京都光華女子大学 短期大学部 ライフデザイン学科 ニュース AIは「電気羊」の夢を見なくても何とかなる?

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AIは「電気羊」の夢を見なくても何とかなる?

ライフデザイン学科教員の相場です。

本学科では後期に「情報社会の未来を知る」という科目があります。現在の情報社会を特徴づけるさまざまなキーワードを理解し、情報社会の未来について自分の考えを持てるようになろうというものです。3名の教員によるオムニバス形式の授業で私も担当しています。取り上げるキーワードには「AI(人工知能)」「IoT」「5G」「ブロックチェーン」などがありますが、その中の1つに「Society 5.0」があります。「Society 5.0」には論ずべきいろんな切り口がありますが、ここではその1つを取り上げたいと思います。

Society 5.0」とは、提案されている未来社会像の1つで、その技術面での肝は「サイバー空間とフィジカル空間(現実空間)の融合」です。現実社会をサイバー空間の中でシミュレートし、それに対してAIがさまざまに分析し、その結果に基づき現実社会へ政策提言を行おうというものです。なんだかNHKのドラマ『17才の帝国』を彷彿とさせますね。そこではAIの能力が重要な問題の1つです。

さて、一方、現在のAIは、意外なことに、ものごと、あるいは言葉の意味を理解できません。したがって、当初は、「理解」が必要な分野では対して役に立たないだろうと思われてきました。ところが、AIは最高の頭脳ゲームの1つである囲碁や将棋で人間よりはるかに強くなっており、クイズ大会でも人間のチャンピオンを破るまでになっています。意味を理解できないにも関わらずです。

となると、「意味を理解していないというのは実はそれほどの障害ではなく、AIは実際にはどんな問題をも解決できる能力を持っているのでは」と期待したくなります。これに関連して、次のような興味深いプロジェクトが走りました。「AIは東大に合格できるか」というプロジェクト(2011~2016年)です(そのAIは「東ロボくん」と呼ばれました)。さて、このプロジェクトの結果はどうなったでしょうか?プロジェクトの結果は「何らかのブレイクスルーがない限り、東大合格は不可能」ということでした。2016年11月東大合格は断念されました。というわけで、意味を理解できないAIの限界が露呈する形で終わりました。毎年東大には3千名ほど合格しています。東大に合格できないAIはそんなにすごくはないと言えるかもしれません。

というわけで、現状では、AIは意味が理解できなくて、そのためにできない課題があるということになっているわけです。では、今後はどうなるでしょうか?ここでは3つの可能性を挙げておきたいと思います。

(1)AIはやはり意味が理解できないままだが、それ以外のところでブレイクスルーが起こり、意味を理解できないことはそれほどの障害ではないことが判明し、東大も合格し、多くの問題を解決できるようになる

(2)人間の持つ理解力をシミュレートするアルゴリズムが開発され、AIも意味を理解できるようになる。その結果、東大合格はもちろん、多くの問題を解決できるようになる

(3)人間の持つ理解力は非アルゴリズム的(プログラム不可能ということ)な性格のものであることが判明し、AIは原理的に意味が理解できないことが明らかになる。さらに、理解力がないと解けない問題というカテゴリーが存在することが明らかになる。そこに属する問題は実は膨大に存在し、このカテゴリーの問題に対してAIは無力である

このうち、(1)の場合が、冒頭にあげたタイトルにつながるのですが、はてさて、現実はどう動いていくでしょうか?