
大学の授業では、先生から専門知識を学ぶ講義や実習だけでなく、学生自身が問いを立て、調査し、考え、その成果を社会へ発信する「演習」や「ゼミ」と呼ばれる授業があります。
答えがあらかじめ用意されているとは限りません。自分で調べ、人に話を聞き、異なる情報を比較しながら、「なぜだろう」と考え、自分なりの答えをつくっていく。そこに、高校までの授業とは少し違う大学ならではの学びがあります。
京都光華大学社会学部社会共創学科の平松隆円准教授が担当する、キャリア形成学部キャリア形成学科3年生のゼミでは、2026年度後期のプロジェクトとして、「京都はなぜチョコレートの都になったのか」をテーマに調査を進めています。
今回、その調査成果をどのように発見し、整理し、読者へ届けるのかを学ぶため、『関西ウォーカー』『東海ウォーカー』などの編集長、そしてウォーカー総編集長を歴任した玉置泰紀さんをゲスト講師にお迎えしました。
「京都×チョコレート」を編集者の視点から考える
平松隆円准教授のゼミでは、京都にチョコレート専門店や個性的なブランドが存在していることに注目し、なぜ京都でチョコレート文化が広がったのか、京都らしいチョコレートとは何か、伝統文化の都市・京都と西洋由来のチョコレートはどのように結びついたのかといった問いを立てています。
学生たちは今後、店舗、ブランド、歴史、観光、食文化、消費者行動など、さまざまな視点から京都のチョコレート文化を調査します。
しかし、調査して情報を集めるだけでは、研究は終わりません。大切なのは、集めた情報のなかから何を見つけ、どのような意味を与え、どう人に伝えるかです。そこで今回、「街の情報を編集する」専門家として玉置泰紀さんから学ぶことになりました。
「ウォーカー」は、街の楽しみ方を届けてきたメディア
ウォーカーシリーズの原点となる『東京ウォーカー』は1990年に創刊され、その後、関西、東海など各地域へ展開してきました。レストラン、イベント、映画、観光、ショッピングなど、街で楽しめる情報を紹介する都市情報メディアとして、多くの読者に親しまれてきました。
玉置泰紀さんは、同志社大学文学部を卒業後、産経新聞社に入社。神戸支局や大阪本社社会部などで記者として経験を積み、その後、福武書店、角川書店へと活躍の場を広げました。KADOKAWAでは、『関西ウォーカー』をはじめ複数の雑誌の編集長、ウォーカー事業統括部長、ウォーカー総編集長などを歴任しました。
また、たんに雑誌をつくるだけでなく、地域の魅力発信やまちづくりにも関わり、現在は一般社団法人メタ観光推進機構の理事としても活動しています。まさに、「街のなかにある価値を見つけ、それを人に伝える」専門家です。
編集とは「店を並べること」ではない
今回の授業で学生たちが学んだ大きなポイントの一つが、「編集とは何か」ということです。
京都のおいしいチョコレート店を調べ、写真を撮り、住所や営業時間を並べれば、情報誌らしいものはつくれます。しかし、それだけでは「京都はなぜチョコレートの都になったのか」という問いには答えられません。
玉置泰紀さんは、都市情報誌の編集について、たんに店を紹介するのではなく、「街の見方、歩き方を読者に手渡すこと」だと学生たちに紹介しました。
同じ街でも、見る人やテーマが変われば、まったく違う街に見えてきます。寺社仏閣から見れば、歴史都市・京都。大学から見れば、学生の街・京都。映画のロケ地から見れば、映画の街・京都。そして、チョコレートを手がかりに歩けば、これまでとは違うチョコレートの街・京都が見えてくるかもしれません。
「メタ観光」の視点で京都を歩く
授業では、「メタ観光」という考え方についても学びました。
観光というと、有名な寺社や観光スポットを訪れることを想像するかもしれません。しかし、一つの場所には、歴史、食、マンガや映画、音楽、地形、産業など、さまざまな価値が重なっています。それらを異なる視点から重ね合わせて地域を見ることで、今まで気づかなかった魅力を発見することができます。
たとえば京都の街を「チョコレート」という視点で歩くと、なぜこの場所にこの店があるのか、京都の伝統的な素材とチョコレートはどのように組み合わされているのか、観光客向けの商品と京都の人が日常的に買う商品には違いがあるのかといった新しい問いが生まれてきます。
有名な観光地を見るだけではなく、自分でテーマを設定して街を見る。それが、今回のゼミで実践する「メタ観光的な視点」です。
調査成果は「ZINE」にまとめます
今回のプロジェクトでは、最終的に学生全員で一冊の「ZINE(ジン)」を制作します。ZINEとは、個人や少人数のグループが、自分たちの関心やテーマをもとに自由に編集・制作する小冊子のことです。
一般的な観光ガイドや研究レポートとは違い、文章、写真、イラスト、地図、インタビューなどを組み合わせながら、自分たちなりの視点でテーマを表現できることが特徴です。今回制作するZINEでも、たんに「おすすめチョコレート店10選」といった情報を並べることは目指しません。
店の歴史、商品の背景、京都という土地との関係、作り手の思い、街の変化、学生自身が歩いて見つけた発見。そうした情報をつなぎ合わせながら、京都のチョコレート文化をどのような物語として読者に届けるのかを考えていきます。
調べる力だけでなく、「伝える力」を身につける
大学で研究すると聞くと、図書館で本を読んだり、データを分析したりする姿を思い浮かべるかもしれません。もちろん、それも重要です。
しかし、研究成果は、相手に伝わって初めて社会のなかで生きてきます。誰に伝えるのか、何を一番伝えたいのか、どの順番なら理解しやすいのか。情報を集めることと、その情報を編集して伝えることは、別の力です。
今回の授業では、玉置泰紀さんの編集者としての経験を通して、その違いを学生たちが学びました。

「好き」を入口に、街や社会を研究する
チョコレートが好き。カフェ巡りが好き。京都が好き。雑誌やSNSを見るのが好き。
大学では、そんな身近な「好き」も研究の入口になります。そこから、なぜ人気があるのか、なぜこの街に集まるのか、誰が価値をつくっているのか、どのように情報が広がるのか」と問いを深めれば、文化、観光、マーケティング、ブランド、メディア、地域社会など、さまざまな学問につながります。
平松ゼミの「京都はなぜチョコレートの都になったのか」というプロジェクトも、チョコレートを食べ比べるだけの授業ではありません。
身近な食文化から京都という街を読み解き、自分たちで問いを立て、現地を歩き、人に話を聞き、その成果を社会へ伝えるプロジェクトです。
社会共創学科につながる「文化×地域×メディア」の学び
今回紹介したのは、キャリア形成学部キャリア形成学科3年生のゼミですが、こうした学びは、平松隆円准教授が所属する社会学部社会共創学科にもつながっています。
社会共創学科では、社会学を基盤として、文化、経営、心理、観光、データサイエンス、情報、デザインなどを分野横断的に学びます。特に文化共創コースでは、食、ファッション、化粧、マンガ、アニメ、音楽、メディアなど、身近な文化から社会を読み解き、その魅力を新しい商品、サービス、イベント、観光、情報発信へつなげることを考えます。
文化を知る、地域を歩く、人に話を聞く、情報を分析する、新しい見方を社会へ届ける。こうした一連の学びこそ、社会共創学科が大切にする「共創」の実践です。
京都のチョコレートを、学生はどう編集するのか
今回、玉置泰紀さんから「街を見る視点」と「編集する視点」を学んだ学生たちは、これから本格的な調査に入ります。
学生自身が京都の街を歩き、チョコレートショップを訪れ、歴史や文化を調べながら、「京都とチョコレート」の関係を読み解いていきます。そして最後に、それぞれが発見した情報を一冊のZINEにまとめます。
同じ京都を歩いても、学生によって見つけるものは違うはずです。その違いを持ち寄り、一つの冊子として編集するとき、どのような「チョコレートの街・京都」が浮かび上がるのでしょうか。学生たちが制作するZINEの完成にも、ぜひご注目ください。



