渡月橋へ行ってきました。授業(平日)の合間に行きましたが、周辺はたくさんの観光客でにぎわっていました。
京都には風光明媚な観光スポットがたくさんありますが、その周辺の災害リスクを意識されたことはありますか?あのお寺や、この神社は災害のとき本当に安全なの?このシリーズでは、ハザードマップを片手にそれらの名所を探訪し、リスクについて解説していきます。第2回は、嵯峨嵐山エリアの「渡月橋」です。
京都をはじめとする観光スポットをハザードマップ片手に巡り、普段は見えにくい災害リスクを解説するシリーズです。「知ってから行く」ことで、いざというときの行動が変わります。
- 嵯峨嵐山エリアへの観光を予定している方
- 「ハザードマップって自分の家以外にも使えるの?」と思っている方
- 渡月橋・嵐山公園周辺に住んでいる・働いている方
渡月橋ってどんなところ?
渡月橋は、桂川(大堰川)に架かる全長155mの橋で、京都・嵯峨嵐山を象徴するランドマークです。橋の名は「くまなき月の渡るに似る」という亀山上皇の言葉に由来するとされており、周囲の嵐山・小倉山の山並み、四季折々の自然とあわせて、国内外から年間を通じて多くの観光客が訪れます。
渡月橋(筆者撮影)
渡月橋の北岸(嵯峨側)から渡ると、橋と渡月小橋に挟まれた中州が嵐山公園(中之島地区)です。渡月橋南詰の対岸には法輪寺があり、天龍寺・竹林の小径・野宮神社など、徒歩圏内にさまざまな名所が密集しています。
嵐山公園(中之島地区)(筆者撮影)
嵯峨嵐山エリアの地形を知る
まず、このエリアの地形を頭に入れておきましょう。
嵯峨嵐山エリアは、東に亀山・嵐山(標高382m)を背負い、その山ふもとを桂川が大きく蛇行して流れています。渡月橋の立つあたりは、山地と川が最も接近するポイントです。川幅は広く、見た目には穏やかな流れですが、上流での降雨量が増えると急激に水位が上昇する特性があります。
観光で渡月橋を歩くと「開放的な川沿いの景色」に見えますが、防災目線では「川と山に挟まれた低地に立っている」ということになります。
嵐山・亀山から流れ下った桂川は、渡月橋付近で大きくカーブしています。川が蛇行する地点の「外側」にあたる岸は水流の勢いを受けやすく、洪水時には堤防への負荷が集中しやすい地形です。渡月橋周辺はまさにそのような地点に位置しています。
ハザードマップで見てみた
京都市水害ハザードマップで、渡月橋周辺を確認しました。渡月橋周辺は西京区・右京区の水害ハザードマップでご確認いただけます。
渡月橋周辺の洪水浸水想定区域図(画像出典:京都市防災ポータルサイト)
渡月橋の北側・南側にわたる広い範囲が、桂川の洪水浸水想定区域に指定されています。
マップの見方
| 色・区分 | 浸水深・目安 |
|---|---|
| 濃いオレンジ | 5m以上:2階の屋根以上が浸水 |
| オレンジ | 3〜5m未満:2階の屋根まで浸水 |
| 薄いオレンジ | 0.5〜3m未満:2階の床下まで浸水 |
| 黄色 | 0.5m未満:1階の床下まで浸水 |
渡月橋周辺では、地図の薄いオレンジ色(0.5〜3m)の想定浸水区域が広く分布しており、場所によっては3m以上の区域も存在します。木造2階建ての1階が丸ごと水没する深さの浸水が、想定シナリオとして示されています。
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見落としがちな「家屋倒壊等氾濫想定区域」
洪水ハザードマップには、浸水深の色分けとは別に、「家屋倒壊等氾濫想定区域(河岸侵食・氾濫流)」が記載されています。渡月橋周辺のマップを見ると、桂川沿いの堤防に近い帯状の区域にこの指定が含まれています。
これが意味することは、「水に浸かる」だけでは終わらない可能性があるということです。
堤防が「越水」するだけでなく、堤防の法面(のりめん)そのものが崩壊した場合、激流が一気に流れ込みます。その場合、建物が「水に浸かる」のではなく、激流に「押し流される」「倒壊する」おそれがあります。
- 堤防決壊時に、建物が流失・倒壊するおそれがある
- 「2階に上がれば大丈夫(垂直避難)」は通用しない可能性がある
→ この区域では、「早期の水平避難(別の場所へ移動する)」が唯一の正解です
嵐山公園中之島地区には「避難広場の標識」がある:でも水害のときは?
渡月橋と渡月小橋に挟まれた桂川の中州に広がる嵐山公園(中之島地区)には、「観光客緊急避難広場」の標識が設置されています。
嵐山公園から阪急嵐山駅につながる道に設置されている「緊急避難広場」の標識(筆者撮影)
これは京都市が大規模地震などの発生時に、帰宅困難になった観光客が一時的に集まり、情報を得るための場所として指定したものです。水害時の避難場所ではありません。桂川が氾濫する状況では、中之島地区は浸水するおそれがあります。
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では、渡月橋から一番近い避難場所は?
水害の際に渡月橋周辺から最も近い指定緊急避難場所として、渡月小橋を渡った南岸にある「法輪寺」があります。法輪寺は斜面の上に伽藍が建ち、高台に位置しているため、水害時の水平避難先としての機能が期待されています。
嵐山 虚空蔵法輪寺の境内(筆者撮影)
ただし、ここで一点、重要な注記が必要です。
「何の災害に対して、どの避難所が有効か」この判断基準は、あらかじめ確認しておくことが重要です。法輪寺周辺の土砂災害リスクについては、このシリーズの次回記事で詳しく解説します。
法輪寺と土砂災害警戒区域のリスクを解説します。
竹林のあたりはどうか:エリアによってリスクは異なる
嵐山観光のもうひとつの人気スポット、「竹林の小径」(野宮神社から大河内山荘庭園へと続く竹林)はどうでしょうか。
多くの観光客で賑わう竹林の小径(筆者撮影)
竹林の小径は、渡月橋の北側・嵐山地区から少し東側(天龍寺の北)に位置しています。地形的には、桂川から離れた嵐山山麓の平坦地に近い場所です。水害ハザードマップでは、竹林エリアは渡月橋周辺と比較して浸水リスクが低い、あるいは区域外となる可能性があります。また、竹林周辺には急峻な崖はなく、直接的な土砂災害警戒区域とも重なりにくい地形です。
→ 京都市Web版ハザードマップ(水害)でご自身でご確認ください。
「嵐山エリア=一律に危険」ではありません。ただし、渡月橋・嵐山公園・川沿い一帯と、山側の竹林エリアとでは、リスクの種類と程度が異なります。エリアごとにハザードマップで確かめることが大切です。
渡月橋を歩いて感じたこと
穏やかに流れる桂川、山に抱かれた嵐山の緑、写真を撮る観光客の笑顔。渡月橋周辺は観光地として大変魅力的な空間です。しかし川岸を歩くと、堤防(法面)が思ったより低く、桂川の水面と周辺の地面の高低差が小さいことに気づきます。晴れた日に穏やかに流れる川を見ていると、大雨時に水位がどこまで上がるかは想像しにくいです。
桂川から望む堤防の法面(筆者撮影)
晴れた観光日に「もし桂川が氾濫したら、どちらに逃げるか」を一度だけ考えてみること。
基本方針は「川から離れる」「浸水想定区域の外へ出る」の2点です。橋の上や川沿い・中之島地区にいる場合は、まず川岸から離れること。高台(亀山・嵐山方向の斜面)へ向かう場合は土砂災害のリスクも念頭に置き、状況に応じて判断してください。また、橋の上にいるときに水位が上昇してきた場合、橋上からすぐに離れてください。増水時の橋は危険です。
「観光地だから安全」でも、「整備されているから大丈夫」でもない。桂川の景観の美しさと、水害リスクの高さは表裏一体です。
訪れるときに意識したいこと
もちろん、普段の観光でリスクを必要以上に意識する必要はありません。このシリーズの目的は「行くな」ではなく、「知ったうえで行く」「いざというときに動ける」ことです。
- 台風・大雨予報がある日は、川沿い・公園付近での滞在を控えることを検討する
- 訪問前に、桂川の「氾濫危険情報」が出ていないか確認する
(気象庁サイト・NHKニュース・スマホの防災アプリで確認できます) - 訪問中に大雨警報・氾濫警戒情報が出たら、川沿い・嵐山公園からすぐに離れる
- 「増水してから逃げよう」と思わない
水害は川の水位が急上昇します。情報が出た時点で動き始めてください - 嵐山公園・渡月橋付近は水害時の避難場所にはなりません。公園より高台側か、頑丈な建物の上層階へ移動することを考えてください
- スマホの緊急速報・防災アプリの通知設定がオンになっているか、今日確認しておく
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まとめ:知識があれば、景色の見え方が変わる
- 渡月橋周辺は桂川の洪水浸水想定区域に広く含まれており、0.5〜3mの浸水が想定される区域がある
- 「家屋倒壊等氾濫想定区域」では堤防崩壊時に建物への被害も想定される。垂直避難は有効でない
- 嵐山公園中之島地区の「観光客緊急避難広場」は地震時の帰宅困難者向け指定。水害時は浸水するおそれがあり、避難場所にはならない。標識の「種別」を知ることが重要
- 渡月橋から最寄りの指定緊急避難場所は「法輪寺」だが、土砂災害リスクも存在する(次回記事で詳述)
- 竹林エリアは川沿いよりリスクが低い傾向があるが、「安全」と断定はできない。エリアごとに確認を
- 増水してから逃げようとしない。情報が出た時点で動き始めることが、水害での生存につながる
「防災目線で観光する」というのは、観光の楽しさを削ることではありません。知識がひとつ加わることで、同じ景色がより豊かに見えてきます。
ぜひ一度、防災目線で渡月橋周辺を歩いてみてください。
このブログは、学生や地域の皆様が防災の基本を体系的に学べる「オンライン防災教本」を目指して、本学教員である筆者の研究・教育成果に基づき作成しています。
実際の災害時は現場の状況に応じた柔軟な判断が求められます。記事に含まれる情報の活用は読者の皆様の判断と責任において行っていただきますようお願い申し上げます。また、記事の内容は大学の公式な見解や推奨を意味するものではありません。なお、記事に含みうる誤りに関する一切の責任は筆者に帰属します。

