どうして人は、非常識的なことが頭から離れなくなったり、感情を抑えられなくなったり、不合理で破滅的だと分かっている行動に走ってしまうのでしょうか。またこれらと、現在の社会システムやコミュニケーションのあり方は、どのように関連しているのでしょうか。つきつめていくと、私が関心をもっていることはすべて、「人（ヒト）とは何か？」という問いの周辺をめぐっているように思います。

私の専門分野は臨床心理学です。また、その中でも深層心理や精神分析に軸足を置いています。たとえば、人の心が不調をきたすメカニズムや、どのように回復するかについて、空想（ファンタジー）や夢などの分析を通して心理を解明していきます。この分析過程を通して、人は理性や合理性よりも感情や欲望の影響下にあることはもちろん、これら感情や欲望、さらには人を個として成り立たせている主体性や自由意志というものもほとんど幻想や虚構にすぎないということが分かってきました。

これらは結果として、動物には与えられていない、人間だけに生まれつき備わっている（とされる）崇高な価値について、その見直しや転換を意味することになります。加えて、近年のテクノロジーの発展に伴って、従来の学問の枠組みではとらえきれない現象が数多く起こってきています。歴史学や社会学だけでなく、行動経済学、進化心理学、大脳生理学、認知科学などの新しい知見を取り入れながら、「人（ヒト）」についての探求を続けていきたいと思っています。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　長田 陽一 (2020年1月25日)