京都光華女子大学 短期大学部 ライフデザイン学科 ニュース 魚を情報デザインする(4) 「サーモンってどんな魚?」

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魚を情報デザインする(4) 「サーモンってどんな魚?」

こんにちは!
情報分野担当の辻野です。

今年度の教員ブログは、「魚の情報デザイン」について書いています。第1回は「タラの食べ方」、第2回は「魚の卵」、第3回は「お寿司のネタと生物学」でした。

 

1.回転寿司の人気者

みなさん、回転寿司で好きな「ネタ」は何ですか?

 

マルハニチロの「回転寿司に関する消費者実態調査 2022」によると、「回転寿司店に行った際に最もよく食べているネタ」の1位は「サーモン」です(表1)。「最もよく食べている」理由には、「脂がのっていておいしいから」などが挙がっています。


1 回転寿司店に行った際に最もよく食べているネタ[単一回答形式]


 


「最もよく食べているネタ」の割合が分かりやすいように、円グラフにしたのが図1です。


図1 回転寿司で最もよく食べているネタの割合


次に、「最初に食べることが多いネタ」の1位も「サーモン」です(表2)。


2 回転寿司店に行った際に、最初に食べることが多いネタ[単一回答形式]



さらに、「シメに(最後に)食べることが多いネタ」も「サーモン」が1位です(表3)。


3 回転寿司店に行った際に、最後に食べることが多いネタ[単一回答形式]


回転寿司では、サーモンが人気のネタということがよく分かります。

と、いうわけで今回のネタは「サーモン」です。

 

2.「サケ」という魚

多くの人が好きな「サーモン」ですが、いったいどんな魚でしょう?

結論から言うと、「サーモン」は特定の魚を指す言葉ではなくて、サケの仲間の「総称」です。

まず、サケの仲間の全体像を分かってもらうために、生物分類の「サケ目」の概要を図にしました。(図2)。


図2 サケ目の概要



サケ目は「サケ科」のみで、サケ科は「シロマス亜科」、「カワヒメマス亜科」、「サケ亜科」の3つに分かれます。カワヒメマス亜科とシロマス亜科の魚には、もともと日本に生息している在来種はいません。このため図2では、シロマス亜科とカワヒメマス亜科の属は省略しました。

そして「サケ亜科」は、「コクチマス属」、「ニシイトウ属」、「イトウ属」、「イワナ属」、「タイセイヨウサケ属」、「サケ属」の6つに分かれます。イワナ属・イトウ属・サケ属には在来種がいますが、コクチマス属・ニシイトウ属・タイセイヨウサケ属には在来種がいません。

日本では、「タイセイヨウサケ属」の魚の中では、ブラウントラウトタイセイヨウサケが流通しています。タイセイヨウサケは、アトランティックサーモンという名称で売られています。中でもノルウェーで養殖されたものは、ノルウェーサーモンというブランド名で流通しています。

「サケ属」には、サケシロザケ)、サクラマスといった在来種や、ニジマスなどがいます。サクラマスは、富山県で有名な「ます寿司」(図3)の材料として使われています。


図3 ます寿司


このサクラマスの生活史を模式図にしました(図4)。



4 サクラマスの生活史


サクラマスは、雌雄のペアで産卵をします。卵から孵った子どもは、そのまま川で育つとヤマメと呼ばれる陸封型に育ちます。一方、海に降るとサクラマスと呼ばれる降海型に育ちます。ヤマメサクラマスは同じ「種」ですが、育ち方によって外見が大きく異なります。大きく育ったサクラマスは自分が生まれた川を遡り(母川回帰)、ペアを作って産卵し、その後に寿命が尽きます。

サケ科の魚には、サクラマスのように降海型と陸封型の両方がいるものと、サケのように降海型のみや、陸封型だけのものがいます。

 

3.「サーモン」とは

それでは、話を「サーモン」に戻しましょう。

「図2 サケ目の概要」からサケ亜科を取り出して図にしました(図5)。枠の中の黒字は、日本の在来種、または日本で流通している魚の標準和名です。サケ属の魚の標準和名には、「サケ「ザケ)」が入っているものと、「マス」が入っているものの両方があり、魚の分類上は「サケ」と「マス」を分ける基準がありません。


図5 「サーモン」の範囲


辞書の広辞苑によると、「さけ」には複数の意味があります。狭義の「さけ」はサケ属のサケ(別名シロザケ)【図5の①】で、広義の「さけ」は「サケ科サケ属」の魚です【図5の②】。

加工食品は、食品表示法に基づいて、食品アレルギーの原因となる物質(特定原材料)を表示しています(アレルギー表示)。魚介類では、「えび」と「かに」が該当します。「さけ」は、特定原材料に準じるものとして表示が推奨されています。食品表示の詳細は、参考資料の「知っておきたい食品の表示」を見てください。

食品表示の「さけ」は、タイセイヨウサケ属(サルモ属)とサケ属のうち陸封型を除くものを意味します【図5の③】。海で養殖したニジマスは、「さけ」に含まれますが、陸封型は含まれません。

これだけでも、「さけ」には3つの意味があります(表4)。

4 「さけ」の意味


また、「さけ」と同じ意味を示すものとして、「鮭」、「サケ」、「サーモン」、「しゃけ」、「シャケ」が代替表示として認められています。このため、回転寿司では、表4の③の意味で「サーモン」を使っていると思われます。

この他に、「食品表示基準Q&Aについて」の別添「魚介類の名称のガイドライン」では、標準和名以外に使うことができる一般的名称が示されています(表5)。

 

5 一般的名称の例

 

 

4.魚の「なまえ」

標準和名、一般的名称、種名といった様々な呼称が出てきたので、ここで整理しておきましょう。

標準和名は、日本語の共通名です。図6の左側の魚の標準和名は「サケ」、右側は「ニジマス」です。「サケ」は、地方や季節によって呼び方が変わります。

生物の分類は、上位の階層から下位に向かって、界、門、綱、目、科、属、種が基本です。さらにその間も必要に応じて分けます。「サケ」と「ニジマス」は、ともに「サケ目 サケ科 サケ亜科 サケ属」の魚です。

学名は、世界共通の名称です。分類の属名と種名を組み合わせて使います。これは、リンネという人が考えました。

これ以外に、それぞれの地域の言葉でも、魚の名称が付いています。

 
6 サケとニジマスの「なまえ」

 

5.回転寿司の「サーモン」

サーモン」は特定の魚の名称ではなく、複数の魚を表す総称として使われているということが分かりました。

大手回転寿司チェーンのウェブサイトで公開している「アレルゲン情報」と「原材料・原産地情報」を調べると。回転寿司で「サーモン」としてよく使われているのは、タイセイヨウサケアトランティックサーモン)、ニジマスサーモントラウト)、ギンザケのようです。いずれも、品質が安定している養殖物が使われています。もちろん、この3種以外の魚が使われることもあります。


図7 回転寿司のサーモン


余談ですが、サーモンの身の色は、餌の甲殻類に含まれるアスタキサンチンの色です。このため、餌によって身の色が変わります。


最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
次に回転寿司に行ったときに、みなさんは何を食べますか?



 〇
使った画像
・魚、食べ物、人物:いらすとや,https://www.irasutoya.com/

・図、表、グラフ:PowerPointで自作


〇参考資料
書籍
・井田齊、奥山文弥著、「改訂新版 サケマス・イワナのわかる本」、山と渓谷社、2017
・ぼうずコンニャク、藤原昌髙()、【マイナビ文庫】すし図鑑ミニ ~プロもビックリ!!~、マイナビ出版、2018

ウェブサイト
・消費者庁、「食品表示法等(法令及び一元化情報)」、https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_labeling_act/
・消費者庁、「知っておきたい食品の表示」、https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/information/pamphlets/assets/food_labeling_cms202_220131_01.pdf
・消費者庁、「食品表示基準Q&A」、https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_labeling_act/assets/food_labeling_cms201_220615_13.pdf
・消費者庁、「魚介類の名称のガイドライン」、https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_labeling_act/assets/food_labeling_cms201_220615_11.pdf

 ・マルハニチロ、回転寿司に関する消費者実態調査 2022、https://www.maruha-nichiro.co.jp/corporate/news_center/news_topics/20220316_research_sushi2022.pdf

・かっぱ寿司、「アレルゲン情報」、https://www.kappasushi.jp/master_data/pdf/info_allergen.pdf
・かっぱ寿司、「原産地情報」、https://www.kappasushi.jp/master_data/pdf/info_origin.pdf
・くら寿司、「アレルゲン カロリー情報」、https://www.kurasushi.co.jp/common/pdf/kura_allergen.pdf
・くら寿司、「原材料・原産地情報」、https://www.kurasushi.co.jp/common/pdf/kura_rawmaterial.pdf
・スシロー、「アレルギー情報」、http://www3.akindo-sushiro.co.jp/pdf/menu/allergy.pdf
・スシロー、「原材料原産地情報」、https://www3.akindo-sushiro.co.jp/pdf/menu/origin.pdf
・はま寿司、「カロリー・アレルゲン情報」、https://www.hamazushi.com/assets/menu/pdf/allergen.pdf
・はま寿司、「原産地情報」、https://www.hama-sushi.co.jp/assets/menu/pdf/origin.pdf



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