エンパワメントの語源はエンパワー(能力や権限を与える)です。
これがソーシャルワークの手法となっていった歴史の背景には、アメリカの公民権運動があります。
17世紀から19世紀にかけて、アメリカ合衆国では黒人をはじめとする有色人種に対して激しい人種差別があり、黒人を奴隷とすることが「合法」とされていました。
そうしたなか、1950年代から1960年代にかけて、アメリカ合衆国の黒人(アフリカ系アメリカ人)が、選挙に参加できる権利や人種差別の解消を求めて運動を行いました。
これを「公民権運動」といいます。
そして1976年にソロモン(B.Solomon)が『黒人のエンパワメント(Black Empowerment):抑圧されている地域社会によるソーシャルワーク』を著し、ソーシャルワーク分野でのエンパワメントの重要性を指摘しました。
ソロモンは、黒人が社会の差別を受けたことにより生きる力を失っている状態を解消させるために、エンパワメントの実践の必要性を訴えました。
エンパワメントの基本的な考え方は、能力や権限は本人が本来持っているものであるというものです。
そして、本来持っているはずの能力や権限が、社会的制約によって発揮できない状態に陥っていると考えます。
具体的に例をあげると
書くことが苦手な学生がいたとします。
そしてその学生は、本を読んだり実験したりと学ぶことは好きですが、書くことが苦手なため、板書したり、試験で記述したりすることが難しく、時間内に書ききることができません。
そのため、試験の点数が悪く、ノートなどもきれいに書けていないため、成績があがらず、希望する進路に進むことが難しい状況です。
こうした場合、この学生の本来もっている「本を読むことが好き」「実験が好き」などの能力が、「試験は書いて答える」「ノートはきれいに書く」といった社会的制約によって発揮できない状況に陥っているのです。
ソーシャルワークはこうした状態に対して「本来の本人の力が発揮できるようにするにはどうしたらいいか」を考えます。
先ほどの書くことが苦手な学生の場合、例えば「試験で口頭で答えることを認める」「携帯機器で黒板の写真をとってノート代わりにすることを認める」などの手立てをとったり、本人の得意な実験の機会に活躍できるように役割を与えたりするようにします。
さらに、本来の力を発揮できるようになることで、その方が自信をもち、自分で自分のことについての意思決定ができるようになっていくことにつながっていきます。
先ほどの例にあげた学生も、口頭での回答を認められたり、黒板を写真に撮ることが認められることで、「学びたい」という意欲を削がれることなく、本来のその学生が持っている学習意欲が活性化され、本を読んだり実験をしたりすることがさらに促進されるでしょう。
すると、その学生の進路ややりたいことも自分で選択していくことができるようになります。
このようにその方の本来の力が発揮できるようになっていくことを「エンパワメント」と言います。
ソーシャルワーカーとして、社会的弱者の方々を支援するとき
「子どもだから」
「女性だから」
「高齢者だから」
「障害があるから」
という理由で社会的制約を与えられている場面に多く出会います。
そうしたときに、その方の本来持っている力はなんだろうかと考え、その力を発揮する方法を検討します。
「本来持っている力」を考えるときに重要なのが「ストレングス」という視点です。
ストレングスについての詳細は下記のブログを参照してください。
ストレングスモデル~「できないこと」より「できること」に着目~
その方のストレングスをに注目し、ストレングスはその方の本来持っている力であると考えます。
また、そのストレングスを活かせるような方針を考え、実行していく中で、その方のさらなるストレングスが発見されることがあります。
例えば先ほどの学生は「本を読むのが好き」「実験をするのが好き」というストレングスを見つけていて、実験をするときにはその学生を中心としてグループで実験をするという授業を行っていると、その学生が他の学生にわかりやすく実験の説明をしていたとします。
そうすると「人に説明をするのがうまい」という新しいストレングスが発見されるのです。
また、障害によって社会的制約ができてしまう状況に対して、障害のない人と同じように行えることを目的に行う対応を「合理的配慮」といいます。
字を書くのが苦手な学生に対して黒板を写真に撮ってもいいという対応をとることも合理的配慮になります。
合理的配慮についての詳細は下記のブログを参照してください。
合理的配慮~眼鏡をかけることはズルい?~
こうしてどんどん、その方の力が発揮されていく状態も「エンパワメント」といいます。
「〇〇だから仕方がない」とあきらめてしまうのではなく、「どうしたらあきらめずに済むのか」を考え、社会を変えていく働きを行います。
こうした社会にへの働きをソーシャルワークと言います。
こうした発想に関心がある場合にはぜひ社会福祉士・精神保健福祉士を目指しましょう!
浜内彩乃
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