2026.06.17 ぼうさいらぼ

夏の避難所で熱中症が「見えない死因」になる理由と対策|停電・断水時の備え【避難所生活マニュアル(2)】

体育館内で温度計が高温を示す中、保冷剤のペットボトルを額に当てて目を閉じる女性の写真。中央に「熱中症」の大見出しと、「夏の避難所で『見えない死因』になる理由と対策」「避難所生活マニュアル」のテキストが重ねられた記事サムネイル

夏の災害で見落とされがちなリスクがあります。停電×夏×避難所という3つの条件が重なったとき、熱中症は「見えない死因」として被災者を追い詰めます。暑さ指数(WBGT)が28を超えると熱中症による救急搬送者数は著しく増加しますが、停電でエアコンが止まり人が密集する避難所では、この危険なラインを簡単に超えてしまいます。

わたし、今でこそ京都に住んでいるので土地勘もある程度つきましたが、はじめて京都に来るとあそこも行きたい!ここも行きたい!とルートを無視した観光計画を立てるの、京都あるあるですよね。若かったわたしはタクシーなど乗れるはずもなく、当時スマホもなかったのでバスのルートもよく分からない…ということで、ホテルで無料貸し出しされていた壊れかけの折りたたみ自転車で金閣寺から伏見稲荷まで爆走し(しかも夏)、水分カラカラ頭フラフラになったサトウですこんにちは。壊れかけのBicycleが教えてくれたのは本当の幸せではなく熱中症の症状でした。

地震でも台風でも、夏に長期停電が起きると、エアコンが止まります。避難所は人が密集します。高齢者は暑さに気づきにくい。水分補給ができない。医療アクセスが悪い…この条件が重なったとき、熱中症は「災害関連死」として静かに人を死に追いやります。今回は、地震・台風よりも静かに、しかし確実に命を奪うこのリスクを、データと対策とともに解説します。

この記事でわかること
こんな人におすすめ!
  • 夏の防災対策を考えたことがない方
  • 高齢の家族がいる方
  • 停電したときの暑さ対策を考えたことがない方

夏の停電で何が起きるのか

現代の日本において、夏の暑さをしのぐ主な手段はエアコンです。ところが大規模災害が起きると、停電によってエアコンが止まります。

これがどれほど深刻なことか、数字で確認しましょう。近年の日本の夏(6〜9月)は最高気温が40度を超える日が珍しくなくなっており、気象庁は2026年4月にこのような日を「酷暑日」と呼ぶことを決定しました。室内でも、締め切った状態では外気温に近い、あるいはそれ以上の高温になることがあります(気象庁)。エアコンなしの室内は、命に関わる環境になりうるのです。

「暑さ指数(WBGT)」が28を超えると、熱中症による救急搬送者数が著しく増加することがわかっています。停電でエアコンが止まり、締め切った室内の温度・湿度が上がると、この危険なラインを簡単に超えてしまいます(環境省)。

WBGTとは?:Wet Bulb Globe Temperatureの頭文字をとったもので、熱中症を予防することを目的として1954年にアメリカで提案された指標のことです。

平成20年から令和3年の夏季の主要都市の救急搬送データを基に日最高WBGTと熱中症患者発生率の関係を示したグラフ。出典:環境省熱中症予防情報サイト

主要都市別 日最高WBGTと熱中症患者発生率の関係(H20〜R3夏季)(出典:環境省熱中症予防情報サイト「暑さ指数とは?」)

さらに深刻なのが「停電の長期化」です。過去の大規模地震では、停電からの復旧にかかる時間に大きな差がありました。

阪神・淡路大震災(1995年)

被災地全域への送電は、地震発生から約6日後に完了しました。比較的早期に復旧した一方、ガス(約3か月)や水道(仮復旧42日・全戸復旧91日)は電気よりはるかに長くかかりました(内閣府)。

東日本大震災(2011年)

東北地方では停電が広域に発生し、解消までに最大で約3か月を要した地域もありました(内閣府)。夏に同様の事態が起きれば、長期間エアコンのない生活を強いられる可能性があります。

夏の停電が長引けば、その期間ずっと熱中症リスクが続きます。「数日で復旧するはず」という前提では備えが不十分になりかねません。

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避難所で熱中症が「見えない死因」になる理由

避難所という環境は、熱中症を悪化させる複数の条件が重なっています。

1

密集と体熱の蓄積

体育館などの避難所では、多くの人が狭い空間に集まります。人間の体は安静時でもおよそ100ワット相当の熱を発しており、多人数が密集すると室温がさらに上昇します(沖縄県, 2015「亜熱帯型省エネ住宅ガイドライン」)。

2

高齢者の「暑さ感覚の低下」

高齢者は暑さを感じにくい体質的な変化が起きており(環境省「熱中症環境保健マニュアル」)、自覚症状がないまま熱中症が進行するケースが多くあります。本人が「平気」と言っていても危険な状態にあることがあり、地域別の死亡統計でも高齢層のリスクの高さが指摘されています(星ら, 2010)。

3

水分補給の制限

避難所でのトイレ問題(断水・仮設トイレの不足)から、高齢者を中心に水分摂取を意図的に減らす傾向があります(トイレに行く回数を減らすために水を飲まない)。これが脱水を引き起こし、熱中症を加速させます。

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4

医療アクセスの悪化

災害時は医療機関が被災・混雑し、軽症と思われた熱中症が適切に処置されないまま重症化するリスクがあります。避難所内での早期の体調変化の発見が、より重要になります。

「災害関連死」として記録される熱中症

これらが重なることで、熱中症は「地震や台風で亡くなったわけではない、しかし確実に災害が原因の死」、つまり「災害関連死」として記録されます。死亡統計の上では「その他の疾患」として処理されるため、熱中症による死者が過小評価されやすい構造があります。

過去の災害での熱中症被害

北海道胆振東部地震(2018年9月)では、9月という季節にもかかわらず、停電による暑さが避難所運営の課題となりました。

熊本地震(2016年4月)では、直接死を大きく上回る数の災害関連死が発生し、その多くを避難生活の疲弊や環境悪化による死亡が占めました(内閣府「平成29年版防災白書」)。原因区分を見ても、避難所等での生活上の負担が大きな割合を占めており、暑さ対策を含む避難所環境の改善が課題とされています。

最も深刻だったのが令和6年能登半島地震(2024年1月)です。1月の発生ながら、仮設住宅への移行が長引く中で夏を迎え、断水が続く地域での熱中症リスクが懸念されました。内閣府は避難所のエアコン設置や仮設休憩所の設置などを各自治体に求める通知を発出しています。

(出典)内閣府「令和6年能登半島地震における避難所の暑さ対策について」(令和6年4月23日事務連絡)

また、2024年夏の南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)の発令時には、避難生活中の熱中症リスクに関する注意喚起が行政から出されました(内閣府)。

「夏に被災したら熱中症が怖い」ではなく、「夏に被災したら/夏まで避難生活が及んだら、熱中症は確実なリスクになる」という認識が必要です。

今日から準備できる「夏の被災対策」

夏の停電・避難生活を想定した5つの備え

以下は、夏の停電・避難生活を想定した具体的な備えです。

1

携帯型扇風機・うちわの備蓄

電源不要のうちわ、または充電式・乾電池式の携帯扇風機を非常持ち出し袋に入れておきます。乾電池式は停電時でも長期間使えるため、優先的に用意するようにしましょう。

2

保冷剤・冷却シートの備蓄

発熱時に首・脇の下・鼠径部(足の付け根)を冷やすと効果的です。保冷剤は複数用意し、密閉容器に入れて冷凍庫で常時ストックしておきます。停電後も数時間は保冷効果が持続します。

3

経口補水液・スポーツドリンクの備蓄

水分補給に加えて電解質(塩分・カリウムなど)を補える経口補水液は、熱中症の予防と初期対応に有効です。粉末タイプは保存が利いて軽く、非常持ち出し袋に入れやすいので備えを検討しましょう。

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4

日よけグッズ

屋外避難や車中泊を余儀なくされた場合に備えて、折りたたみ傘・日よけシート・帽子を用意しておきます。

5

高齢の家族には「今日の水分量」を確認する習慣

日常生活から「水を飲んでいるか」を確認する習慣をつけます。被災時に急に意識するより、日頃の習慣の方が機能します。

在宅避難vs避難所:夏の選択

夏の被災時に「在宅避難」を選ぶ場合、エアコンが使えなくなる状況を想定しておく必要があります。電気が止まったとき、自宅が「暑すぎて居られない場所」になる可能性があります。

そのときに「どこへ行くか」を事前に考えておきましょう。「指定暑熱避難施設(クーリングシェルター)」として自治体が指定している施設のほか、図書館・ショッピングモールなどの涼しい公共施設が稼働していれば、そこも選択肢になります(環境省熱中症予防情報サイト)。「暑くなったらここへ行く」という場所を決めておくことが、夏の防災の第一歩です。

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まとめ

  • 停電×夏×避難所の条件が重なると、熱中症は「見えない死因」として機能する
  • 高齢者は暑さを感じにくく、水分を控えがちで、最もリスクが高い
  • 熱中症による死者は「災害関連死」として記録されるため、実態が過小評価されやすい
  • 備えは乾電池式扇風機・保冷剤・経口補水液・日よけグッズ。今日から揃えられる
  • 在宅避難時に「エアコンが止まったらどこへ行くか」を今日決めておく

「ちょっと防災」、今日から始めてみてください。

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サトウ先生|博士(工学) / 防災士
京都光華大学 社会学部 社会共創学科
「専門知識を、わかりやすく身近に。」これまで数々の自然災害を目の当たりにしてきた実体験をもとに、防災に関する大学での講義や地域での講演を行っている。南国出身のため雪にはとっても不慣れで、京都での最大の災難は大雪のときに滑ったことだと思っている。摩擦係数の計算は得意だが、雪道の滑りやすさは計算外だった。だが、その失敗さえも防災の教訓に変えてしまうのが私のスタイルだ。実に面白い。
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このブログは、学生や地域の皆様が防災の基本を体系的に学べる「オンライン防災教本」を目指して、本学教員である筆者の研究・教育成果に基づき作成しています。
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