京都光華大学 短期大学部 ライフデザイン学科 ニュース 世界が愛する藍染めについて ~その1

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世界が愛する藍染めについて ~その1

こんにちは。ファッション分野担当教員の青木正明です。

今回は、個性派ぞろいの天然染料の中でも“かぶきもの”として紅花(紅花についてはその1その2その3をご覧ください!)と双璧を成す「藍」のお話をさせて頂こうと思います。
藍も紅花に負けず劣らず不思議な染料でして、色彩、植物や色素の性質、そして染め方に至るまで全く話題に事欠かない変わりものです。どこから話してよいものか迷うくらいなのですが、まずは植物と色の話からスタートしてまいりましょう。

世界で愛された藍染め

藍染めと言えばなにやら日本独特の文化といったイメージを持つ方が多いかもしれませんが、そんなことはありません。藍染め文化は世界各地に息づいています。私たちの住む東アジアからインドまでの南アジアにかけた各地域、中央~東西アジア、南~北ヨーロッパ、アフリカ、中、南アメリカと、本当にどこも必ず藍染文化があったのです。

マメ科のナンバンコマツナギ。中南米でマヤの時代から藍染めに使われていた植物です。
マメ科のナンバンコマツナギ。中南米でマヤの時代から藍染めに使われていた植物です。

藍染めができる植物は、実は地域によって種類が全く違います。ですが面白いことに、その植物で染まる青色は全て同じ「インジゴ」という物質です。これには少し理由がありそうでして、植物や動物が体の中に持つ色素の中で、色落ちしにくく染まってくれる青色のものが、たまたまでしょうけどこのインジゴ以外にほとんど無いのです(鉱物であれば銅化合物できれいな青はいくつもありますが水に溶けないので染料としては使えませんし、花の青はアントシアニンというもろい物質で染色には不向きです)。
すこしややこしいのですが、インジゴは動植物の体の中では「インジカン」という物質の状態で潜んでいます。このインジカン、実は結構ありふれた物質です。その辺の植物、例えば芝生やタンポポなどにも入っていますし、少量であればおそらく多くの植物が持っているのではないかと思います。このインジカンをたくさん持っていると藍染めができる植物となります。インジカンを大量に持つ植物となるとその種類は限られますが、人類がそれほど苦労せずとも探せるくらいの確率で世界中に生息していたのだろうと思います。世界中の人間が昔から青色が欲しくていろいろ探していたら、たまたまその土地に生えていたインジカンをたくさん持っている植物がアブラナ科、マメ科、タデ科の植物から見つかって、結局どの地域の民族も藍染めに行きついていた、ということなのでしょうね。


アブラナ科のホソバタイセイ。欧州ではwoad(ウォード)と呼ばれるこの植物で藍染めをしていました。

ジャパンブルーに行きつく歴史

わが国で昔から使われている藍は、タデ科の一年草、「アイ」というそのままの名称の植物です。ですがこのアイ、実は日本原種の植物ではなく中国から渡ってきました。残念ながら我が国にはたまたまインジカンをたくさん持っている植物が身近にいなかったのでしょう、おそらく古墳時代~飛鳥時代にその特殊な染色方法と共に伝わったと考えられています。
ちなみに、古事記に「青摺りの衣」という表現が出てきますが、この“青摺り”は藍染めではなく、「ヤマアイ」という全く違う植物の葉を揉みこすったのではないか、という見方が染色研究家の間では優勢です。ヤマアイの体の中にはインジカンのような青色になる物質がありません。葉の緑が生地に移るだけでそれほど濃い青にはならず、しかも簡単に水で落ちてしまいます。藍が日本でメジャーになった奈良時代以降も、古文献には「藍」のほかに「青摺」が別々に記載されている事から、中国から渡ってきた藍染め文化とわが国独自のヤマアイを、儀式や祭事によって使い分けていたのではないかと推測されています。

こうして日本にも伝わった藍の文化が大きく花開くのは江戸時代ですが、そのきっかけは日本での“コットンブーム”。戦国時代あたりから各地で栽培され始めたコットンは、社会が安定した江戸時代に民衆の繊維素材として一気に広まります。このコットンと藍染め、非常に相性が良いのです。
本来コットンは天然染料では染まりにくいのですが、なぜか(まだ化学的に解明されていません)藍を使うとコットンや麻など植物繊維は良く染まってくれるのです。江戸時代は貴族や上流武士の文化が史上初めて庶民にも広がった時期でして、町では市民のための染色がスタートしましたが、その中でも藍染めの木綿地はいくつもの条件が偶然重なり庶民に広く浸透していきました。そして、現在のような、日本を代表する色といえば藍染めの青、-ジャパンブルー- といったイメージにつながります。


タデ科のアイを乾燥させたもの。アイに限らず、藍染めができる植物は乾燥すると葉がこのような紫がかった暗い色になります。

次の機会には、藍の染色方法の解説に進みたいと思います。天然染料の中で最も化学的な手法を駆使しているといっても過言ではない藍染めのメカニズムをできるだけ簡単にお話しますね。