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教員コラム

ツバメから思う脳の仕組み 3(完結編)

さて、この連載を楽しみにしてくださっている読者の方こんにちは。もちろん、楽しみにしておられない方もこんにちは。
今日は、ツバメから思う脳の仕組み その3です。

そんなにツバメのことばかり考えていて大丈夫か?というような声も聞こえてきそうですが、私も一日中ツバメのことを考えているわけではないのでご安心ください。しかも、今回はツバメきっかけではありますが、ツバメから遠く離れてきてしまいました。気圧を感じる脳の仕組みです。

前回は、鳥の仲間が持っている傍鼓膜器官という気圧感知装置の話をしました。この装置が、魚類の側線器官から進化したものだ、という話も書きました。それでは、この仕組みは魚、鳥どまりなのでしょうか?こんな便利な装置を、進化の中で我々は捨ててしまったのでしょうか?我々の祖先は、今日が雨かどうかもわからず狩りに出かけたりしていたのでしょうか?実は、鳥以外では爬虫類に同じ器官があることをNeeserさんらのグループが突き止めています(Brain, behabior and evolusion, 2002)。彼らは、インコの仲間、ワニの仲間、アルマジロについて傍鼓膜器官の有無を調べています。結果として、インコのような、上のくちばしを激しく動かすような鳥には傍鼓膜器官がなさそうだということ、一方でワニには認められたことを報告しています。哺乳類の中で、系統的に古い種に属するアルマジロですが、アルマジロには傍鼓膜器官と同じようなサイズと構造の仕組みはある一方で、そこにあるはずの有毛細胞(圧力を感知する細胞)がどうも存在しないようだ、と報告しています。謎ですね。アルマジロの段階で我々はこんな便利なものを捨ててしまったのでしょうか?Comparative anatomy of the paratympanic organ (vitali organ) in the middle ear of birds and non-avian vertebrates: focus on alligators, parakeets and armadillos – PubMed (nih.gov)

この疑問に対して、中部大学の佐藤らが、ネズミを使った実験をしています
(Plos one, 2019)。これは、直接傍鼓膜器官を探すというやりかたではなく、気圧変化を感じる仕組みが内耳に残っていないかどうかをネズミで調べるという実験です。佐藤らは、気圧を変えることが可能な部屋にネズミを入れて、気圧変化をさせた後で脳を調べ、延髄にある上前庭神経核で神経伝達が行われた痕跡を発見しました。哺乳類では三半規管あるいはその一部である球状嚢と呼ばれる部分が、気圧を感知して延髄に伝達しているのではないか、というわけです。佐藤らは、このことが気圧が関係する頭痛などに関連しているのではないかと推測しています。気圧感知の悪い面もあるということですね。。。

さて、ここまで長々とみてきましたが、そうなると今度は系統樹の下のほうが気になります。脊椎動物以外はそういう能力はないのか?ということです。実は、昆虫の多くが、気圧の変化を感じ取れるのではないかと考えられています。真面目に論文を引くのもしんどくなってきましたが、例えばPellegrinoらは、気圧変化に伴って昆虫の行動が変化する様子を様々なデータから論じています(Plos one, 2013)。我々に身近なところでは、セミも雨が降っている間は鳴かないことが知られています。これは、雨の時に鳴いても、雨の間は昆虫は空を飛ばないので(濡れると飛べなくなったり弱ったりするため)オスの鳴き声にメスが反応するわけがないから、とされています。セミもちゃんと天気予報ができるわけです。この仕組みについては、いろいろと過去の論文を調べてみましたが、わかっていることはあまりなさそうです。もしかしたら気門(呼吸のための穴)などにそういう仕組みがあるのかもしれませんね。Weather forecasting by insects: modified sexual behaviour in response to atmospheric pressure changes – PubMed (nih.gov)