困っている人を助ける自発的な行動から、新しい制度が生まれる

「意志を持って行動する」ことがボランティアの本質

ボランティア活動は社会にとって必要不可欠だと思います。

日々の生活の中で、困っていること、もっとこうだったらいいのにと思うことはありませんか。解決するには社会の仕組みを変え、新たな制度やサービスを整えることが必要です。しかし昔から人間は、困っている人が目の前にいれば、制度やサービスがなくても「自分たちでなんとかしよう!」と行動を起こしてきました。そして、その行動が広がっていくことによって、あとから制度やサービスが整えられ、社会の仕組みが作られてきたという歴史があります。新しい社会の仕組みを生み出す一つのエネルギー。これがボランティア活動の原点であり、意義です。児童養護施設も、老人ホームも、最初は個人が私費で自宅を開放するなどしたことからスタートしました。多くの人にとって必要であれば、同じように行動する人が増えていき、制度化を求める大きな声(世論)になるのです。

また、人間には、困っている人の役に立ちたいという気持ち、社会と関わっている実感を持ちたいという気持ちがあります。ボランティア活動は、そういった思いを実現するきっかけにもなると思います。ボランティア活動と奉仕活動は、活動自体は似ていますが、取り組むきっかけや意図するものが違います。奉仕活動は、指示を受けて決まったことを粛々とやり遂げるもの。ボランティア活動は、語源と言われるラテン語「volo」の「意志を持って行動する」との意味通り、個人の意志を出発点に、誰もやっていなくても、指示されなくても、自分のやりたいことに取り組むものです。「自発性」「社会性」「個別性」「先駆性」が、ボランティア活動のキーワードです。

ボランティアコーディネーターをサポートすることで
活動の持続につなげる

私の研究のテーマは、ボランティア活動をする側とボランティアの支援を受ける側が、お互い無理なく良い関係を持続できるようにするにはどうすれば良いか、その関係性をひも解くということです。

このテーマには私の個人的な経験が大きく関わっています。社会福祉学を専攻していた学生時代、私は、障害を持つお子さんをサポートするため放課後に家庭を訪問するボランティア活動をしていました。ご家族にも大変良くしてもらっていたのですが、「ずっとこの子のお姉さんでいてほしい」と言われた時から、私はその家に行けなくなってしまいました。そう言ってもらえたのは嬉しかったのですが、自分はその期待に応えられないのではないかというプレッシャーに負けてしまったのです。

その後就職した社会福祉法人大阪ボランティア協会では、ボランティア活動をしたい人とボランティアを求めている人をつなぐ、ボランティアコーディネート業務を担うようになりました。ボランティア活動をする側の人は、やる気はあっても自分がどこまでできるだろうという不安を抱えています。一方で、来てもらう側の人は、ボランティアに大きな期待を抱き、来てくれさえしたらすべての問題が解決すると思いがちです。そのギャップの中で、どのような関係性を築くことが継続的な活動につながるのか。そう考えたことが、長年にわたって取り組むテーマとなりました。

今は、ボランティアコーディネーターの方をサポートするための研究を行っています。ボランティアコーディネーターが日々直面している課題を共に考え、解決策を考えていくことが、ボランティア活動したい人とボランティアを求める人との良好な関係作りにつながると考えています。

学校の勉強や仕事ではできない経験ができる

一人ではできないことを実現する楽しさ

高校生の皆さんにとって、ボランティア活動は遠い存在かもしれません。でも、社会の中で何か気になる問題はありませんか?虐待、貧困、自然環境、性差…なんとなく気になっているけれど、友だちには言いにくいという人もいるかもしれませんね。そんな人にとって、ボランティア活動は一歩を踏み出すきっかけになると思います。

ボランティア活動は「自治の学校」と言われます。同じ思いを持つ人と話し合い、意見が合わなくても、主張すべきは主張し、譲るべきは譲る、全員が自分の役割を持ち、能力の違いはあっても尊重し合うという社会生活における基本的な態度を身につけることができるからです。

ボランティア活動に参加する人は、困っている人の役に立ちたいという強い気持ちを持っています。でも一人の思いだけでは何もできないということも実感しています。年齢も、社会経験も、価値観もさまざまな人が集まるからこそ、一人ではできないことが実現できる。だからボランティア活動は楽しいのです。

自分の考えを話し、みんなの力で形にして社会を動かすという経験はなかなかできるものではありません。自分の発言に責任を持ち、最後までしっかり行動するということにはストレスや不安もつきまとうでしょう。でもそこはボランティア同士で「不安だね」「私も同じだよ」と話し合ってまた元気になる。それがボランティア活動の魅力であり、活動の継続にもつながるものだと思います。ボランティア活動は、学校の勉強や仕事ではできない経験ができる場だと思います。私は、その活動が充実したものとなるように、そして継続ができるように、これからも間接的な支援をしていきたいと思います。

究め人のサイドストーリー

小学校4年生で始めたバレーボールを今も続けています。大きな声を出したり、ボールを思い切りたたいたりしてストレスを発散できるのがいいですね。今は9人制で後衛をやっています。チームのコミュニケーションがうまくいかないとボールがつながらないので、励ましたり、勇気づけたり、状況を見て全員の力が発揮できるよう考えるのはボランティア活動に通じるものがありますね。この歳になっても青あざは減らないし、けがで手術もしたし、周囲からはやめなさいと言われますが、まだやめませんよ。
大学のバレー部の顧問も務めています。ボール拾いとして練習にも参加。授業の時とはまた違う学生の充実した笑顔を見られるのが喜びです。

現代社会におけるボランティア活動を理解する

専門職とボランティアの連携についても学ぶ

他の先生方と共に担当している「ボランティア論」は、全ての学部の学生が履修できる科目です。ボランティアの意味や歴史について学び、現代社会の中でボランティア活動がどのような位置づけにあるのかを理解します。また、高齢者、障害者、児童、災害、医療、海外など、分野ごとのボランティア活動に関する具体的な事例についても学びます。あまり知られていませんが、これらの分野は、専門職だけではなく、ボランティアによっても支えられています。たとえば病院なら、受付で案内をしたり、入院中の子どもの相手をしたり、患者さんの家族を支えたりするボランティアが活動することによって、医師や看護師など専門職の力が十分に発揮できるようになっています。教育現場でも同様にボランティアが活躍しています。本学は、福祉、医療、教育などの専門職を志す学生が多く学んでいるので、各分野の専門職とボランティアがどのように連携しているのか、その実際を学ぶことはとても重要だと考えています。

授業では、ボランティア活動を実践している方をゲストスピーカーとして招いたり、国際的なボランティア活動を行うNGO(特定非営利活動法人ジャパンハート等)の映像資料を観たりして、具体的な活動内容を知ることを大切にしています。加えて各分野のボランティア活動に関する情報提供も行い、実際の活動への参加を促しています。

自然災害が頻発する昨今、誰もが被災者としてボランティアの支援を受けることがあり得ます。ボランティアへの理解と実践の経験があれば、支援を受ける側としても、ボランティアの力を効果的に発揮してもらえるような関係性が築けるのではないでしょうか。

高校生へのメッセージ

よく学び、よく遊べ

大学の4年間は、自分の意志次第で色々な経験ができる、人生の中の大きな宝物のような時間だと思います。その宝物をどう磨き上げるか、どう大きく育てるかを考えるとき、ボランティア活動に参加することが一つの良いヒントになるでしょう。ボランティアの経験は、長い人生の中で必すプラスになると思います。

石井 祐理子 教授

看護福祉リハビリテーション学部 福祉リハビリテーション学科 社会福祉専攻

※2024年4月開設

関西学院大学社会学研究科社会福祉学専攻博士前期課程修了。修士(社会福祉学)。社会福祉法人大阪ボランティア協会でボランティアコーディネーターとして勤務後、2003年より現職。吹田市社会福祉協議会ボランティアセンターなどと連携しながら「地域福祉活動の担い手とその支援のあり方について」をテーマに実践的研究を行う。

この分野が学べる学部・学科

看護福祉リハビリテーション学部
福祉リハビリテーション学科 社会福祉専攻

支援が必要な子どもに対応できる保育士、医療ソーシャルワーカー、福祉職公務員、3つの進路に合わせ、あらゆる年代の人々の暮らしのしあわせを支えるソーシャルワーカーを育てます。

※2024年4月開設

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