健康寿命に大きく関わる「口腔機能低下症」

噛む力、舌の力、水分量など、さまざまな角度から口の機能を測定

人の寿命が長くなった今、生涯にわたって身体的・精神的・社会的に健康でいるためには、自分の力で食事をし、話ができる状態でいることが欠かせません。

食べ物を噛んだり、飲み込んだり、話したりといった口の機能のことを口腔機能といいます。2018年に、加齢のため口腔機能が低下する症状が「口腔機能低下症」という新しい病名として認められました。口腔機能が低下し、食べられるものが少なくなると、栄養状態が悪化して身体的な健康が損なわれます。話がしにくくなると、人とのコミュニケーションが円滑にできなくなって精神的、社会的な健康が損なわれます。口腔機能の低下は、健康寿命に大きな影響を与えるものなのです。

高齢になっても口腔機能を維持できるかどうかは、乳幼児期の口腔機能の高さが大きく関わると指摘されています。そのため、私は、子どもの口腔機能をさまざまな角度から検査し、生涯にわたって高い口腔機能を維持するためにはどうすれば良いかを研究しています。

口腔機能の検査とはどのようなものか、光華小学校の1年生を対象に実施した検査を例に説明しましょう。今回は、通常の歯科検診に加え、特殊なフィルムを噛んで噛む強さや左右差を測定したり、測定用のグミゼリーを使ってどのくらい噛みくだけたかを判定しました。また、舌と上あごにはさんだ小さな風船を押しつぶすことで舌の力を測ったり、魚肉ソーセージをかじりとって咀嚼してもらい、一口の大きさ、咀嚼のテンポや回数などを詳細に調べたりもしました。これらの検査は、飲み込む力や口の中の水分量を調べたりするものです。保護者へのアンケートも実施し、普段どのようなものを食べているか、お子さんの食に関する悩みはないかなどについても調査しました。

永久歯への生え変わり期、噛む力は低下する?

まだ研究は半ばですが、これまでに分かったことの一つが、乳歯から永久歯に生え変わる時期に、子どもの噛む力は低下し、その後の回復には食生活や生活習慣が大きく関係しそうだということです。咀嚼力の弱いお子さんの保護者にヒアリングをしたところ、家庭での食事に特に苦労はしていないとの回答がありました。生え変わり期に柔らかいものばかり食べる習慣がついたまま、永久歯が生えそろっても固いものはあまり食べないのが当たり前になり、気づかないうちに咀嚼力の低下を招いているケースがあるようです。

このような場合、保護者には、将来起こりうるリスクについてお話しします。噛む機能が低いと、食のレパートリーが狭まり、栄養に偏りが生じて生活習慣病のリスクがあること、高齢になった時に残る歯の本数が少なくなる傾向があることなど、最新の研究成果を直接お伝えするのです。

目の前でお子さんの口腔機能を測定し、保護者から直に声を聞き、すぐにフィードバックできる環境があるのは、本学に附属の校園があるからこそ。感謝しつつ研究を進めています。

将来の健康のため、定期的に口腔機能の検査を

口腔機能検査の普及で、歯科医院・歯科衛生士の役割はさらに広がる

定期的に健康診断を受診していると、血圧やコレステロール値などの変化に対する気づきが、健康への意識につながりますね。お口の中も同じです。例えば、口の中の水分量の少なさを指摘されたら「薬の影響かな」「ストレスがかかっていたかな」など、さまざまなことに気づくでしょう。それが、口腔機能を維持することへの意識にもつながるのです。

健康診断で測定する、血圧、脈拍数、血液検査のさまざまな項目などと同様に、その人の健康状態や将来の健康を推し量るバロメーターとして、口腔機能のさまざまな項目についてもしっかりと検査し、知ることが大切だと思います。今、他の多くの先生方も、口腔機能と全身の健康との関係を研究しておられます。口腔内水分量と睡眠時間、咀嚼回数と肥満、咀嚼機能と生活習慣病などの関係性が徐々に明らかになっているところです。

口腔機能の検査ができる歯科クリニックは全国的に見てもまだ少ないのが実情です。しかし、2024年6月の保険改定によって、口腔機能の維持と育成に関する検査・指導がより充実したことから、今後は急速に普及することが期待されます。このことによって歯科医院の役割も広がり、歯科衛生士の仕事の幅も大きく広がって、さらなる需要の高まりが予想されています。

究め人のサイドストーリー

25年以上前、免疫抑制薬を服用し始めた父に病気をうつさないよう、周りの家族が健康でいるために試したことの一つがハーブやアロマセラピーでした。風邪のひき始めにカモミールティーを飲むと寒気がなくなったり、ラベンダーのオイルを希釈したものを塗布することで花粉症の目のかゆみがなくなったり、自分の症状が改善されることがすごく楽しくて、どんどんハマっていきました。自然と呼吸が深くなり、何も考えない時間を過ごせるのがハーブやアロマセラピーの良さだと思っています。出産時、産後のベビーマッサージ、抗がん剤治療でつらい状態の母へのハンドマッサージなど、人生の折々で助けられてきました。
最初は趣味でしたが、そのうちアロマセラピーの指導や教育にも携わるようになり、今は、日本統合医学協会の理事としてメディカルアロマセラピスト講座のテキストを書くなど、仕事としても関わるようになっています。

最新の設備を使い、教員が学生に寄り添いながら指導

歯科衛生士はワークライフバランスに合わせた働き方が可能

歯科衛生士の三大業務と呼ばれているのは、虫歯・歯周病予防のための処置「歯科予防処置」、歯科医師の診療をサポートする「歯科診療補助」、歯磨きや口腔ケアの方法を指導する「歯科保健指導」です。私が授業で担当しているのは「歯科保健指導論」。「健康とはなにか?」に始まり、口の中の構造や、虫歯や歯周病について、歯の磨き方や口腔ケアの指導方法、食事の摂り方をはじめとする栄養指導について学びます。また、例えば高齢者の誤嚥など、各ライフステージで起こる口腔内トラブルの原因や対応法も学びます。

本学の歯科衛生学科が開講する講義や実習には、学科開設にあたって教員が厳選した最新の設備が整えられています。実習室には、患者さんを模したマネキンも座席毎に備えられ、デジタル技術を利用して先生の実技を繰り返し見ながら練習することも可能です。また、本学にはクラスアドバイザー制度があるので、教員が常に学生のそばで寄り添いながら指導できる環境だと感じています。

歯科衛生士の資格は大学以外でも取得可能ですが、大学で学ぶことには大きなメリットがあると思います。特に本学には医療・福祉系の多彩な学部・学科があるため、口腔機能と関わる管理栄養士専攻や言語聴覚専攻などの学生と共に学生生活を過ごすことは 医療の現場に出てから大きな力になるでしょう。留学プログラムが充実していることも本学の魅力の一つです。語学留学はもちろん、韓国で最新の美容情報を学ぶプログラムも予定しています。その他、途上国へ口腔衛生管理のボランティアに行くことなども、貴重な経験になるでしょう。

私は長年、歯科クリニックで勤務し、出産後しばらくは、学校の歯科健診の単発アルバイトなどをしながら育児をしていました。その後、大学で学士・学位を取り教員になりました。歯科衛生士の魅力の一つはワークライフバランスに合わせた働き方ができる点にあると思います。歯科衛生士の勤務先はほとんどが歯科クリニックなので、夜勤がなく、休日や勤務時間も決まっています。特に今は人材不足のため、全国どこでも自分の条件に合った職場ですぐに働けるのも魅力です。

高校生へのメッセージ

「好きなこと」「得意なこと」が歯科衛生士としての強みにもなる

好きなこと、得意なことはありますか?歯科衛生士は自分の「好き」を活かせる仕事です。胎児から看取りまでを対象にさまざまな人と接する中で、歯科衛生士としての知識や技術と自分の「好き」を組み合わせて、患者さんのために役立てることができるからです。絵が好きなら歯磨きの絵本を作る、子どもが好きなら学校での指導、高齢者に寄り添いたいなら高齢者施設での仕事、美容に関心があるなら、歯のホワイトニングを勉強するのもいいかもしれません。私は長年、スポーツ選手を対象に口腔衛生管理指導やマウスピース管理指導を行うスポーツ歯科に関わり、趣味のアロマセラピーを口腔の健康管理に活かす試みも行っています。
大学では、勉強以外の好きなことに何でもチャレンジしてください。それが歯科衛生士としての強みにもなりますよ。

白水 雅子 講師

短期大学部 歯科衛生学科

1998年兵庫歯科学院専門学校歯科衛生学科卒業後、兵庫歯科学院専門学校専任教員、歯科クリニック勤務。2014年大手前大学現代社会学部現代社会学科卒業後、大手前短期大学歯科衛生学科助教、講師。2022年新潟大学大学院医歯学総合研究科口腔生命福祉学専攻博士後期課程修了後、2024年より現職。特定非営利活動法人日本統合医学協会理事、日本咀嚼学会評議員、日本スポーツ健康科学学会監事。

この分野が学べる学部・学科

短期大学部 歯科衛生学科

こどもから高齢者まで、すべての人々の歯・口腔の健康づくりをサポートする専門職「歯科衛生士」を養成。歯科衛生士として必要な知識や技能を習得するとともに、一人ひとりの健康に寄り添える教養と態度を身につけた人材を育成します。

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