2026.06.25 ぼうさいらぼ

桂川が氾濫したら渡月橋周辺はどうなるか:京都・嵯峨嵐山をハザードマップ片手に歩いてみた(1)

渡月橋へ行ってきました。授業(平日)の合間に行きましたが、周辺はたくさんの観光客でにぎわっていました。

京都には風光明媚な観光スポットがたくさんありますが、その周辺の災害リスクを意識されたことはありますか?あのお寺や、この神社は災害のとき本当に安全なの?このシリーズでは、ハザードマップを片手にそれらの名所を探訪し、リスクについて解説していきます。第2回は、嵯峨嵐山エリアの「渡月橋」です。

SERIES
観光×防災
ハザードマップ片手にまちを歩く

京都をはじめとする観光スポットをハザードマップ片手に巡り、普段は見えにくい災害リスクを解説するシリーズです。「知ってから行く」ことで、いざというときの行動が変わります。


この記事でわかること
こんな人におすすめ!
  • 嵯峨嵐山エリアへの観光を予定している方
  • 「ハザードマップって自分の家以外にも使えるの?」と思っている方
  • 渡月橋・嵐山公園周辺に住んでいる・働いている方

渡月橋ってどんなところ?

渡月橋は、桂川(大堰川)に架かる全長155mの橋で、京都・嵯峨嵐山を象徴するランドマークです。橋の名は「くまなき月の渡るに似る」という亀山上皇の言葉に由来するとされており、周囲の嵐山・小倉山の山並み、四季折々の自然とあわせて、国内外から年間を通じて多くの観光客が訪れます。

渡月橋全景。桂川を背景に望む渡月橋の写真。筆者撮影。

渡月橋(筆者撮影)

渡月橋の北岸(嵯峨側)から渡ると、橋と渡月小橋に挟まれた中州が嵐山公園(中之島地区)です。渡月橋南詰の対岸には法輪寺があり、天龍寺・竹林の小径・野宮神社など、徒歩圏内にさまざまな名所が密集しています。

嵐山公園(中之島地区)。筆者撮影。

嵐山公園(中之島地区)(筆者撮影)

嵯峨嵐山エリアの地形を知る

まず、このエリアの地形を頭に入れておきましょう。

嵯峨嵐山エリアは、東に亀山・嵐山(標高382m)を背負い、その山ふもとを桂川が大きく蛇行して流れています。渡月橋の立つあたりは、山地と川が最も接近するポイントです。川幅は広く、見た目には穏やかな流れですが、上流での降雨量が増えると急激に水位が上昇する特性があります。

観光で渡月橋を歩くと「開放的な川沿いの景色」に見えますが、防災目線では「川と山に挟まれた低地に立っている」ということになります。

地形ポイント

嵐山・亀山から流れ下った桂川は、渡月橋付近で大きくカーブしています。川が蛇行する地点の「外側」にあたる岸は水流の勢いを受けやすく、洪水時には堤防への負荷が集中しやすい地形です。渡月橋周辺はまさにそのような地点に位置しています。

ハザードマップで見てみた

京都市水害ハザードマップで、渡月橋周辺を確認しました。渡月橋周辺は西京区・右京区の水害ハザードマップでご確認いただけます。

渡月橋周辺の洪水浸水想定区域図。出典:京都市防災ポータルサイト

渡月橋周辺の洪水浸水想定区域図(画像出典:京都市防災ポータルサイト)

渡月橋の北側・南側にわたる広い範囲が、桂川の洪水浸水想定区域に指定されています。

マップの見方

色・区分 浸水深・目安
濃いオレンジ 5m以上:2階の屋根以上が浸水
オレンジ 3〜5m未満:2階の屋根まで浸水
薄いオレンジ 0.5〜3m未満:2階の床下まで浸水
黄色 0.5m未満:1階の床下まで浸水

渡月橋周辺では、地図の薄いオレンジ色(0.5〜3m)の想定浸水区域が広く分布しており、場所によっては3m以上の区域も存在します。木造2階建ての1階が丸ごと水没する深さの浸水が、想定シナリオとして示されています。

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見落としがちな「家屋倒壊等氾濫想定区域」

洪水ハザードマップには、浸水深の色分けとは別に、「家屋倒壊等氾濫想定区域(河岸侵食・氾濫流)」が記載されています。渡月橋周辺のマップを見ると、桂川沿いの堤防に近い帯状の区域にこの指定が含まれています。

これが意味することは、「水に浸かる」だけでは終わらない可能性があるということです。

堤防が「越水」するだけでなく、堤防の法面(のりめん)そのものが崩壊した場合、激流が一気に流れ込みます。その場合、建物が「水に浸かる」のではなく、激流に「押し流される」「倒壊する」おそれがあります。

「家屋倒壊等氾濫想定区域」の中では
  • 堤防決壊時に、建物が流失・倒壊するおそれがある
  • 「2階に上がれば大丈夫(垂直避難)」は通用しない可能性がある

→ この区域では、「早期の水平避難(別の場所へ移動する)」が唯一の正解です

嵐山公園中之島地区には「避難広場の標識」がある:でも水害のときは?

渡月橋と渡月小橋に挟まれた桂川の中州に広がる嵐山公園(中之島地区)には、「観光客緊急避難広場」の標識が設置されています。

嵐山公園から阪急嵐山駅につながる道に設置されている「緊急避難広場」の標識。筆者撮影。

嵐山公園から阪急嵐山駅につながる道に設置されている「緊急避難広場」の標識(筆者撮影)

これは京都市が大規模地震などの発生時に、帰宅困難になった観光客が一時的に集まり、情報を得るための場所として指定したものです。水害時の避難場所ではありません。桂川が氾濫する状況では、中之島地区は浸水するおそれがあります。

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では、渡月橋から一番近い避難場所は?

水害の際に渡月橋周辺から最も近い指定緊急避難場所として、渡月小橋を渡った南岸にある「法輪寺」があります。法輪寺は斜面の上に伽藍が建ち、高台に位置しているため、水害時の水平避難先としての機能が期待されています。

嵐山 虚空蔵法輪寺の境内の様子

嵐山 虚空蔵法輪寺の境内(筆者撮影)

ただし、ここで一点、重要な注記が必要です。

法輪寺周辺は、土砂災害警戒区域に指定されているエリアを含みます。水害と土砂災害が同時に起きうる状況(大雨による複合災害)では、「水害から逃げるために法輪寺へ」という判断が必ずしも正解にならないケースがあります。

「何の災害に対して、どの避難所が有効か」この判断基準は、あらかじめ確認しておくことが重要です。法輪寺周辺の土砂災害リスクについては、このシリーズの次回記事で詳しく解説します。

COMING SOON
次回:渡月橋から一番近い緊急避難場所・法輪寺の土砂災害リスク
京都・嵯峨嵐山エリアをハザードマップ片手に歩いてみた(2)
法輪寺と土砂災害警戒区域のリスクを解説します。

竹林のあたりはどうか:エリアによってリスクは異なる

嵐山観光のもうひとつの人気スポット、「竹林の小径」(野宮神社から大河内山荘庭園へと続く竹林)はどうでしょうか。

嵐山「竹林の小径」の様子を表す写真

多くの観光客で賑わう竹林の小径(筆者撮影)

竹林の小径は、渡月橋の北側・嵐山地区から少し東側(天龍寺の北)に位置しています。地形的には、桂川から離れた嵐山山麓の平坦地に近い場所です。水害ハザードマップでは、竹林エリアは渡月橋周辺と比較して浸水リスクが低い、あるいは区域外となる可能性があります。また、竹林周辺には急峻な崖はなく、直接的な土砂災害警戒区域とも重なりにくい地形です。

ただし、竹林周辺のリスクはゼロではありません。大雨時は上流からの浸水が予想外のルートで広がる可能性があり、「竹林付近だから安全」と断定することはできません。訪問前に必ず最新のハザードマップをご確認ください。

京都市Web版ハザードマップ(水害)でご自身でご確認ください。

「嵐山エリア=一律に危険」ではありません。ただし、渡月橋・嵐山公園・川沿い一帯と、山側の竹林エリアとでは、リスクの種類と程度が異なります。エリアごとにハザードマップで確かめることが大切です。

渡月橋を歩いて感じたこと

穏やかに流れる桂川、山に抱かれた嵐山の緑、写真を撮る観光客の笑顔。渡月橋周辺は観光地として大変魅力的な空間です。しかし川岸を歩くと、堤防(法面)が思ったより低く、桂川の水面と周辺の地面の高低差が小さいことに気づきます。晴れた日に穏やかに流れる川を見ていると、大雨時に水位がどこまで上がるかは想像しにくいです。

桂川から望む堤防の法面(2段)。

桂川から望む堤防の法面(筆者撮影)

観光防災ワンポイント

晴れた観光日に「もし桂川が氾濫したら、どちらに逃げるか」を一度だけ考えてみること。

基本方針は「川から離れる」「浸水想定区域の外へ出る」の2点です。橋の上や川沿い・中之島地区にいる場合は、まず川岸から離れること。高台(亀山・嵐山方向の斜面)へ向かう場合は土砂災害のリスクも念頭に置き、状況に応じて判断してください。また、橋の上にいるときに水位が上昇してきた場合、橋上からすぐに離れてください。増水時の橋は危険です。

「観光地だから安全」でも、「整備されているから大丈夫」でもない。桂川の景観の美しさと、水害リスクの高さは表裏一体です。

訪れるときに意識したいこと

もちろん、普段の観光でリスクを必要以上に意識する必要はありません。このシリーズの目的は「行くな」ではなく、「知ったうえで行く」「いざというときに動ける」ことです。

嵯峨嵐山エリアを訪れるときに意識しておきたいこと
  • 台風・大雨予報がある日は、川沿い・公園付近での滞在を控えることを検討する
  • 訪問前に、桂川の「氾濫危険情報」が出ていないか確認する
    (気象庁サイト・NHKニュース・スマホの防災アプリで確認できます)
  • 訪問中に大雨警報・氾濫警戒情報が出たら、川沿い・嵐山公園からすぐに離れる
  • 「増水してから逃げよう」と思わない
    水害は川の水位が急上昇します。情報が出た時点で動き始めてください
  • 嵐山公園・渡月橋付近は水害時の避難場所にはなりません。公園より高台側か、頑丈な建物の上層階へ移動することを考えてください
  • スマホの緊急速報・防災アプリの通知設定がオンになっているか、今日確認しておく
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まとめ:知識があれば、景色の見え方が変わる

今回のポイント
  • 渡月橋周辺は桂川の洪水浸水想定区域に広く含まれており、0.5〜3mの浸水が想定される区域がある
  • 「家屋倒壊等氾濫想定区域」では堤防崩壊時に建物への被害も想定される。垂直避難は有効でない
  • 嵐山公園中之島地区の「観光客緊急避難広場」は地震時の帰宅困難者向け指定。水害時は浸水するおそれがあり、避難場所にはならない。標識の「種別」を知ることが重要
  • 渡月橋から最寄りの指定緊急避難場所は「法輪寺」だが、土砂災害リスクも存在する(次回記事で詳述)
  • 竹林エリアは川沿いよりリスクが低い傾向があるが、「安全」と断定はできない。エリアごとに確認を
  • 増水してから逃げようとしない。情報が出た時点で動き始めることが、水害での生存につながる

「防災目線で観光する」というのは、観光の楽しさを削ることではありません。知識がひとつ加わることで、同じ景色がより豊かに見えてきます。

ぜひ一度、防災目線で渡月橋周辺を歩いてみてください。

渡月橋 基本情報
名称 渡月橋(とげつきょう)
所在地 京都府京都市右京区嵯峨中ノ島町 ほか
渡橋 終日(無料)
最寄り駅 京福電気鉄道嵐山線「嵐山」駅 すぐ
阪急嵐山線「嵐山」駅 徒歩約10分
JR山陰本線「嵯峨嵐山」駅 徒歩約15分
ハザードマップ 京都市Web版ハザードマップ(水害)
渡月橋の名板。筆者撮影。

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サトウ先生|博士(工学) / 防災士
京都光華大学 社会学部 社会共創学科
「専門知識を、わかりやすく身近に。」これまで数々の自然災害を目の当たりにしてきた実体験をもとに、防災に関する大学での講義や地域での講演を行っている。南国出身のため雪にはとっても不慣れで、京都での最大の災難は大雪のときに滑ったことだと思っている。摩擦係数の計算は得意だが、雪道の滑りやすさは計算外だった。だが、その失敗さえも防災の教訓に変えてしまうのが私のスタイルだ。実に面白い。
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このブログは、学生や地域の皆様が防災の基本を体系的に学べる「オンライン防災教本」を目指して、本学教員である筆者の研究・教育成果に基づき作成しています。
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参考・出典
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