京都市内を観光していると、「指定緊急避難場所」と名前が似ている「緊急避難広場」という標識を目にすることがあります。皆さんは両者をしっかり区別できていますか?緊急避難広場は、大規模な災害が起きたとき、しばらくここに留まってください、という意味があります。
わたしが海外に行って「表示」で困るのはドイツでしょうか。英語とはまた違った言葉ですし、英語との親和性が高いフランスからドイツへ渡ると一気に標識などが分からなくなってしまいます。特にトイレに入るときは注意してますね。男性用は「Herren(ヘレン)」女性用は「Damen(ダーメン)」と書いてあることが多いのですが、なんとなくヘレンの方が女性のイメージありませんか?なんでかなぁ……ヘレン・ケラーさんの影響かなぁ……西川ヘレンさんの影響かなぁ……と考えながら今日も女性用トイレに突撃しそうになるサトウですこんにちは。捕まるでしかし!
このように、一見親しみのある言葉も意味を正しく理解していないと大変な状況になる可能性があります。災害時も同じです。「緊急避難場所」「緊急避難広場」。両者はとても似ていますが、これらはそれぞれ根拠となる法律も、対象とする災害も、機能もバラバラです。今回は避難場所の種類とその違いを解説します。
- 「避難所に逃げれば大丈夫」と思っていた方
- 観光地の緊急避難広場の標識を見たことがある方
- 地震と水害で避難先が違うと知らなかった方
そもそも「避難場所」の標識には種類がある
観光地でよく見かける「避難場所」の標識。実はこれ、根拠となる法律も目的も対象とする災害もまったく異なる複数の制度が混在しています。
この記事では特に混同されやすい「指定緊急避難場所」と「緊急避難広場」の2つを中心に整理します。なお「指定避難所」(被災後に生活する場所)という第三の制度もありますが、そちらの詳細は別記事で解説しています。
この2つが混同されやすい最大の理由は、どちらも「避難」という言葉を含む標識が立っており、地図にも似たようなアイコンで表示されることがあるからです。
指定緊急避難場所:命を守るための一時的な逃げ場
指定緊急避難場所とは、災害が発生または発生しようとしているときに、危険から命を守るために一時的に逃げ込む場所です(災害対策基本法第49条の4)。
ここで重要なのは「災害の種別ごとに指定されている」という点です。
たとえば「洪水」に対応した指定緊急避難場所は、洪水が起きても安全な高台や堅牢な建物の高層階などが指定されます。一方、同じ場所が「土砂災害」には対応していないこともあります。避難行動の意思決定プロセス(Lindell & Perry, 2012)が示すように、人は緊急時に「どこへ逃げるか」をとっさに判断しなければなりません。だからこそ、事前に「自分の逃げ先がどの災害に対応しているか」を把握しておくことが不可欠です。
各施設・場所ごとに「どの災害種別に対応しているか」が定められています。
国土交通省のハザードマップポータルサイト(https://disaportal.gsi.go.jp/)では、地図上で「洪水対応」「土砂災害対応」などを絞り込んで確認できます。
なお「指定避難所」(学校・公民館など、被災後に生活する場所)は、指定緊急避難場所とは別の制度です。水害時に「とりあえず避難所へ」と向かうことが必ずしも正解でない理由については、以下の記事で詳しく解説しています。
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緊急避難広場:知らない人が多い制度
ここからが、他の記事ではあまり触れられていない内容です。
「緊急避難広場」は、京都府と京都市が進めている帰宅困難者対策の仕組みです(法律上の「指定緊急避難場所」とは別制度)。大規模地震などで公共交通機関が止まり、多くの観光客が帰宅困難になったとき、一時的に集まって情報を得るための場所として、寺社などと協定を結んで整備されています。現在、京都市全域で寺社等50施設と協定を締結しています。
京都市では、大規模地震等の災害発生時に観光客をはじめ通勤・通学者など約37万人が帰宅困難者になると想定されており、その対策として整備されたものです。
- 災害情報・公共交通機関の運行情報の提供
- 水道・トイレの提供
- 帰宅困難者を一時的に受け入れる場所の確保
| 想定する災害 | 主に大規模地震等による交通マヒ・帰宅困難 |
| 対象 | 観光客・通勤通学者などの帰宅困難者 |
| 協定締結施設 | 寺社等50施設(京都市全域、2026年3月時点) |
https://www.bousai.city.kyoto.lg.jp/0000000219.html(2026年3月5日更新)
同じ嵐山公園が「来てください」と「来ないでください」になる
ここで、冒頭の問いに戻ります。
嵐山公園(中之島地区)は「緊急避難広場」に指定されています。(現地の標識には「観光客緊急避難広場」と表記されています。)
嵐山公園から阪急嵐山駅につながる道に設置されている「緊急避難広場」の標識(筆者撮影)
大規模地震が起きて交通機関がすべて止まったときには、中之島地区に留まって情報を得る。これは推奨される選択肢になり得ます。
※被害の状況によっては、必ずしも正解とは限りません。現場の状況から柔軟な判断が行えるようにしましょう。
では、台風で桂川が氾濫しそうなときはどうでしょうか?中之島地区は桂川の洪水浸水想定区域に含まれており、水害時には公園自体が浸水するおそれがあります。この状況で中之島地区に集まることは正解ではありません。
これが「同じ場所でも、直面している災害の種類によって役割が変わる」という構造です。
標識を見たときに確認すべき、たった1つのこと
難しいことを覚える必要はありません。避難場所の標識を見たとき、これだけ確認してください。
- 指定緊急避難場所なら→「洪水対応か」「土砂災害対応か」「地震対応か」を確認
- 緊急避難広場なら→「地震等の帰宅困難者向け」であり水害時は対象外
実際の確認方法は簡単です。国土交通省のハザードマップポータルサイトを開き、現在地を入力すると、その場所の洪水リスク・土砂災害リスクと、周辺の「洪水対応の指定緊急避難場所」が地図上で確認できます。
観光に行く前に自宅でハザードマップを確認しておくこと、それだけで「いざというときに何もわからない」状態から抜け出せます。
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まとめ
- 「避難場所の標識」には種類がある。根拠・目的・対象災害がそれぞれ異なる
- 指定緊急避難場所は「災害種別ごとに指定」。洪水対応・土砂対応・地震対応はすべて別
- 緊急避難広場は「地震等の帰宅困難者向け」の京都市独自の制度。水害時の避難場所ではない(現地標識では「観光客緊急避難広場」と表記されているケースがある)
- 嵐山公園(中之島地区)は地震時の帰宅困難者向け「緊急避難広場」だが、水害時は浸水するおそれがある。同じ場所でも直面している災害の種類によって役割が変わる
- 標識を見たら「何の災害のための場所か」を確認する習慣を持つ
避難場所の「種別を確認する」という習慣、今日からつけてみてください。難しいことは何もなく、ハザードマップポータルサイトを1回開いてみるだけです。
「ちょっと防災」、今日から始めてみてください。
このブログは、学生や地域の皆様が防災の基本を体系的に学べる「オンライン防災教本」を目指して、本学教員である筆者の研究・教育成果に基づき作成しています。
実際の災害時は現場の状況に応じた柔軟な判断が求められます。記事に含まれる情報の活用は読者の皆様の判断と責任において行っていただきますようお願い申し上げます。また、記事の内容は大学の公式な見解や推奨を意味するものではありません。なお、記事に含みうる誤りに関する一切の責任は筆者に帰属します。
- 災害対策基本法(第49条の4・第49条の7・第49条の8)
- 京都市防災ポータルサイト「帰宅困難者対策について」(2026年3月5日更新)
- 京都市「帰宅困難観光客避難誘導計画(嵯峨・嵐山地域)」
- 国土交通省「ハザードマップポータルサイト」
- 内閣府「指定緊急避難場所の指定に関する手引き(令和8年1月改定)」
- Lindell, M. K., & Perry, R. W. (2012). The Protective Action Decision Model: Theoretical Modifications and Additional Evidence. Risk Analysis, 32(4), 616–632.
- 大佛俊泰, 草野峻一(2025).「大地震時における帰宅困難者の分散帰宅と一時滞在施設への誘導による混雑緩和効果に関するシミュレーション分析」. 日本建築学会論文集, Vol. 90(832), pp.1231-1239.
- 内閣府(防災担当)「災害発生時における大規模な帰宅困難者等の発生への対策に関するガイドライン(令和8年1月)」
