないか・家の中にガス漏れがないか」を1件1件確認し、開栓作業を行ってからでないと供給を再開できません。これが復旧に時間がかかる最大の理由です。「ガスが止まったら長期戦」という認識が正しいのです。

ガス復旧の「4つのハードル」

「地区のガス復旧」というニュースを聞いても、すぐに自宅でお湯が使えるわけではありません。都市ガスの再開には、最新のITシステムを駆使しても省略できない4つの工程が存在します。

ガス作業員のイラスト
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第1段階:全戸閉栓(最優先の安全確保)

ガス漏れによる二次災害を防ぐため、ガス会社はまず被災エリアすべての家のメーターを閉めて回ります。東京ガスネットワークが運用するリアルタイム地震防災システム「SUPREME(シュープリーム)」においても、この「閉栓作業」が工程の筆頭に置かれています。この作業が完了しない限り、次の修復ステップへは進めません。

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第2段階:幹線修復と供給ブロックの気密試験

ガスを運ぶ主要な「幹線」を直しつつ、供給エリアを数千戸単位の「ブロック」に細分化します。ブロックごとに空気圧試験を行い、網目状に張り巡らされた配管に漏れがないかを徹底的に調査(漏えい調査)します。

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第3段階:地区別の供給再開

ブロックごとの安全が確認され、道路下の配管にガスが送り込まれた段階で、ようやく「地区の復旧」が広報されます。しかし、この時点ではまだ各家庭のガスは使えません。

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第4段階:個別の「開栓作業」と点火試験

最後に、作業員が一軒ずつ訪問し、宅内のガス管の安全確認と点火試験を行います。

  • 居住者の立ち会い必須:宅内に入る必要があるため、立ち会いがなければ開栓できません。
  • 不在時のタイムラグ:作業員が訪問した際に不在であれば、後回しにされます。これが「地区は復旧したのに、うちはまだ」という数日から数週間のタイムラグを生む最大の原因です。

参考:東京ガスグループ「地震対策」 https://www.tokyo-gas.co.jp/network/anzen/restoration/index.html

ガスなしで乗り切るための具体的な方法

「調理・給湯・暖房」——この3つがガスに依存していることが多いです。それぞれの代替手段を整理します。

調理

最優先の代替手段:カセットコンロ+ボンベ

カセットコンロは停電でも使えます。ガス・電気が両方止まっても調理が可能な唯一の家庭用調理器具です。

ボンベの備蓄本数について
カセットボンベ1本(250g)の強火での燃焼時間は約1時間が目安です(岩谷産業調べ)。1人1日あたり1〜2本程度消費する計算になるため、1週間分なら最低でも7〜14本の備蓄が望ましいです。「まず6本以上」を目標に、できる限り多めに備えておきましょう。
⚠️ 一酸化炭素中毒に注意:カセットコンロは必ず換気しながら使用してください。密閉した部屋での使用は一酸化炭素中毒の危険があります。窓を開けて使いましょう。
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給湯・入浴

ガスが止まると、給湯器が使えなくなります。電気があればケトルや電気ポットでお湯を沸かすことはできますが、シャワー・入浴には代替がありません。

そのとき役に立つのが以下のグッズです。

ウェットティッシュ(除菌タイプ)

ふき取り清拭に。水を使わずに体の汚れを拭き取ることができます。

ドライシャンプー

水を使わずに髪を清潔に保てます。長期戦になるほど活躍します。

また、大規模災害後、自治体が銭湯・スーパー銭湯と協定を結んで被災者に無料開放するケースがあります。自治体の情報をこまめにチェックしましょう。

暖房(冬季)

冬場の停電+ガス停止は、低体温症のリスクに直結します。代替手段として有効なのは以下の通りです。

石油ストーブ

電源不要。灯油さえあれば動く最も頼れる暖房手段です。

カセットガスストーブ

カセットボンベで動くタイプ。カセットコンロと燃料を共用できる利点があります。

毛布・寝袋での保温

電気毛布は停電では使えないため、化繊・ウール素材のものを備えておきましょう。

電気がある状態でのホットカーペット・電気ヒーターは使えますが、停電を見越した「電気に頼らない暖房手段」を1つ持っておくことが大切です。

「ガスが止まっているとき」にやってはいけないこと

大規模地震後にガスが止まっている場合、自己判断での「ガスの復旧操作(開栓)」は危険です。ガス会社のスタッフが安全確認を行っていない状態で開栓すると、見えない場所でのガス漏れが点火によって爆発・火災につながることがあります。

マイコンメーターの復帰操作(震度5程度の揺れで作動した場合の自分での復旧)については、ガス会社の案内が出てから行うようにしてください。大規模地震直後は「ガス会社の指示を待つ」が原則です。

まとめ

今回のポイント
  • ガスが止まるのは「設計通りの安全動作」。想定内として備える
  • 電気・水道・ガスの中でガスが最後に復旧する。2ヶ月以上かかることも
  • ガス復旧にはいくつものハードルがある。地区でガスの復旧が行われても、自分の家で使えるとは限らない
  • 代替手段:調理=カセットコンロ、給湯=ウェットティッシュ・ドライシャンプー、暖房=石油ストーブ
  • 大規模地震後の自己判断での開栓は厳禁。ガス会社の指示を待つ

「ガスが止まったらどうしよう」を「止まるのはわかってる。だから準備してある」に変えられると、被災後の生活の質は大きく変わります。

「ちょっと防災」、今日から始めてみてください。

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Author

サトウ先生|博士(工学) / 防災士
京都光華大学 社会学部 社会共創学科
「専門知識を、わかりやすく身近に。」これまで数々の自然災害を目の当たりにしてきた実体験をもとに、防災に関する大学での講義や地域での講演を行っている。南国出身のため雪にはとっても不慣れで、京都での最大の災難は大雪のときに滑ったことだと思っている。摩擦係数の計算は得意だが、雪道の滑りやすさは計算外だった。だが、その失敗さえも防災の教訓に変えてしまうのが私のスタイルだ。実に面白い。
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このブログは、学生や地域の皆様が防災の基本を体系的に学べる「オンライン防災教本」を目指して、本学教員である筆者の研究・教育成果に基づき作成しています。
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参考・出典
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