2026.05.10 ぼうさいらぼ

地震のとき「火を消せ」は本当か:昔からの防災の常識を一つひとつ検証する

散らかった室内に座る女性の写真。右上に「防災士/研究者が解説」のバッジ、中央に「地震だ、火を消せ!? 昔からの防災の常識を一つひとつ検証する」のテキストが重ねられた記事サムネイル

「地震が来たらドアを開けろ」「まず火を消せ」「机の下に潜れ」「玄関に靴を置いておけ」…あなたの防災知識、アップデートできていますか?
学校で習うものといえば、歴史の教科書がそうですね。わたしの年代では、鎌倉幕府が成立したのは1192年で、「いいくに作ろう鎌倉幕府」なんて覚えたのですが、現在の教科書は1185年とされることが多いらしいですね!どう覚えるんでしょう?「いいやご」?…どうやら「いいはこ(1185)」らしいです。はこって何やねん、ハコモノ行政か!と突っ込みたくなるサトウですこんにちは。鎌倉ふれあいセンター。

このように、知識には「一度覚えたら変わらないもの」と「時代とともに更新されていくもの」があります。今日は防災の「昔の常識」を一つひとつ検証し、より正確な知識に更新していきましょう。

この記事でわかること
こんな人におすすめ!
  • 子どもの頃に習った防災知識のままの方
  • 「常識」として聞いてきたことが本当に正しいか気になる方
  • 家族や友人に防災の話を正確に伝えたい方

検証1:「地震が来たらドアを開けろ」今も正しいか?

昔の常識が生まれた理由

木造家屋が主流だった時代には、大きな地震で建物がゆがみ、ドア枠が変形して脱出できなくなる事例があったため、「地震が来たらすぐドアを開けて脱出口を確保しろ」という教えが生まれたと言われています。

※この起源については、筆者が確認した範囲では明確に記した公的資料・学術文献は見当たりませんでした。

現在の見解:公式資料から確認できること

実は、この教えは現在の公的機関でも一部が残っています。

総務省消防庁の公式データベース「地震に自信を」には、現在も「揺れを感じたら、玄関などの扉を開けて非常脱出口を確保しましょう」と記されています(出典:総務省消防庁「地震に自信を:まず落ち着いて身の安全を確保する」)。

一方、東京消防庁の「地震 その時10のポイント」では、「身の安全を最優先に行動する。丈夫なテーブルの下や、物が『落ちてこない』『倒れてこない』『移動してこない』空間に身を寄せ、揺れがおさまるまで様子を見る」と案内されています(出典:東京消防庁「地震 その時10のポイント」)。

つまり、公的機関の間でも「まずドアを開ける」か「まず身の安全を確保する」かで、資料によってニュアンスが異なります。これは、建物の新旧や状況によって最適な判断が変わることを反映しています。

整理された現在の考え方

基本的な順番

  • 揺れている間は、まず身の安全を確保する(机の下・壁際など)
  • 揺れが収まった後に、ドアを開けて脱出口を確保する

ただし、次の場合は揺れが収まってすぐにドアを開けることが引き続き有効です

  • 古い木造住宅(1981年以前の旧耐震基準の建物)に住んでいる場合
  • トイレや浴室など、ドアの変形で閉じ込められやすい狭い空間にいる場合

現代の建築基準(1981年以降の新耐震基準、2000年以降のさらに強化された基準)で建てられた建物では、地震によるドア枠の変形リスクが以前より低くなっています。「建物の新旧・いる場所」で判断が変わる、この視点を持っておきましょう。

検証2:「まず火を消せ」今も正しいか?

昔の常識が生まれた理由

関東大震災(1923年)では、死者・行方不明者105,385人のうち、火災による死者は91,781人にのぼります。つまり死者の約9割が火災によるものでした。この経験から「地震=火災」というイメージが定着し、「地震だ、火を消せ」という教えが広まったと言われています(出典:消防庁「関東大震災100年」資料)。

※「この経験からこの教えが広まった」という因果関係については、筆者が確認した範囲では直接記した公的資料・学術文献は見当たりませんでした。

現在の見解:公式資料から確認できること

注意が必要なのは、総務省消防庁の旧来の公式資料「地震に自信を」には現在も「地震!すばやく火の始末を。使用中のガス器具、ストーブなどは、すばやく火を消しましょう」と書かれている点です(出典:総務省消防庁「地震に自信を:あわてず冷静に火災を防ぐ」)。

一方、東京消防庁の現行ページ「地震に備えて」では、より新しい方向性として次のように案内されています。「火の始末は揺れが収まってから行いましょう。現在の都市ガスやプロパンガスは、震度5程度の揺れを感じると自動的にガスの供給を遮断するよう設定されています。また、石油ストーブなどにも耐震自動消火装置を備えたものが普及しており、使用中の火気器具からの出火の危険性は低くなっています。激しい揺れの中で慌てて火を消そうとすると、転倒したり鍋のお湯をかぶるなど、けがをする可能性があります」(出典:東京消防庁「地震に備えて」)。

整理された現在の考え方

「無理に動いてまで消しに行く必要はない」これが現在の主流の考え方です。

揺れを感じたらまず身の安全確保。揺れが収まってから、コンロの火やガスの元栓を確認・消火するのが現在の主流の考え方です。

現代のガスメーターはほとんどが震度5程度で自動的にガスを遮断する設計のため、揺れている最中に無理して火元に向かう必要性は低くなっています。

ただし、以下の場合は揺れの中でも安全に消せるなら消すことが望ましいです

  • 自動消火機能のない古いコンロやストーブを使用している場合
  • 手の届く位置に火があり、身の安全を確保したまま消せる場合

検証3:「机の下に潜れ」状況によって変わる正解

地震のとき「机の下に潜れ」は学校で習った方も多いはずです。これ自体は基本的に正しい対策ですが、「状況による」という補足が必要です。

有効な場面

東京消防庁「地震 その時10のポイント」では、「丈夫なテーブルの下や、物が『落ちてこない』『倒れてこない』『移動してこない』空間に身を寄せ、揺れがおさまるまで様子を見る」としています(出典:東京消防庁「地震 その時10のポイント」)。

オフィス・学校・食卓など、頑丈なテーブル・机がある場所では有効です。落下物から頭を守るために机の下に入り、机の脚をしっかり持つ(机が動いても一緒に移動できるように)のが正しい対応です。

注意が必要な場面

現在の耐震基準を満たさない古い木造建築の1階で被災した場合、倒壊する家屋によって机ごと押し潰されてしまう可能性があります。1981年以前に建てられた木造の家の1階でお過ごしの方は、机等の下に潜ることと併せて、速やかに建物の外に出るシミュレーションも行っておきましょう。

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また、机が軽くて頑丈でない場合(折り畳みテーブルなど)は、机の下に入っても意味がありません。さらに、深夜に就寝中に地震が来た場合は、机がない状況がほとんどです。そのような場合は布団・枕で頭を覆い、その場でうずくまることが正解です。

机がない場合の対応(3つのポイント)

  • 頭を守れるものを使う(クッション・バッグ・腕)
  • 壁際や柱の近くにいる
  • 落下物の少ない場所に移動する
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検証4:「玄関に靴を置いておけ」これは今も正解

今も正解であり、さらに進化した

「地震に備えて玄関に靴を置いておけ」という教えは、現在でも正解です。むしろ、より多くの専門家が強調するようになっています。

地震後の室内は、棚から落ちた食器・割れた窓ガラス・倒れた家具の破片など、目に見えない鋭利なものが散乱しています。東京消防庁の情報をもとにした複数の資料では、「床に散らばったガラスの破片でけがをすることもあるので、スリッパや靴を履いて行動すると安全です」と案内されています。裸足で歩くと足を切り、その後の避難行動に支障が出ます。また、深夜の地震では電気が消えて暗闇の中を動くことになります。

「玄関」だけでなく、「寝室にもスリッパ・靴を置く」これが現在のより完全な正解です。

深夜の地震では玄関まで行く前に危険な状態になることがあります。「玄関に置く」だけでなく「ベッドサイド・布団の横にも置く」がより現実的な備えです。

本記事での検証の限界

様々な公的機関が資料を出していますが、今回は「この知識は間違っている」と断定できるような検証はできていません。災害時は現場の状況に応じた柔軟な判断が求められます。各資料で想定されている状況がさまざまであることもこの背景が関係しています。様々な知識を身につけることがその柔軟な判断を支えますので、日頃から情報を確認する習慣をつけてください。

防災情報を確認する際は、複数の公的機関の現行ページを直接確認することをお勧めします。

防災知識は「更新し続けるもの」

今日検証した4つの常識のうち、完全に「間違い」と言えるものはありませんでした。ただし、「無条件に正しい」わけでもない。「状況によって正解が変わる」という理解が、現代の防災教育の考え方です。

防災の知識は、研究・災害経験の蓄積によって少しずつ更新されています。「昔習ったから大丈夫」ではなく、定期的に情報をアップデートすることが重要です。3月11日・9月1日(防災の日)などに年1回、自分の防災知識を見直す習慣をつけてみてください。

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まとめ

今回のポイント
  • 「ドアを開けろ」→ 揺れている間は身の安全が最優先。揺れが収まってから開ける。古い木造住宅・狭い密室は早めに開けることも有効。公的機関の資料によってニュアンスが異なるため、自分の住環境で判断を。
  • 「まず火を消せ」→ 現代のガスメーターは震度5程度で自動遮断する設計が普及。揺れている間は動かず、収まってから確認・消火するのが主流の考え方。ただし一部資料には「すばやく火の始末を」との考え方が残っており、状況によって判断する必要がある。
  • 「机の下に潜れ」→ 頑丈な机がある場合は有効。ない場合はクッション・腕で頭を守る。
  • 「玄関に靴を置け」→ 今も正解。寝室にもスリッパを置くとさらに安全。
  • 防災知識は定期的なアップデートが必要。「公的機関が言っている」という情報も、どの機関のどの資料かを自分で確かめることが大切。

「知っているつもり」が一番危ない。これは防災に限った話ではありません。でも、防災においては「知っているつもりで間違った行動をとる」と、命に直結します。今日学んだことを、誰かひとりに話してみてください。

「ちょっと防災」、今日から始めてみてください。

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サトウ先生|博士(工学) / 防災士
京都光華大学 社会学部 社会共創学科
「専門知識を、わかりやすく身近に。」これまで数々の自然災害を目の当たりにしてきた実体験をもとに、防災に関する大学での講義や地域での講演を行っている。南国出身のため雪にはとっても不慣れで、京都での最大の災難は大雪のときに滑ったことだと思っている。摩擦係数の計算は得意だが、雪道の滑りやすさは計算外だった。だが、その失敗さえも防災の教訓に変えてしまうのが私のスタイルだ。実に面白い。
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このブログは、学生や地域の皆様が防災の基本を体系的に学べる「オンライン防災教本」を目指して、本学教員である筆者の研究・教育成果に基づき作成しています。
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参考・出典
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