水害で逃げ遅れる人には「共通点」があります。警報が出ていたにもかかわらず多くの人が動かなかった背景には、情報不足ではなく心理的な「ブレーキ」があります。正常性バイアス・同調バイアス・オオカミ少年効果・楽観バイアスの”認知バイアス”4つのパターンを知り、今日から「逃げる判断」を準備しておきましょう。
「はぐれメタルAは にげだした!」ゲーム『ドラゴンクエスト』シリーズを遊んだ方なら何回も見たであろうこの表示。経験値をたくさん稼げるモンスターをギリギリ仕留め損ねた悔しさは計り知れないですよね。どうせ逃げるんなら最初から逃げんかい、そもそもお前は群れからはぐれてるからはぐれメタルとちゃうんかい、なんでグループで現れて全員逃げとんねん、とそのたびに毒づくサトウですこんにちは。サトウは どくのきりを はきだした!
サトウ的には、はぐれメタルが逃げるタイミングは納得できないことも多いですが(?)、水害のときには「なるべく早めに行動、なるべく早めに逃げる」一択です。私の毒でやられないように、この記事で水害時の心理メカニズムと、今日からできる「逃げる判断」の準備を一緒にやっていきましょう。
- 「大雨のとき、自分はちゃんと逃げられるか」不安な方
- 警戒レベルが出ても、なんとなく様子見してしまう方
- 水害リスクのある地域に住んでいる方
まず知っておこう:水害の「逃げ遅れ」とは何か
水害による死者の多くは、逃げるタイミングを逃したことによる「溺死」です。そしてほとんどのケースで、「警報が出ていた」という事実があります。情報は届いていたけれど、人は動きませんでした。
平成30年7月豪雨(西日本豪雨)では、被害が集中した広島・岡山・愛媛3県の死者のうち、60代以上が約7割を占めました(内閣府「平成30年7月豪雨による水害・土砂災害からの避難に関するワーキンググループ」第1回資料, 2018)。とりわけ被害が甚大だった岡山県倉敷市真備町では「犠牲者のほとんどが、非流出家屋の屋内で遭難した可能性がある」と指摘されています(牛山, 2018)。家が流されたのではなく、家の中にいたまま水に飲まれた可能性が高いということです。
さらに、避難勧告が発令された地区の住民を対象にしたアンケート調査では、水平避難(避難所などへの避難)をした住民は広島県7%、岡山県6%、愛媛県4%にとどまり、7〜9割が避難していなかったことが示されています(NPO法人環境防災総合政策研究機構, 2018)。
この中には、もちろん高齢者などの「逃げたくても逃げられなかった人」も含まれていますが、「逃げられるのに逃げなかった」人もいます。なぜ動かなかったのでしょうか。
逃げ遅れる人に共通する4つの心理パターン
研究者たちはこれまで多くの災害を分析し、逃げ遅れの心理的背景を明らかにしてきました。大きく4つのパターンに整理できます。
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「情報があっても動けない」構造的な問題
上記の4つに加えて、もう一つ重要な要因があります。「いざというときに何をすればいいかが決まっていない」という問題です。
警報が出た。でも、どのレベルで逃げる?どこへ?荷物は?車で行く?歩く?…こうした判断が何も決まっていなければ、「もう少し様子を見てから考えよう」となるのは当然です。緊急時に「考える」のは、実は非常に難しいです。平時に決めておいて初めて動けます。
「マイ・タイムライン」はこの考えに基づいた仕組みです。「警戒レベル3になったらこの経路でここへ逃げる」と事前に決めておくことで、緊急時の判断コストを限りなくゼロにしましょう。
今日決めておくべき「マイルール」4つ
以下の4点を、今日中に確認・決定してください。紙に書いておくとより効果的です。
【1】「逃げるトリガー」を決める
「警戒レベル〇〇が出たら迷わず動く」という自分のルールを決めます。おすすめはレベル3(高齢者等避難)が出た時点で動き始めること。ハザードマップでリスクの高い地域に住んでいる方は、特に早めの行動を。
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【2】「逃げ先」を決める
水害対応の指定緊急避難場所を事前に確認しておきます。地震用と水害用は異なる場合があります。国土交通省のハザードマップポータルサイトで確認できます。
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【3】「逃げる経路」を決める
逃げ先までの経路が、浸水想定区域を通っていないかを確認します。「避難場所は知っている、でも行き方は考えていなかった」では意味がありません。
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【4】「空振りしても恥ずかしくない」と決める
避難して何もなかった場合、「行き過ぎた」「大げさだった」と思う必要はありません。空振りは成功です。「空振りOK」という自分ルールを意識的に持つことが、次に動くための心理的な準備になります。
まとめ
- 水害の逃げ遅れは「情報の欠如」より「心理的な妨げ」によって起きることが多い
- 正常性バイアス・同調バイアス・オオカミ少年効果・楽観バイアスの4パターンを知っておく
- 緊急時に「考える」のは難しい。平時に逃げるトリガー・逃げ先・経路を決めておく
- 空振りを恥じない文化を自分の中に作ることが、最大の心理的準備になる
- マイ・タイムラインの作成が、これらをまとめる最善の方法
「ちょっと防災」、今日から始めてみてください。
このブログは、学生や地域の皆様が防災の基本を体系的に学べる「オンライン防災教本」を目指して、本学教員である筆者の研究・教育成果に基づき作成しています。
実際の災害時は現場の状況に応じた柔軟な判断が求められます。記事に含まれる情報の活用は読者の皆様の判断と責任において行っていただきますようお願い申し上げます。また、記事の内容は大学の公式な見解や推奨を意味するものではありません。なお、記事に含みうる誤りに関する一切の責任は筆者に帰属します。
- 広瀬弘忠 (2004).『人はなぜ逃げおくれるのか―災害の心理学』集英社新書.
- 邑本俊亮 (2020).「災害時の人間の心理」. 消防防災の科学, 55(6), pp.286-292.
- 菊池聡 (2018).「災害における認知バイアスをどうとらえるか : 認知心理学の知見を防災減災に応用する」. 日本地すべり学会誌, No.139, p.18-.
- 内閣府 (2018).「平成30年7月豪雨による水害・土砂災害からの避難に関するワーキンググループ 第1回資料2」
- 牛山素行 (2018).「平成30年7月豪雨による人的被害等についての調査(速報)」静岡大学防災総合センター. ※内閣府WG第1回資料6として公表.
- NPO法人環境防災総合政策研究機構 (2018).「平成30年7月西日本豪雨災害アンケート調査結果速報」
- 内閣府「避難情報に関するガイドライン」(令和3年5月改定、令和8年3月改定)
- 国土交通省「マイ・タイムライン」
- 国土交通省「ハザードマップポータルサイト」
