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教員ブログ

深い理解はシンプルな理解

ライフデザイン学科教員の相場です。

少し古い話なのですが、2000年に当時の短大の情報担当の先生方と共著で、『情報技術と情報社会』(学術図書出版)という本を書きました。私は「第1章 情報とその役割」を担当し、さまざまな側面から見た「情報」の位置づけや人間の情報処理の特徴(非アルゴリズム仮説)を論じました。その中で書いたことで、その後の進展を踏まえ補足したいことがあるので、この場を借りて説明しておきたいと思います。

それは、「マクスウェルの悪魔」のパラドックスをどう解決するかについての話題です。情報概念と物理学(特にエントロピー概念)との関係を論じるために取り上げたトピックです。

せっかく(?)なので「マクスウェルの悪魔」については「チャットGPT」に説明してもらいましょう。チャットGPTによると・・・

マクスウェルの悪魔のパラドックスは、熱力学第二法則に関するパラドックスです。熱力学第二法則によれば、熱が自然に高温から低温に移動するため、熱源がある限り熱は自発的には逆の方向には移動しません。

しかし、マクスウェルは、仮想的な悪魔を使って熱力学第二法則を破ることができるかどうかを考えました。悪魔は、二つの部屋ABを分け、二つの部屋をつなぐ小さなドアを開閉できます。初めに、両方の部屋に同じ温度の気体があり、ドアは閉じられています。悪魔はドアを開いて、高速度の分子だけが部屋Aに移動し、低速度の分子だけが部屋Bに移動するようにすることができます。このようにして、部屋Aの気体はより高い温度に、部屋Bの気体はより低い温度になります。

これにより、熱力学第二法則が破られるように見えます。」

余談ですが、最初、少し説明が長かったのでチャットGPTに「コンパクトにして」と依頼すると上のようになりました。・・・うーん、正確かつコンパクトです。(次のブログのテーマは「チャットGPT」にしよう)

さて、この本の中では、このパラドックスの解決を次のように説明しました:悪魔は気体分子の速度を測定するために光子を気体分子にあて、散乱された光子をキャッチする必要があります。そのとき悪魔の熱(≒エントロピー)が増えるので、気体と悪魔の全系に対しては、熱力学第二法則は破られていません。

これはこれで間違った説明ではないのですが、光子を使った測定という特殊な状況に依拠した説明になっています。マクスウェルの悪魔という一般的なパラドックスの解決策としては特殊な状況に依拠しているので少しもやもやします。実際、より一般の測定では必ずしも熱は必要ない場合もあります。その後、解決に向けていろんな試行錯誤があったのですが、どうも複雑でもやもやします。

その状況が2010年ごろ一変します。「情報熱力学」(『非平衡統計力学』沙川貴大、共立出版)という分野で、このパラドックスは非常にシンプルにかつ完全に解決したのです。これは極めて大きな前進なので強調しておきたいと思います。

簡単に言うと、次のようになります:サブシステム1とサブシステム2があるとします。その場合、2つのサブシステム間に相関がある場合、一見サブシステム1エントロピーは減る場合があるのですが、その場合でも全系のエントロピーは減っておらず、熱力学の第二法則は破られていません。

「目からウロコ」のシンプルさです。いきなりエントロピーという言葉を使ってしまいましたが、それでも「一般的かつシンプルに理解できるようになったんだろうな」という雰囲気は伝わると思います。

以上、「説明がごちゃごちゃするのは理解が中途半端な証拠、さらに深く理解すると説明もシンプルになる」という体験の紹介でした。