あなたの自治体の「福祉避難所」がどこにあるか、知っていますか?
おそらく、知らないと思います。知らなくても当然です。日常生活では目に触れない情報ですし、「自分には関係ない」と感じている方も多いかもしれません。
でも、もし家族や近くに介護が必要な高齢者、障がいのある方、乳幼児がいるなら、この記事を最後まで読んでほしいです。熊本地震では、「いざというときにはこの施設を福祉避難所としよう、と決めていたけど、実際にはなかなか開かなかった」という事態が起きました。制度は存在していた。でも機能しなかった。それがどういうことか、そして今あなたの自治体では何が変わったのか、一緒に確認しましょう。
- 家族や近くに要配慮者(高齢者・障がい者・乳幼児など)がいる方
- 「福祉避難所」という言葉を初めて聞いた方
- 自治体の防災対策が実際に機能するのか気になっている方
「福祉避難所」とは何か
大きな災害が起きると、多くの人が避難所に集まります。学校の体育館、公民館…広い空間に多くの人が雑魚寝で生活する場所です。
ただ、その環境では過ごせない人たちがいます。
- 寝たきりや介護が必要な高齢者
- 車いすを使っている方
- 知的障がい・精神障がいのある方(大人数の空間が苦手な場合がある)
- 医療的ケアが必要な方
- 乳幼児とその保護者
こうした「要配慮者」を受け入れるために設けられているのが「福祉避難所」です。介護ベッドや医療機器が使えるスペース、専門スタッフの配置、プライバシーへの配慮……一般の避難所よりも手厚い環境が想定されています。
指定先は特別養護老人ホームや障がい者支援施設、社会福祉センターなど、既存の福祉施設が多くなります。各市区町村が施設と協定を結び「指定福祉避難所」として登録しておく仕組みで、2007年の災害対策基本法改正から本格的に整備が始まりました。
参考:京都市「福祉避難所について」
熊本地震で何が起きたか
熊本地震でもっとも深刻な被害を受けた熊本県益城町では、発災前に5カ所の福祉避難所を指定し、ホームページにも公表していました。しかし発災直後、ほぼ開設できませんでした。同町では「施設自体が被災した」「マンパワーや設備が不足していた」ことに加え、「役場職員や関係機関に浸透していなかった」ことをその理由として挙げています(益城町, 2020)。
噛み砕くとこういうことです。
発災直後の混乱の中、担当者は何をすればいいかわからない。施設側も受け入れ準備が整っていない。連絡が取れない…指定されていた施設は動けないまま、時間だけが過ぎていきました。
結果として、一般避難所は要配慮者であふれました。高齢者が体育館の床に寝たり、車中泊を余儀なくされた方もいました。
関連死の約8割が高齢者だった背景
熊本地震の震災関連死228名のうち、70歳以上が全体の約77.5%を占めています(熊本県, 2018)。要配慮者への対応の不備と、この数字は無縁ではないと考えられています。
避難所での環境悪化、慣れない生活による体力・免疫力の低下、そして孤立…そのどれかひとつでも防げていれば、助かった命があったかもしれません。「制度があれば大丈夫」という思い込みが、どれほど危うい前提なのかを示すデータです。
なぜ「制度があっても機能しないのか」:3つの構造的な理由
これは益城町だけの問題ではありません。全国的に起きやすい構造的な問題です。
協定を締結して「指定しました」と公表することは比較的簡単です。しかし実際に開設するための手順書(マニュアル)の作成、施設との定期的な訓練、担当者の引き継ぎ……これらは継続的な労力が必要です。自治体によっては「指定まで」で終わってしまっている可能性があります。
福祉避難所を開設するには、まず「誰を、どこに移送するか」を判断する必要があります。しかし発災直後は、どこにどんな要配慮者がいるかすら把握できていません。通信も混乱します。「開けるべきタイミング」に「開ける」という判断ができないのです。
指定されている福祉施設が地震で被災すれば、当然受け入れはできません。熊本地震では多くの施設が建物被害を受けました。また、福祉避難所を開設・初期に運営する方々も被災者です。益城町で課題として挙げられた「マンパワーが不足していた」の背景にはこのような理由があります。
熊本地震を経て、制度はどう変わったか
熊本地震および同様の大災害を経て、福祉避難所に関する国の制度には変化が見られています。
最大の変化は2021年の「福祉避難所の確保・運営ガイドライン」の改定です(内閣府, 2021)。それまでは「福祉避難所」として指定されていても、発災後に一般の避難者が殺到して機能しなくなることがありました。改定後は、事前に受け入れ対象者を特定し、対象者に直接「あなたはここへ」と案内する「個別避難計画」との連携が強化されました。また、指定福祉避難所を自治体のウェブサイトで公表することが義務化されています。
熊本地震を経験した益城町自身も動きました。令和2年2月に「福祉避難所 設置・運営マニュアル」の改訂版を公表。発災から開設までのフロー、受け入れ対象者の判断基準、施設への連絡手順を明文化しました(益城町, 2020)。
制度は確実に進化しています。ただし、全国すべての自治体で十分に整備されているかはわかりません。だからこそ「自分の自治体はどうか」を確認することに意味があります。
今日、5分でできる確認方法
難しくありません。3つのステップです。
多くの自治体でPDFや一覧ページが見つかります。2021年の改定以降、公表が義務化されているため、ほとんどの自治体で確認できるはずです。見当たらない場合は、自治体の防災担当窓口に電話して聞いてみましょう。
参考:京都市「福祉避難所について」
福祉避難所ごとに「誰を受け入れるか」が決まっています(例:「要介護3以上」「肢体不自由者」など)。家族に要配慮者がいる場合は、その方が対象に該当するかを確認しておきましょう。
要支援者(高齢者・障がい者など)は、自治体の名簿に登録することで「個別避難計画」の策定対象になります。本人または家族が自治体の福祉課・防災課などに申し出ることで登録できます。まだ登録していない場合は、この機会に確認してみましょう。
家族や近隣に要配慮者がいる方は、本人の代わりにこれらを調べてあげてください。「いざというときにどこへ行けばいいか」を知っているだけで、発災後の初動が全く変わります。
避難行動要支援者の方が一般の避難所での生活を送ることになった場合、生活のさまざまな面で困難に直面することが考えられます。こうした場合、自宅の環境が整っている前提で自宅で避難生活を送る「在宅避難」の方が好ましいケースもあります。ただし医療・福祉面での支援が必要な方は、可能な限り早めに「福祉避難所」への避難を検討してください。
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まとめ
- 福祉避難所は要配慮者向けの避難所。多くの市区町村で事前指定されている
- 熊本地震では「指定はしていたが迅速に開設できなかった」という事態が起きた
- 関連死228名の約77.5%が70歳以上。要配慮者への対応不備が影響した可能性がある
- 2021年の制度改定で公表義務化・個別避難計画との連携が強化された
- 今日できることは「自治体のウェブサイトで指定福祉避難所を確認すること」
- 在宅避難も有効な選択肢。自宅での避難生活を送る環境を整えることも検討しよう
「〇〇市 指定福祉避難所」で今すぐ検索してみましょう。見つけたページのリンクを家族のグループLINEに共有しておくと、さらに安心です。5分でできます。
「ちょっと防災」、今日から始めてみてください。
このブログは、学生や地域の皆様が防災の基本を体系的に学べる「オンライン防災教本」を目指して、本学教員である筆者の研究・教育成果に基づき作成しています。
実際の災害時は現場の状況に応じた柔軟な判断が求められます。記事に含まれる情報の活用は読者の皆様の判断と責任において行っていただきますようお願い申し上げます。また、記事の内容は大学の公式な見解や推奨を意味するものではありません。なお、記事に含みうる誤りに関する一切の責任は筆者に帰属します。
- 益城町(2020).「『平成28年熊本地震 益城町震災記録誌』の公表について」
- 益城町(2020).「福祉避難所マニュアルを改訂しました」
- 熊本県(2018).「震災関連死の概況について」熊本地震デジタルアーカイブ
- 内閣府「福祉避難所の確保・運営ガイドラインの改定(令和3年5月)」
- 内閣府「避難行動要支援者の避難行動支援に関する取組指針の改定(令和3年5月)」
- 川﨑興太(2026).「福祉避難所の実態と課題-福島県を対象とした事例研究-」. 都市計画報告集, No.2, pp.560-566.
