食物アレルギーの治療に管理栄養士・栄養士の果たす役割は大きい
卵アレルギーを起こしにくくする加熱方法を研究
食物アレルギーのことを知らない人はいないでしょう。卵、牛乳、小麦、木の実類など特定の食物を食べた時にさまざまな症状が起きるものです。治療の基本は食事対応ですので、管理栄養士や栄養士が治療の中で果たす役割が大きい病気だと言えるでしょう。私は長年、管理栄養士として食物アレルギーと向き合ってきました。今も研究を続け、その研究成果を患者さんへの栄養食事指導やレシピ開発、アレルギー対応食をテーマとした料理教室などの形で還元しています。
食物アレルギーの原因となるタンパク質は、20種類のアミノ酸が遺伝子情報に従って鎖状につながっているもの。熱を加えると、構造が変性してアレルギーが起きにくくなることがわかっています。これまでに取り組んできた研究の一つが、「卵アレルギーの要因となる主要なタンパク質であるオボアルブミンという物質は、どのように加熱すればアレルギーを起こしにくくなるか」というものでした。卵アレルギーだからと卵を避けているうちに栄養のアンバランスを招く例があることから、タンパク質の構造を変えてアレルギーを起こしにくくし、安全に食べられるようにする方法を研究したものです。詳細な調理法を患者さんやそのご家族、さらには給食を提供する管理栄養士・栄養士・調理員さんなどにも伝えてきました。
食べることは人にとって大きな楽しみのひとつです。食の楽しみを広げられるような指導をより多くの人に行っていきたいと考えています。
私が管理栄養士として歩んできた道
給食の管理には緊急対応の緊張感、スピード感が必要
管理栄養士は、人を食の面から支えることのできる素晴らしい職業です。ここで私が管理栄養士としてどのように歩んできたかをお話ししましょう。
子どもの頃から料理やお菓子作りが好きだった私は、大学進学時「栄養のプロになろう」と考え、管理栄養士の養成課程を選びました。学校給食の普及に尽力された先生のゼミに所属し、卒業前には大学院進学も勧められましたが、現場で働きたいとの思いから、管理栄養士の資格が活かせる病院に就職したのです。
病院で働き始めると、大学で学んだ知識だけでは十分な栄養指導ができないと思うようになりました。そこで、勤務後に日本栄養士会の研修を受け、さらに勉強を重ねるようになったのです。アレルギー専門医や看護師とのグループで食物アレルギーの勉強も開始。当時、日本では食物アレルギーの治療法が確立しておらず、教科書もなかったので、英語の書籍を取り寄せては勤務後に集まって学んでいました。日曜日には、患者さんのためのアレルギー対応料理教室も行いました。
この間、子育てをしながら病院で管理栄養士の管理職としての仕事や勉強、学会発表をしていたのですが、論文を書きたいとの思いがふくらみ、大学院に進学しました。病院には土日にも出勤し、平日は早朝から午後3時の早番を担当、そのあと大学院で夜遅くまで研究をするという生活を10年以上続けました。
病院の給食は365日、1日も欠かすことはできません。食事提供時間も厳しく守る必要があります。患者さんの様子に応じて食事や経腸栄養剤の内容をすぐに変更する指示を出さなければならないこともあります。その意味で、管理栄養士は緊張感、スピード感を持つことが必要な仕事。休日や海外滞在中でも緊急連絡が入ることもありました。それでも周囲の方々に恵まれ、励まされながら病院勤務と大学院での研究を両立させることができたことを感謝しています。
大学教員としてより多くの人に栄養やアレルギーへの理解を広げていきたい
大学での教育の他に、講演、論文執筆、学会発表、さらには教科書の作成やレシピ開発などにも携わっています。カンボジアに離乳食や栄養不良児の経過観察や栄養指導、生活改善の啓蒙活動を行ったこともあり、乳幼児を取り巻く社会情勢の複雑さの中で、継続して栄養の知識の普及に取り組むことの難しさも感じました。
本学への着任後も、機会を捉えて主に小児のアレルギー、肥満、離乳食などに関する栄養食事指導を続けています。以前に比べると、食物アレルギーに関する正しい知識を持つ人が増えてきましたが、保育や教育の現場での事故はなくなりません。今後とも、保育や教育のプロ、栄養のプロに対して最新の知見を伝えることによって、栄養や食物アレルギーに関する理解を広げていきたいと考えています。
究め人のサイドストーリー
趣味は旅行です。コロナ禍前に旅したケニアやタンザニアでは野生動物の姿に厳しい自然の中で生き抜いている美しさを見出しました。野生動物は体が汚れていて匂いがあると天敵に見つかってしまうので、きれいなのです。厳しい環境で生きている野生の動物は、生き生きとしています。この前の冬休みにはインドのアッサム州へ行き、インドサイを見てきました。保護されたエリアなのでペットボトルやペンなどプラスチック製品は持ち込み禁止。車も入れない沼地なので象に乗って行くんですよ。
「動物園にもいるのに」と言われますが、カピバラを見にブラジルのアマゾン川に行ったこともあります。時々動物園にも行きますが、また野生の動物に会いたくなります。貴重な休みに遠路はるばる行っても、こちらの思い通りに会えるわけではありません。でも私はそれも野生動物の魅力だと思っています。
幅広い分野の中から自分なりの「特技」を持つことを意識しよう
医療分野など、様々な専門分野に強い管理栄養士を育成する
患者さんやご家族との長期にわたるふれあいも管理栄養士の仕事の魅力の一つです。牛乳アレルギーだったお子さん。少量の牛乳を少しずつ摂取し続け、保護者もアレルギー食について学び、熱心に取り組まれた結果、ようやく乳製品を食べられるようになって、嬉しさのあまり転げまわっていた姿が忘れられません。
活躍の場の幅広さも管理栄養士の大きな魅力だと思います。病院などの医療現場で栄養管理のリーダーとして活躍することもその一つですし、食品メーカーでの商品開発や、専門性を活かしてアレルギー代替品など医療分野で有用な食品の開発を行うことも想定できます。給食委託会社で集団給食に関わり、健康の維持や増進に寄与することもできます。近年はドラッグストアでの栄養指導も重要な仕事になっています。子どもが好きな人なら、小学校で食育を行う栄養教諭、給食の献立を考える学校栄養職員という仕事も魅力的かもしれません。
高齢者ができるだけ地域で生活できるように支える地域包括ケアシステムにも、管理栄養士による栄養ケアが不可欠です。行政機関や高齢者施設での勤務、訪問医療チームの一員として仕事をする場合もあるでしょう。食や栄養に関するサービスを提供する栄養ケア・ステーションを立ち上げて、地域の栄養ケアに貢献することもできます。スポーツ栄養を学び、身体機能向上の面から健康づくりに寄与するのもいいですね。個人での活動、たとえば、食を提供するお店をオープンしたり、YouTuberとして正しい健康と栄養の情報発信をすることも、社会に貢献する一つの方法だと思います。
資格を取得した時がスタートです。学生時代から自分なりの「特技」を持つことを意識し、将来を見すえて力を養いましょう。病院に勤務するなら、特定の疾患に関する専門性を高めてほしいと思います。たとえば糖尿病なら、糖尿病療養指導士の資格取得を目指すなどがそれにあたります。高齢者施設勤務なら、飲みこみが困難な人向けのレシピや提供方法を究めるのもいいでしょう。本学には、これらの基礎となる学びがたくさん用意されています。メディカル栄養コースでは、東京医科大学病院 栄養管理科科長の宮澤靖客員教授と連携し、医療現場でチーム医療の一員として貢献できる管理栄養士を実践的に育成するプログラムもあります。本学の健康栄養学科で学び、社会のさまざまな場所で活躍して、世の中に貢献してほしいと願っています。
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