生き方も学べる大学の良さを広く伝えたい
「寄り添う」大学としての教育システムを構築
2019年度より、京都光華女子大学の学長に就任することになりました。責任の重さに身の引き締まる思いです。人間としての生き方を学べるのは宗教系大学にしかないメリットだと考えています。仏教精神に基づく女子教育を実践する京都光華女子大学の良さをさらに磨き、広く伝えていくことが、私の仕事だと思っています。
私立大学が、私立大学たる所似は何でしょう。私は、「建学の理念」「進取の気性」「在野の精神」をもっていることだと考えています。
本学は、建学の理念を大切に伝え、実践してきた大学です。着任した2018年、学生に建学の理念についてたずねてみると、すぐに「寄り添い」「真実心」などの言葉が出てきたことに感銘を受けました。前学長の一郷正道先生が、折にふれて話をされ、その意識を徹底してこられた成果だと思います。そうして作っていただいた土台の上に、具体的な教育システムを構築するのが私の役割です。学生一人ひとりに寄り添う徹底した学習支援、サポートシステム、入学準備教育などを2019年度から実践していきます。
研究においては「進取の気性」を発揮する大学にしたいと考えています。小さくてもとがった研究を推進し、大学のブランド力を高めます。先生方には、個人の研究だけでなく、京都光華女子大学の将来につながる研究計画を立て、領域横断的なチームとしての研究プロジェクトも進めていただきたいと考えています。そのために設けたのが、研究担当の副学長職です。先生方と共に研究プロジェクトのあり方を協議していく予定です。京都大学をはじめとする他大学との連携も進めていきます。
「在野の精神」とは、権力と距離を置くということです。予算が足りないからといって国からの補助金ばかりに頼らず、独自の資金循環をつくって自立を目指す精神を大切にしたいと思っています。これは、後でお話しする私自身の研究テーマとも重なるところがありますので、具体的なアイデアも出して議論を進めていきたいと考えています。
私は京都大学で企業やシンクタンクを作った経験があります。京都光華女子大学でも、女子大ならではの企業を作るような発想があっても良いのではないでしょうか。
教育・研究を社会貢献につなぐ
教育基本法に記されている大学の役割の一つに社会貢献があります。本学では、地元を中心に社会貢献プログラムを展開していますが、今後は、それを教育や研究とどのようにつなぐかを考えたいと思っています。アメリカやカナダの一流大学には、大学での学びを社会で活かすサービスラーニングというプログラムがあります。本学には実学を学べる学科がそろっていますから、学んだことを社会でどのように活かせるのかを体験する機会を提供していくことが必要だと考えています。
さらに、本学には、理系分野でキラリと光る研究に取り組む先生が多くおられます。社会貢献と研究をつなぐ一つの形として産学連携を進め、まだ遠い目標かもしれませんが、企業への技術提供やライセンシングも視野に入れて着実に進んでいきたいと思います。
究め人のサイドストーリー
奈良の自宅に、先祖から受け継いだ農地を利用した畑があり、休日は畑仕事をしています。これまでに育てたのは、青肉メロン、赤肉メロン等のマスクメロン類、プリンスメロン、くろべえという黒いスイカなど。食べることより、何を植えるかを計画して苗を買い、育てることが楽しいですね。ストレス解消になります。ギリギリまで畑で完熟させてから収穫するので、本当に甘いんですよ。収穫を待ちすぎて、なめくじにやられてしまうこともあります。本学には栄養関係の学科があるので、健康機能性の京野菜を開発してブランド化できないかな…など、どうしても大学と結びつけて考えてしまいますね。
私の研究についてご紹介します
教育財源確保のための政策立案を目指して
最後に、私自身の研究についてお話ししましょう。今、日本では、財政難を理由に、教育への予算が削られています。公金があてにできないならどうすればよいのか、他に財源を調達する方法はないのか、諸外国のさまざまな仕組みを調査し、政策立案へつなげる研究をしています。
たとえばイギリスでは、民間の資金で公共施設を整備するPFIという制度があり、公立学校の建物もそれで整備されています。道路や橋を民間企業が整備し、通行料を徴収し、投資資金を回収するという発想です。さらにイギリスに加えてアメリカにも、社会貢献債(Social Impact Bond:SIB)という債券を発行して財源を調達する方法もあります。これらがどのように機能しているのかを検証しているのです。
寄付によって資金を集める方法も検討しています。災害などが起こった時、被災地には多額の寄付が寄せられますね。人間は、税金を払うことには抵抗感があっても、困っている人を助けたい、誰かの役に立ちたいという心を持っているものです。寄付を通して教育機関を支援することがいかに素晴らしい生き方なのかを、一般の方に理解していただくためにはどうすべきか、心理学の知見も求めながら研究しています。教育にどう財源を確保するかは非常に大切な課題です。公共政策学の先生との連携も行いながら、人の心にまで踏み込んだ教育政策の立案に寄与したいと考えています。
PROFILE
高見 茂 新学長
京都光華女子大学
京都光華女子大学短期大学部
1951年 奈良県生まれ。
京都大学大学院教育学研究科博士後期課単位取得満期退学。専攻は、教育行政学。
京都大学大学院教育学研究科教授、京都大学大学院教育学研究科長・教育学部長などを経て、
2018年4月、京都光華女子大学副学長・健康科学部教授に就任。
京都大学学際融合教育研究推進センター特任教授、公益財団法人「国際高等研究所」副所長、公益財団法人未来教育研究所理事長を兼務。
2019年4月、京都光華女子大学・京都光華女子大学短期大学部学長に就任。
研究テーマ…公共政策と教育資源配分