旅行の準備で欠かせないもの、パスポート、充電器、着替え、カメラ。あなたのパッキングリストに、「旅行先のハザードマップ確認」は入っていますか?おそらく、ほとんどの方の答えは「入っていない」だと思います。でも、考えてみてください。旅行先で被災したとき、あなたは最も防災的に無力な状態にいます。そのような状況で大地震や豪雨に遭遇したら、あなたはどうしますか?
まだスマホがない時代、海外旅行に行くときは泊まるホテルの地図を印刷して持っていってた…のは最初だけで、途中から行きの空港で最寄りの駅だけ検索してメモって行くようになりまして。そうしていたら痛い目に遭いました。英語が通じない国、ちょっと贅沢して有名ホテルチェーンに泊まる計画。意気揚々と最寄りの地下鉄駅を出たらどこを探しても見当たらない!半泣きでタクシーに乗り、運転手の方に◯◯!◯◯!(ホテルチェーンの名前)を連呼するもまったく通じず。見かねた運転手の方が観光タクシーみたいにあたりをゆっくり流し始めたら、ビルの陰から現れたのはあのホテル…!「あれ!あれ!」と必死に指差してやっと到着できたサトウですこんにちは。翻訳こんにゃくがほしい。
このように旅では想定外のことが起こるものですが、サトウは準備を怠っていたため痛い目にあってしまいました。皆さんが同じ目に遭わないように(?)、今回は旅行前に確認したい「旅行先の災害リスク確認」を解説します。夏休みシーズン、旅行や帰省の前に一度だけ読んでください。
- 夏休みに旅行・帰省を予定している方
- 「旅行先で被災したことを考えたことがなかった」という方
- 防災対策は「自宅周辺だけ」と思っている方
旅行先での被災が「自宅より危険」な3つの理由
なぜ旅行先での被災が自宅より危険なのか。3つの理由があります。
土地勘がない
自宅周辺なら、どの道を行けば高台に出るか、近くに川があるかどうか、地盤が弱いエリアはどこかを、意識せずとも知っています。でも旅行先では、そのような感覚がゼロです。夜間に宿泊先で大雨警報が鳴ったとき、「どの方向に逃げればいいか」をその場で調べていては遅いのです。
避難場所がわからない
自宅の近くの指定緊急避難場所を知っている方は多いでしょう。でも旅行先のホテル近くの避難場所を知っている人、あるいは事前に確認する人は、ほぼいません。地震や水害が発生したとき、「避難場所はどこですか?」とフロントに聞けば教えてもらえるかもしれませんが、混乱の中でそれができるとは限りません。
観光地の宿泊施設が集積するエリアは、地形的に水辺や低地に立地するケースが少なくありません。函館市を対象とした研究では、津波浸水想定区域内に立地する宿泊施設のうち半数以上が垂直避難の難しい低層施設だったと報告されており、観光客の避難誘導体制づくりが課題とされています(永家ほか, 2015)。
地域のつながりがない
自宅周辺では、近所の方が声をかけてくれたり、地域の防災無線を通じて情報が届いたりします。旅行先では、そういった「人のネットワーク」が使えません。情報を自力で集め、自分で判断して行動しなければならない。これが旅行中に被災することの最大のハンディです。
旅行前5分でできる「ハザードマップ確認」の方法
難しいことはありません。スマホで5分あればできます。
ハザードマップポータルサイトを開く
国土交通省が運営する「ハザードマップポータルサイト」(https://disaportal.gsi.go.jp/)にアクセスします。
宿泊先の住所を入力する
予約確認メールに書かれているホテル・旅館の住所を入力し、地図を表示します。
確認するハザードマップを選ぶ
旅行先が海沿いなら「津波」と「洪水」、山沿いなら「土砂災害」と「洪水」を確認します。どちらでもない場合も「洪水」は必ず確認しておきましょう。
色と数字を読む
浸水想定区域には色がついていて、数字(例:0.5〜3.0m)が示されています。これが「この場所で何メートルの浸水が想定されるか」を示す想定浸水深です。下記は一例で、自治体によって凡例は異なることがあるので旅行先のハザードマップで必ず凡例を確認するようにしましょう。
| 色・区分 | 浸水深・目安 |
|---|---|
| オレンジ | 3〜5m未満:2階の屋根付近まで浸水 |
| 薄いオレンジ | 0.5〜3m未満:2階の床付近まで浸水 |
| 黄色 | 0.5m未満:1階の床下付近まで浸水 |
最寄りの避難場所を確認する
同サイトで「指定緊急避難場所」の表示を選ぶと、最寄りの避難場所が地図上に表示されます。宿泊先からの方向と距離を大まかに把握しておきましょう。
|
あわせて読みたい
ハザードマップの「読み方」で、知識が行動に変わる:色の意味から使い方まで、実践的に解説します
ハザードマップの詳しい読み方はこちら
|
ホテル・旅館でのチェックイン時に確認すること
ハザードマップの確認に加えて、チェックイン時に確認しておくと役立つことがあります。
部屋のベッドの位置にも注意しましょう。窓際のベッドは、地震の際にガラスが割れて破片が飛散するリスクがあります。可能であれば、窓から離れた位置で就寝することを意識してみてください。
ホテル・旅館内で被災した場合は「在宅避難」の考え方を活用する
旅行先のハザードマップで確認すると、周辺の緊急避難場所や指定避難所が把握できます。例えば、嵐山へ観光に行った際、渡月橋で被災した場合は、事前に調べた知識がとても役立ちます。
|
あわせて読みたい
桂川が氾濫したら渡月橋周辺はどうなるか:京都・嵯峨嵐山をハザードマップ片手に歩いてみた(1)
渡月橋周辺のハザードマップの読み方はこちら
|
|
あわせて読みたい
渡月橋から一番近い避難場所・法輪寺の土砂災害リスク:京都・嵯峨嵐山エリアをハザードマップ片手に歩いてみた(2)
最寄りの避難場所の土砂災害リスクはこちら
|
ホテル・旅館にいるときに被災した場合は、どう行動したらいいでしょうか。答えは、「ホテル・旅館のスタッフの方の指示に従ってください」です。地震の場合は、いったんホテル前の広いスペース等(避難場所)への避難を求められるかもしれません。ただし、その後は建物に問題がなければ、そのまま部屋へ戻って待機が認められることもあります(すべてのホテル・旅館で対応している訳ではありません)。
以前の記事でも紹介したように、建物や環境などの条件を満たせば、在宅避難は避難の最も有力な選択肢となり得ます。旅行先でもこの考え方を活用し、そのまま自分の判断で最寄りの指定避難所へ向かうのではなく、選べるなら「在室避難」を選んだ方が良いでしょう。
|
あわせて読みたい
自宅を避難所にしよう!在宅避難が正解になるケースと、その判断基準
在宅避難の判断基準はこちら
|
旅行中に役立つ防災の持ち物
旅行中の防災グッズは、「持ち歩けるコンパクトさ」が最優先です。本ブログで紹介した「防災ポーチ」の考え方が、旅行中に最も活きます。特に旅行中に役立つものを絞ると以下の通りです。
| □モバイルバッテリー(フル充電して出発):停電時でもスマホを使い続けられる。旅行中は充電できる機会が少ないため、大容量のものが有効 |
| □現金(千円札を複数枚+小銭):停電でATM・キャッシュレス決済が使えなくなることがある。旅行先での被災はこのリスクが高い |
| □常備薬・処方薬:被災時に薬局が開いているとは限らない。旅行日数より多めに持参する |
| □緊急連絡先カード:スマホが壊れた・電池切れのときでも、家族に連絡が取れるよう手書きのカードを財布に入れておく |
|
あわせて読みたい
【大学生・新社会人向け】防災ポーチに入れるべきアイテム7選-外出先・デート中に被災したらどうする?
防災ポーチの中身7選はこちら
|
帰省先で被災した場合の注意点
夏休みの帰省も、防災の観点で見ると「旅行と同じ状況」です。実家に帰省しても、何年も住んでいないと土地勘が薄れています。特に以下の点に注意してください。
- 実家のハザードマップを帰省前に確認する(地元のご家族も知らないケースが多い)
- 実家の建物が旧耐震基準(1981年〈昭和56年〉5月以前に建築確認を受けた建物)の場合、大きな地震での行動に注意する
- 地元の避難場所が、幼少期に知っていた場所から変わっていることがある(自治体による見直しがあった場合)
帰省は「久しぶりに家族に会える場所」ですが、同時に「自分の防災知識をアップデートする機会」でもあります。家族と一緒にハザードマップを確認することを、今年の帰省の話題のひとつにしてみてください。
|
あわせて読みたい
「家族と防災の話をしたことがない」人が今すぐできる30分家族会議
家族での話し合い方はこちら
|
まとめ
- 旅行先での被災は「土地勘がない・避難場所がわからない・地域のつながりがない」という三重のハンディがある
- 旅行前5分でできるハザードマップ確認を習慣にする(国土交通省ハザードマップポータルサイト)
- チェックイン時に非常口・避難経路を確認し、フロントに避難先を聞いておく
- 旅行中の防災は「コンパクトな持ち物」が鍵:モバイルバッテリー・現金・常備薬・緊急連絡先カード
- 帰省も「旅行と同じ」と認識し、実家のハザードマップを事前確認する
「旅行先のハザードマップ確認」をパッキングリストに加えることは、荷物は増えません。スマホで5分、今夜の宿を調べるついでに確認するだけです。
「ちょっと防災」、今日から始めてみてください。
このブログは、学生や地域の皆様が防災の基本を体系的に学べる「オンライン防災教本」を目指して、本学教員である筆者の研究・教育成果に基づき作成しています。
実際の災害時は現場の状況に応じた柔軟な判断が求められます。記事に含まれる情報の活用は読者の皆様の判断と責任において行っていただきますようお願い申し上げます。また、記事の内容は大学の公式な見解や推奨を意味するものではありません。なお、記事に含みうる誤りに関する一切の責任は筆者に帰属します。
- 国土交通省「ハザードマップポータルサイト」
- 国土交通省水管理・国土保全局「水害ハザードマップ作成の手引き」
- 内閣府「避難情報に関するガイドライン」(令和8年3月改定)
- 内閣府「指定緊急避難場所の指定に関する手引き」(令和8年1月改定)
- 政府広報オンライン「【防災特集】ACTION01 災害に事前に備える」
- 永家忠司, 宮武誠, 橋詰知喜, 布村重樹, 奈良哲男, 鈴木昭二, 奥野拓(2015).「『観光防災』のための災害図上訓練の試行的実施と課題に関する検討」平成26年度 土木学会北海道支部論文報告集, 第71号, B-66.
- 柿本竜治, 上野靖晃, 吉田護(2017).「自然災害リスク認知のパラドックス解消に向けた減災行動の地域性の検証」土木学会論文集D3(土木計画学), Vol.73, No.5, I_57-I_68.
- 国土交通省「新耐震基準・旧耐震基準の違いについて」(建築基準法施行令改正、1981年6月1日施行)
