京都光華大学 短期大学部 ライフデザイン学科 ニュース 読書の秋におすすめ。『黄泉のツガイ』から『遠野物語』へ。

ニュース

専門分野コラム

読書の秋におすすめ。『黄泉のツガイ』から『遠野物語』へ。

こんにちは。京都光華大学短期大学部ライフデザイン学科教員の久世奈欧です。

 

みなさま荒川弘先生の『黄泉のツガイ』(『月刊少年ガンガン』(スクウェア・エニックス)連載中)という漫画をご存じですか?先ごろアニメ化もされ、人気を博している漫画です。夜と昼を分かつ双子のユルとアサ、そして人間に力を貸す「ツガイ」という神様のような妖怪のようなUMAのような存在を軸に物語が展開する、妖怪好きにはたまらない作品です。

この作品の舞台の一つに、「東村」と呼ばれる村が出てきます。この村は主人公・ユルと双子の妹・アサの出身地であり、「下界」と呼ばれる現代社会からは隔絶された、中世~近世頃の生活を守る村として描かれています。

この「東村」を作る際、作者の荒川弘先生は柳田国男の『遠野物語』の舞台である遠野郷をモデルにしたと語っておられます(『黄泉のツガイ』第6巻特装版小冊子、荒川弘インタビュー、2024年)。作中には、ザシキワラシやオシラサマなどのキャラクターや、村の周辺の風景などに『遠野物語』の要素が見て取れます。

『遠野物語』を読んでいると、この「東村」のモデルになったと思われる村が登場しているので、紹介したいと思っております。

「東村」は普通の人には見えず、また、たどり着けないとされます。作中では、この村の周辺の山では行方不明になり見つかっていないままの人が多いとも言われ、「マヨイガ」のある山だと評されることもあります(第2話)。この「マヨイガ(マヨヒガ)」というのは、柳田國男『遠野物語』(明治43年初版、聚精堂)に出てくる言葉です。

柳田國男は、民間伝承などを通じて日本の民衆の生活や文化を明らかにするため、民俗学という学問を打ち立てた人物です。『遠野物語』は岩手県遠野郷に伝わる不思議な伝承を数多く紹介しており、彼の著作の中でもっとも有名なものとなっています。特に冒頭の「願はくはこれを語りて平地人を戦慄せしめよ」という文章には痺れます。

さて『遠野物語』では「マヨヒガ」とは、「山中の不思議なる家」と表現されます。山中にあるが、ふつうは到達することができない隠里のようなもので、稀にそこに迷い込む人がいて、その人がその家のものを持ち帰ると裕福になれるともいいます。なお、『黄泉のツガイ』のユルとアサの母親も「東村」に迷い込んだ「下界」の人でした。

『遠野物語』では、この「マヨヒガ」がある場所として、白望山という山が出てきます。白望山では不思議なことが多く起こり、夜中に突然明るくなるとか、人気もないのに大木を伐る音や歌声が響くとか、金の樋や杓があったが取りに戻るとなくなっていたなどです。また、5月ごろに白望山を遠くから眺めると、桐の花が咲き誇る場所がありまるで紫色の雲のようであるが、その場所には決して近づくことはできないということです。

一方、『黄泉のツガイ』には、東村に住んでいた男女のザシキワラシが出てきます。その女の子のザシキワラシの名前は、キリといいます。彼女の名前の由来は、「東村の山に咲くキリのハナがとてもきれいだから」(第28話)。

「東村」が、マヨイガがある山にあること、また、桐の花が美しく咲くところから、「東村」は『遠野物語』の白望山をイメージしているのではないかなと考えました(なお「東村」の山城は、奈良県高取城跡をモデルにしていると明言されています)。

本学の「サブカルチャー論」でも、『遠野物語』を扱っています。『黄泉のツガイ』を楽しんでいる皆さん、ぜひ『遠野物語』をお読みになり、懐かしいような、ひんやり怖いような…民間伝承の妙味をぜひ感じていただきたいと思います。