2026.09.01 ぼうさいらぼ

「防災の日」はなぜ9月1日なのか:103年前の教訓と今日の備え

考え込む表情の男女3人の写真を背景に、中央に大きく「9月1日は防災の日」、下部に「103年前の教訓を今日の『ちょっと防災』につなげる」のテキストが重ねられた記事サムネイル

2026年7月28日、熊本県熊本地方を震源とする最大震度7の「令和8年熊本地震」が発生しました。10年前の平成28年熊本地震の記憶がまだ残るなかでの再度の被災となり、現地では今も復旧・復興に向けた対応が続いています。また、2026年8月13日には「令和8年8月千葉豪雨」が発生するなど、8月は各地で豪雨災害が相次ぎました。被災された皆様には、心よりお見舞い申し上げます。

そして今日、9月1日は「防災の日」です。1923年の関東大震災、そして1959年の伊勢湾台風という2つの大きな災害の教訓から生まれたこの日は、時代や場所を問わず、日本が繰り返し自然災害と向き合ってきたことを思い出させてくれます。今年は特に、その意味を軽く受け止められない一年になったのではないでしょうか。

この記事では、「防災の日」がどのような経緯で生まれたのか、そして防災週間の期間中に何が行われているのかを、一次資料に基づいて整理したうえで、今日から家庭で始められる備えについて解説します。

この記事でわかること
こんな人におすすめ!
  • 「防災の日」を毎年なんとなくやり過ごしている方
  • 子どもや家族に防災の日の由来を聞かれても答えられない方
  • 年に一度、家庭の備えを見直すきっかけが欲しい方

なぜ9月1日なのか:関東大震災という原点

1923年(大正12年)9月1日11時58分、関東地方をマグニチュード7.9の巨大地震が襲いました。関東大震災です。内閣府の防災白書によると、この地震による死者・行方不明者は約10万5,000人に及び、全半潰・焼失・流失・埋没した住家は総計約37万棟にのぼりました。日本の自然災害史のなかでも最大級の被害です。

ここで意外と知られていないのが、犠牲者の多くが「地震の揺れそのもの」ではなく「地震後に発生した火災」によって亡くなっていることです。発災が昼食どきと重なったことで、東京・横浜の各所で同時多発的に火の手が上がりました。特に本所区(現・墨田区)横網町の被服廠(ひふくしょう)跡では、避難していた住民約4万人が火災旋風の犠牲になったとされています。

関東大震災の死者・行方不明者(約10万5,000人)の内訳
火災による死者・行方不明者 約9万人

全体のおよそ8〜9割を火災による死者が占め、住家の倒壊・津波・土砂災害・工場の倒潰などによる死者等が残りの約1万5,000人とされています(内閣府「令和5年版防災白書」特集1第1章第1節)。

「地震=建物の倒壊」というイメージを持っている方も多いと思いますが、関東大震災が教えてくれるのは「揺れがおさまった後」にこそ命に関わる危険が潜んでいるということです。この教訓こそが、のちの「防災の日」制定の直接的な原点になりました。

もう一つの教訓:伊勢湾台風と「防災の日」制定の経緯

「防災の日」は関東大震災だけでできた記念日ではありません。もうひとつ、忘れてはならない災害があります。1959年(昭和34年)9月26日に東海地方を襲った伊勢湾台風です。

東京消防庁の資料によると、伊勢湾台風は高潮によって愛知県・三重県の沿岸部を中心に壊滅的な被害をもたらし、死者4,700人・行方不明401人、合わせて5,000人を超える人的被害を出しました。これは戦後の日本における台風被害としては最悪の記録です。

関東大震災(1923年)

発生日:9月1日11時58分
規模:M7.9
死者・行方不明者:約10万5,000人
住家被害:約37万棟

伊勢湾台風(1959年)

発生日:9月26日
死者:4,700人/行方不明:401人
全半壊・流失家屋:15万3,893戸
浸水家屋:36万3,611戸

この災害をきっかけに、当時の防災体制の不備――堤防の整備状況や避難情報の伝達方法など――が浮き彫りになりました。

伊勢湾台風の教訓を受けて、翌1960年(昭和35年)6月17日、政府は閣議了解により9月1日を「防災の日」と制定しました。関東大震災が発生した日付を選びつつ、そこに伊勢湾台風の教訓も重ね合わせる形で、この記念日はできあがったのです。さらに1961年(昭和36年)には、この一連の流れを踏まえて災害対策基本法が制定され、日本の防災体制の骨格が形づくられていきました。

豆知識:「防災の日」を定めた1960年の閣議了解は、その後1982年(昭和57年)5月11日の閣議了解によって引き継がれ、現在は「防災の日」に加えて「防災週間」を全国的に実施する根拠として運用されています(内閣府「『防災の日』及び『防災週間』について」)。

つまり「防災の日」は、「地震に備える日」であると同時に、「風水害を含めたあらゆる自然災害に備える日」でもあるのです。地震のことばかり思い浮かべがちですが、9月という台風シーズンの入り口にこの日が置かれていることには、こうした意味があります。

「防災週間」とは

9月1日単体だけでなく、その前後にあたる8月30日から9月5日までの1週間は「防災週間」として定められています。この期間、全国の自治体や企業、学校で総合防災訓練が実施されるほか、地域の防災訓練やイベントが集中的に行われます。

たとえばNTT東日本・西日本は、災害時に安否確認で使う「災害用伝言ダイヤル(171)」の体験利用日を、防災週間(8月30日9:00〜9月5日17:00)に合わせて設定しています。「171」については以前の記事で詳しく解説していますが、覚えていても「実際に使ったことがある」人は驚くほど少ないのが実情です。防災週間はこの「練習しておく」ための絶好の機会になります。

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「訓練は年に一度でいい」という意味ではありません。「年に一度は”必ず”やる」という区切りとして防災週間を活用する、というのが正しい捉え方です。日々の生活のなかで防災のことを考え続けるのは正直つらいですが、「この週だけは必ず確認する」と決めておけば、忘れずに済みます。

実際、社会心理学の研究でも、家庭の防災対策は「災害のリスクをどれだけ怖いと感じるか」よりも、「対策することに意味がある」という認識や、身の回りの人が備えているという規範意識に強く影響されることが指摘されています(元吉ほか, 2008)。つまり「なんとなく怖い」だけでは行動は続きません。防災週間のような「決まったタイミング」を作ることが、実際の行動につながる一つの鍵になります。

103年経って「今」何をすべきか:3つのアクション

関東大震災から103年、伊勢湾台風から67年が経ちました。当時の被害の教訓は、法律や制度という形で確実に社会に根付いています。ただし、それが「あなたの家庭の備え」にまで落とし込まれているかどうかは、また別の話です。防災の日は、そこを点検する日だと考えてください。今日からできる3つのアクションを紹介します。

内閣府が2025年10月に公表した「防災に関する世論調査(令和7年度)」によると、3日分以上の家庭備蓄をしていると答えた人の割合は、飲料水69.8%、食料品59.7%、衛生用品38.7%に対し、携帯・簡易トイレは27.5%にとどまっています。「一度備えたつもり」でも、項目によっては備えが薄いことが多いというのが実態です。

1
今日のアクション

持ち出し袋の中身を”今日”チェックする

非常持ち出し袋は「一度準備したら終わり」ではありません。乾電池は液漏れしていないか、非常食の賞味期限は切れていないか、季節に合った衣類が入っているか――年に一度は必ず中身を開けて確認する必要があります。以前紹介した「防災リュック」の記事もあわせてご覧いただき、今日だけは実際に袋を開けてチェックしてみてください。

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今日のアクション

家族の集合場所・連絡手段を確認する

「うちは家族で話し合っているから大丈夫」と思っている方ほど、実は認識がバラバラだったりします。以前の家族会議の記事でも触れましたが、「集合場所」「連絡手段」「連絡ルール」の3つは、少なくとも年に一度、防災の日のタイミングで再確認しておくべき項目です。LINEひとつ、「今度の防災の日に集合場所だけ確認しよう」と送るだけでも十分な一歩になります。

なぜ「話し合ったつもり」が危険なのか:防災心理学の研究では、対策行動の実行を左右する要因として「自分が対策する責任を負っているという認識(責任性認知)」の重要性が示されています(田中・竹橋, 2019)。頭でリスクを分かっていても、「自分ごと」として引き受ける瞬間がなければ行動には移りません。「防災の日に確認する」という具体的な行動に落とし込むことが、その引き金になります。
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3
今日のアクション

自分の住むエリアのハザードマップを開く

引っ越しをしていなくても、ハザードマップの内容は更新されることがあります。「去年見たから大丈夫」ではなく、防災の日をきっかけに、自治体のハザードマップポータルを今一度開いてみてください。5分もあれば確認できます。

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いずれも特別な準備や出費が必要なものではありません。「今年も変わっていないか」を確認するだけの、いわば点検作業です。ハードルを上げすぎず、まずはこの3つのうち1つだけでもやってみることをおすすめします。

まとめ:「まさか」を忘れないための日

今回のポイント
  • 「防災の日」は関東大震災(1923年9月1日、死者・行方不明者約10万5,000人)の教訓から生まれた
  • 伊勢湾台風(1959年、死者・行方不明者5,000人超)の被害も、制定の大きなきっかけとなった
  • 1960年の閣議了解を経て「防災の日」が制定され、翌年には災害対策基本法が生まれた
  • 8月30日〜9月5日は「防災週間」。全国で訓練や171の体験利用日などが設けられる
  • 持ち出し袋・家族の連絡手段・ハザードマップ、この3つを今日確認する

103年前、当時の人々は「まさかこんなことになるとは」と思ったはずです。防災の日は、その「まさか」を忘れないための日です。特別な準備をする必要はありません。今日は、去年決めたことがまだ有効かどうか、一度だけ確認してみてください。

「ちょっと防災」、今日から始めてみてください。

「防災の日」基本情報
制定日 1960年(昭和35年)6月17日 閣議了解
由来 関東大震災(1923年9月1日発生)+伊勢湾台風(1959年9月26日)の教訓
防災週間 毎年8月30日〜9月5日
関連法令 災害対策基本法(1961年制定)

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サトウ先生|博士(工学) / 防災士
京都光華大学 社会学部 社会共創学科
「専門知識を、わかりやすく身近に。」これまで数々の自然災害を目の当たりにしてきた実体験をもとに、防災に関する大学での講義や地域での講演を行っている。南国出身のため雪にはとっても不慣れで、京都での最大の災難は大雪のときに滑ったことだと思っている。摩擦係数の計算は得意だが、雪道の滑りやすさは計算外だった。だが、その失敗さえも防災の教訓に変えてしまうのが私のスタイルだ。実に面白い。
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