2026.07.25 ぼうさいらぼ

「プールで地震が来たとき、水の中にいる方が安全」という説は本当か:災害発生から避難のフェーズに分けて考える

プールの水中を泳ぐ人を下から見上げた写真。中央に大きく「プールで地震にあったとき 水の中 にいる方が安全説は本当か?」、下部に「災害発生から避難のフェーズに分けて考える」と記載された、防災士・研究者監修の記事サムネイル

夏になるとプールに行く機会が増えます。泳いでいるとき、ふと思ったことはないでしょうか。「もし今、地震が来たらどうなるんだろう。このまま水の中にいた方が安全なんじゃないか」と。結論から言うと、この考え方は半分正しく、半分間違っています。水中にいること自体は落下物のリスクを減らすという意味で一定の利点がありますが、問題はその後です。プールの中、プールから上がった後、あるいはプールから上がる過程に、それぞれ見落とされやすいリスクが潜んでいます。

わたしが旅行に行くとトラブルに巻き込まれるのは、ブログを読んでくださっている方の中ではお馴染みだと思いますが(?)、今回は国内での話です。夜、ホテルの部屋で休んでいたら非常ベルが鳴り出しました。もう慣れたもの、「どうせ誤報だ」と思っていたら、日本の消防の方は優秀ですね。あっという間にホテル前に消防車と救急車が大集結しました。一応窓から地面を見ましたよ、7階くらいだったかな。「うん、飛び降りて逃げるのは無理!」と思ったのと同時に「下の階から煙が出てないからセーフ!」と訳のわからない理論で自分を納得させたサトウですこんにちは。場合によっては燻製になっていたかもしれません。

サトウの例は結局誤報だったので動かなかったことが正解でしたが、もし本当に火災で、慌てて窓から逃げようとしていたら怪我どころでは済まなかったかもしれません。「その場の直感」だけで動くことの危うさは、プールでも同じです。今回はプールでの地震対応を、「水中」「プールサイド」「施設内」の3つのフェーズに分けて整理します。

この記事でわかること
こんな人におすすめ!
  • 夏にプールや水泳をよく利用する方
  • 子どもをプールに連れて行く親御さん
  • 「水の中なら揺れを感じにくいから安全?」と思ったことがある方

フェーズ1「水中」:落下物リスクは減るが、別の危険がある

地震が発生した瞬間、水の中にいた場合のリスクと対応を整理します。

水中にいることの「利点」と「リスク」

利点|落下物リスクの低減

水は揺れをある程度吸収するため、水中で浮いていれば地上よりも揺れを感じにくいことがあります。天井の照明や看板といった落下物が直接体に当たるリスクも、水の中にいることで一定程度低減される可能性があります。

リスク|溺れる・方向を見失う

地震の揺れでプール内の水が大きく波立ち、泳いでいる人が水を飲んだり、思わぬ方向に流されたりする危険があります。水中は視界も限られ、方向感覚を失うと壁面や底に体をぶつけるおそれもあります。

用語ポイント

プールの水が地震で大きく波立つ現象は「スロッシング」と呼ばれます。容器の中の液体が地震動に共振して大きく揺れる現象で、貯水槽や石油タンクでも報告される代表的な地震被害のひとつです。実際に、群馬県教育委員会の学校向け災害対応マニュアルでも、水泳授業中の地震で「プールの水面が波立ち、ところどころで亀裂が入る」ことを想定した対応手順が定められています。学校では、水泳の授業中に地震が起きた場合、教員が児童生徒をすぐに水から上げて衣類・履物を持たせたうえで、揺れがおさまってから避難場所へ移動させる、という手順が定められています。

さらに厄介なのは、スロッシングは震源から近い大きな揺れのときだけに起こるとは限らない、という点です。気象庁の報告によれば、周期の長いゆっくりとした揺れ(長周期地震動)は減衰しにくく、震源から数百km離れた場所まで伝わることがあります。2011年の東日本大震災では、震源から遠く離れた東京や大阪の高層ビルでも長時間の大きな揺れが観測されました。「地元では震度が小さかったから大丈夫」と思っていても、プールの水面は思いのほか大きく波立つ可能性がある、ということは覚えておいて損はありません。

子どもは特に注意が必要

水深が深い場所にいた子どもは、波立ちの影響をより強く受けます。保護者がそばにいない状況では特に注意が必要です。「うちの子は大丈夫」ではなく、揺れを感じたら真っ先に子どもの位置を確認する習慣をつけておきましょう。

水中での対応

揺れを感じたら、無理に泳ごうとせず、体を水面に浮かせるように力を抜いて、プールの壁または縁に向かって移動します。息継ぎができる状態を保つことが最優先です。あわてて遠くまで泳ごうとすると、かえって体力を消耗し、波にのまれるリスクが高まります。

フェーズ2「プールサイド」:「急いで上がる」が一番危ない

地震が発生したとき、多くの人が「早くプールから上がらなければ」と思います。しかし、揺れている最中に慌ててプールから上がることは、かえって危険です。

リスク1|濡れた床での転倒

プールサイドは常に水で濡れており、通常でも滑りやすい場所です。地震で揺れている最中に濡れた足で急いで上がろうとすると、転倒して頭部を強打するリスクがあります。プールサイドでの転倒は、水で溺れるのと同様に命に関わる事故につながります。

リスク2|落下物

プール施設には天井に照明設備、壁面に窓ガラスなどがあります。地震の揺れで、これらが落下・飛散する可能性があります。裸足・水着姿でガラスの破片が散乱したプールサイドにいることは、非常に危険です。

実は、プールサイドの床材は本来、濡れても滑りにくい素材を選ぶことが求められています。文部科学省・国土交通省「プールの安全標準指針」では、プールサイドの舗装材について「水に濡れた状態でも滑りにくい素材とする必要がある」と定められています。とはいえ、これはあくまで平常時の事故防止を想定した基準です。地面が揺れている状態で裸足のまま急いで移動すれば、どれだけ滑りにくい素材であっても転倒のリスクはゼロにはなりません。

揺れが収まってから行動する

基本的な考え方は、プール以外の場所での地震対応と同じです。東京消防庁も、火の始末など揺れている最中にあわてて対応しようとすると転倒などのけがにつながるとして、まず身の安全を最優先し、次の行動は揺れが収まってからにするよう呼びかけています。プールでも同様に、揺れている間はできる限りプール内の壁際・縁に近い場所でしっかりつかまり、揺れが収まるのを待ちます。揺れが収まったことを確認してから、ゆっくりと安全にプールから上がりましょう。

フェーズ3「施設内」:スタッフの誘導に従い、パニックを避ける

プールから上がった後は、施設内での行動が重要です。

スタッフの誘導に従う

プール施設は、地震発生時の対応マニュアルを持っています。スタッフが避難誘導を行う場合は、その指示に従うことが最善です。自己判断で動くと、他の利用者と動線が重なって混雑・転倒事故が起きやすくなります。

更衣室への移動は揺れが完全に収まってから

更衣室はロッカーが並んでおり、最初の地震で既に倒れているか、余震で倒れてくるリスクがあります。更衣室への移動は、スタッフの指示を待つか、揺れが完全に収まったことを確認してから行いましょう。

裸足・水着での屋外避難に備える

大きな地震の場合、施設からの避難が必要になることがあります。水着・裸足での屋外移動はガラスや路面の破片による怪我のリスクがあります。防災ポーチやビーチサンダルなど、最低限の持ち物をロッカーにまとめておく習慣が役立ちます。

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プールに行く前に確認しておくこと

プールで地震に遭遇するリスクは低くはありません。特に7月〜8月は利用者が多く、地震が発生した場合の混雑・パニックのリスクも高まります。事前に確認しておくと役立つことを整理します。

確認1|施設の避難口・避難経路を入場時に確認する

どの方向に逃げれば出口があるかを、入場時に確認しておきましょう。地震の後、視界が悪くなったり照明が落ちたりしたときでも、方向さえわかれば動けます。

確認2|子どもが一人でいる時間を極力作らない

保護者が離れた場所にいると、地震発生時に子どもを見つけることが困難になります。特に混雑した屋外プールでは、子どもから目を離さないことが重要です。

確認3|貴重品・緊急用品はロッカーにまとめておく

スマホの充電状態を確認しておく、ロッカーのカギを体につけておくなど、地震後にすぐ動ける準備をしておきましょう。

まとめ

今回のポイント
  • 水中にいること自体は落下物リスクを一定程度減らすが、プールの水が波立つ「スロッシング」により溺れる・方向を見失うリスクがある
  • 波立ちは震源が近い大きな地震だけで起こるとは限らない。長周期地震動は遠方まで伝わることがある
  • 揺れている最中にプールサイドへ急いで上がることは、濡れた床での転倒・落下物のリスクがあり危険
  • 基本は「揺れている間は水中の壁・縁につかまって待つ」→「揺れが収まってからゆっくり上がる」
  • 施設のスタッフの誘導に従い、自己判断での行動は避ける
  • 入場時に避難口・避難経路を確認しておく

「水の中の方が安全」という直感は半分正しく、半分間違いです。正確には「揺れている最中は水中の方が落下物を避けやすいが、急いで上がることの方が危険を増やすケースがある」ということになります。

「ちょっと防災」、今日から始めてみてください。

プールでの地震対応 フェーズ別早見表
フェーズ やるべきこと
水中 無理に泳がず、力を抜いて壁・縁へ移動。揺れがおさまるまで待つ
プールサイド 揺れが収まってからゆっくり上がる。濡れた床・落下物に注意
施設内 スタッフの誘導に従う。更衣室移動は揺れが完全に収まってから

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サトウ先生|博士(工学) / 防災士
京都光華大学 社会学部 社会共創学科
「専門知識を、わかりやすく身近に。」これまで数々の自然災害を目の当たりにしてきた実体験をもとに、防災に関する大学での講義や地域での講演を行っている。南国出身のため雪にはとっても不慣れで、京都での最大の災難は大雪のときに滑ったことだと思っている。摩擦係数の計算は得意だが、雪道の滑りやすさは計算外だった。だが、その失敗さえも防災の教訓に変えてしまうのが私のスタイルだ。実に面白い。
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参考・出典
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