賃貸に住んでいる方に質問します。もし地震で部屋の壁にひびが入ったら、修理費は誰が払うのでしょうか。「大家さん?」「自分?」「保険?」意外と即答できない方が多いのではないでしょうか。
わたしがとある職場で働き出した頃の話です。オフィスの掃除をしていて、高いところを掃除したかったので脚立…ではなく椅子に乗って作業していたんですね。そうするととても不安定で。バランスを崩して椅子からダイブ!横にあったコピー機のトレイを破壊してしまいました…もう真っ青ですよ。「ヤバい、絶対怒られる」と半泣きになりながら当時の上司へ報告。そしたら「業務中に起こった破損だから経費で直しておくよ」と優しいお言葉が。神…!と思いながらその上司が光って見えたサトウですこんにちは。あっ、もちろん後光が差しているという意味ですからね!
何かが壊れたとき「誰が払うか」は、立場や状況によって変わります。災害も同じです。本日は特に賃貸物件で起こった破損を「誰の負担で直すのか」、状況に分けて解説していきます。
- 賃貸に住んでいる方(学生・新社会人を含む)
- 火災保険・地震保険の内容を確認したことがない方
- 「被災後の賃貸のお金の話」を一度整理しておきたい方
建物の修理費は原則「大家の負担」
地震で建物の壁・天井・窓・共用設備などが損傷した場合、その修理費は原則として大家(貸主)の負担です。
根拠は民法第606条です。「賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う」と定められています。建物そのものを維持・修繕する責任は大家にあります。
ただし例外があります。「借主(入居者)の故意または過失による損傷」は入居者の負担になります。たとえば地震とは無関係に、自分の不注意で壁に穴を開けた・水回りを壊したといったケースは入居者負担です。
地震による損傷はほとんどの場合「天災(不可抗力)」として扱われ、入居者の過失ではないため、原則として大家負担になります。
自分の家財・家電の損害は「自分の保険」の話
建物は大家の責任ですが、建物の中にある「自分の家財・家電・衣類・パソコン」などの損害は、大家は補償してくれません。これらは入居者自身が加入している保険でカバーする必要があります。
賃貸契約時に加入する「火災保険(家財保険)」がここで機能します。多くの賃貸契約では、入居時に火災保険への加入が必須とされています。この保険の「家財」部分が、自分の所有物の損害を補償します。
注意:地震による家財の損害は「火災保険」ではカバーされない場合が多い
火災保険の基本的な補償範囲には「地震・噴火・津波」による損害が含まれていないことがほとんどです。地震による家財の損害をカバーするには「地震保険」への加入が必要です。
「自分の火災保険に地震保険が付いているかどうか」これを今すぐ確認することをお勧めします。
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「原状回復」と災害被害の関係
退去時に問題になりやすいのが「原状回復」です。
原状回復とは、退去時に「入居前の状態に戻す」義務のことです。ただし、国土交通省のガイドラインでは、「通常の使用による劣化・損耗(経年変化)」は原状回復の対象外とされています。
では、地震による損傷はどうなるか
天災(地震・台風等)による損傷は入居者の過失ではないため、原状回復義務の対象にはならないのが原則です。
つまり「地震で壁にひびが入った」ままで放置していた場合、それを退去時に入居者が修理費を負担して直す必要はないとされています(個別の状況によって異なる場合があります)。ただし、そのひびが「本当に地震によって生じたものか?」を退去時に証明するのは難しいですよね。地震によって損傷を受けた場合、(身の安全を確保した上で)写真に撮って記録する、大家に報告するなどの行動をとるようにしましょう。
火災保険の「地震保険」は別物:今すぐ確認すること
賃貸契約時に加入する火災保険と、地震保険は別の保険です。
- 火災保険:火災・水害・風害などによる損害を補償。多くの賃貸で加入必須。
- 地震保険:地震・噴火・津波による損害を補償。火災保険に付帯する形で加入。
地震保険は火災保険とセットで加入する必要があります。火災保険だけでは、地震による損害は補償されません。
「自分が地震保険に入っているかどうか知らない」という方はすぐに確認してください。保険証券(または保険会社のアプリ・マイページ等)で確認できます。
また、地震保険の補償対象は「建物」と「家財」の2種類です。賃貸の場合「建物」は大家が加入するものです。入居者が加入する地震保険の補償対象は「家財」になります。
被災後に大家・管理会社に対してやるべきこと
被災後、大家または管理会社への連絡を早めに行うことが重要です。
やること1:被害状況を写真で記録してから連絡する
連絡前に、被害の状況(壁のひび・窓の破損・設備の損傷など)を写真で記録してください。記録がないと、後から「被害がなかった」「程度が軽かった」と言われても反論できません。
やること2:修理の前に大家の同意を得る
応急修理が必要な場合は、大家または管理会社の同意を得てから行うことが原則です。勝手に業者を呼んで修理した場合、費用の負担関係でトラブルになることがあります。
やること3:修理完了まで住めない場合の対応を確認する
被害が大きく住み続けられない場合、家賃の減額・免除、仮住まいの手配などについて大家と話し合う必要があります。民法第611条では「賃借物の一部が滅失等により使用・収益できなくなった場合、賃料は当然に減額される」と定められています。
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まとめ
- 建物の修理費は原則「大家の負担」(民法第606条)。地震による損傷は天災として入居者の過失にあたらない
- 自分の家財・家電の損害は「自分の火災保険(家財保険)」の問題
- 地震による家財の損害は「地震保険」がないとカバーされない:今すぐ確認する
- 退去時の原状回復に地震による損傷は含まれないのが原則
- 被災後は写真を撮ってから大家に連絡。勝手に修理しない
「契約書をちゃんと読んでいなかった」という方、今からでも遅くありません。今日、自分の火災保険・地震保険の内容を確認するだけで、いざというときの備えが一つ整います。
「ちょっと防災」、今日から始めてみてください。
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実際の災害時は現場の状況に応じた柔軟な判断が求められます。記事に含まれる情報の活用は読者の皆様の判断と責任において行っていただきますようお願い申し上げます。また、記事の内容は大学の公式な見解や推奨を意味するものではありません。加えて、この記事は法的アドバイスを目的とするものではありません。個別の状況については専門家(弁護士など)にご相談ください。なお、記事に含みうる誤りに関する一切の責任は筆者に帰属します。
