小学校英語教科化で、伸びるリスニング力、積極的に話す態度
十分なインプットの後、自分から自然と話したくなる場面を作る
2020年から、英語が小学校の正式な教科になったことをご存知ですか? 3、4年生での「外国語活動」と5、6年の「外国語科」で合計210時間の英語教育が行われるようになりました。先進国の中で各種英語能力指数の順位が低いと言われる日本で、英語をコミュニケーションツールとして活用できる人材を育てられるか、大きな期待が寄せられています。
私は長年私立小学校で早期英語教育の現場に立ってきました。英語の教科化にあたっては全国の小学校外国語指導研修や教材開発、また大学での教員養成にも携わってきました。その立場から、小学校の英語教育の現状と、私自身の研究についてお話ししたいと思います。
まず、現在行われている小学校の英語教育は、これまでの中学校の英語教育を前倒したものではありません。中学校でいきなり単語を覚えさせられたり、文の構造を教えられたり、構文を何度も言わされて英語が嫌いになった人はいませんか? 今の中学校英語もかつてとは大きく変わったものの、小学校で英語嫌いを作っては本末転倒ですよね。
今、小学校では、すべての教科が、「知識・技能」だけでなく、「思考・判断・表現」「学びに向かう力・人間性」という三つの観点から指導が行われています。英語では、その知識・技能だけではなく、コミュニケーション活動を通し実際に自分の考えを整理して表現すること、また、自ら必要な学びを考え、求めていく姿勢を身につけることを目標としているのです。
小学生を対象とした指導では、たくさんの英語の音に触れさせるようにします。特に低中学年では、歌を歌ったり、少し長い英語の表現をリズムに乗せて発音する「チャンツ」また絵本などが活用できます。意味は絵や身ぶりで伝えながら、わからない部分は類推させるのもいいでしょう。私たちが新聞や本を読むとき、初めて出会う言葉があっても気にせず読み進めることができますよね。英語でも、子どもたちは「何となくわかった」「こういう意味じゃないかな」と文脈を類推する力、さらには間違いを恐れないで反応したり、発話する力を伸ばすことができるでしょう。
「インプットファースト」も心がけています。赤ちゃんも、まわりの言葉をたくさん聴いてからようやく話しだしますね。ですからいきなり必然性のない“Is this a book?”と言う練習をするのは、本当の言葉の学びではないでしょう。たくさんのインプットの後に、何か言いたくなるような目的や状況・場面をたくさん作って自然と話す。それが大切です。
教科化への移行期間が始まった2018年以降に小学校で英語教育を受けた生徒は、中学校の段階でもリスニング力が非常に上がっていること、そして、物おじせず、積極的に発話するという報告がたくさんあります。実際に、それを受けての中学校卒業時の英語力にも変化がみられています。今後の課題は、新たに導入された小学校での「読み書き指導」をどのように、中学校につないでいくかという点です。小中高それぞれの校種で、小学生から高校生までの発達段階を考慮に入れ指導を繋げることが、明日の日本の英語教育を拓くための、大きな希望となるのではと考えています。
絵本の読み聞かせと第2言語習得
私の研究分野は、絵本の読み聞かせによる英語の指導です。絵本を使えば、楽しいストーリーの中で単語や表現を学ぶことができます。耳にする言葉の意味を、絵で類推する力を養うこともできます。読んでいる途中で “What’s this?”と聞いたり、“What will happen next?”と次の展開を予想させたり、自由な問いかけをして発話を促すこともできます。印象的なフレーズ、リズムの心地よい繰り返しから、英語独特のリズム、音節、アクセントなどの感覚が自然と身についていきます。
絵本を読む時は、登場人物になりきって話したり、ゆっくりと大きな抑揚をつけたり、聞き手とやり取りしますね。第二言語習得研究者のStephen Krashenは、Comprehensive Inputの重要性を提唱しました。Comprehensiveとは「理解可能」という意味です。完全に理解できる範囲より少しだけ難しいインプットの繰り返しが言語習得に繋がるというのが彼の説。「理解可能」にするための先生の発話はとても大切です。そういったTeacher Talkは、内容をよりよく分かってもらうための「絵本読みテクニック」に通じるものだと思いませんか?
さらには、読み聞かせをしている先生を見ているうちに、子どもたちは文字に興味を持つようになり、自分でも読んでみたくなります。音声から文字へ、無理なく橋渡しをすることができるということです。幼い子どもが絵本で母語をおぼえるのと同じように、絵本で英語を学ぶことができるのです。
AIの時代に英語を学ぶ意味とは?
子どもたちに「見えない翼」をつけてあげる
私たちの生活にAIが浸透し、翻訳も、通訳もできてしまう時代。英語を学ぶ意味はどこにあるの?と思う人がいるかもしれません。しかし私は、母語以外に二つ目の言葉を手に入れることによって、自信がついたり、思考が深まったり、世界が広がったりすることはいつの世も変わらない、確かなことだと考えています。
子どもたちに気づいてほしいのは、英語というツールを使えば、日本語が分からない人にも思いが伝わるということ。その体験をできるだけ多く重ねることが最も大切だと思います。ネイティブの先生が話した後に、きれいな発音でオウム返しするのは反復練習であって言語活動ではありません。今では小学校の先生方の理解も深まり、「英語が苦手」と言っていた先生が進んでコミュニケーション力の素地・育成に力を発揮されるケースが多くみられます。
私立小学校で長年指導をし、すでに社会人となった教え子もたくさんいます。その中に英語を使い世界へ逞しく羽ばたく姿を数多く見てきました。子どもたちに英語を教えることは、国境や言語の壁を飛び越えられる「目に見えない翼」をつけることです。英語の教科化にあたって全国の小学校を回ると、中には「人生で英語なんて必要ない」と思い込んでいる子どもたちもいます。その子たちにも授業を通して英語学習への興味を高め、この先の長い生涯学習に繋がるような太い根を育て、さらに「翼」を与えることが、小学校の英語教育が果たす大きな役割だと考えます。
「英語のモデル」ではなく「英語を学ぶ人のモデル」になる
小学校教員採用試験の模擬授業で英語を選択する学生も
私の担当する「英語」「英語科指導法」は、小学校の外国語活動や外国語科の授業の教育法について学ぶ科目です。本学では、小学校教諭・幼稚園教諭・保育士の三つの資格を同時に取得できるカリキュラムが組まれているので、幼稚園教諭や保育士を目指す学生も多く履修しています。
今、小学校の英語の授業ではICTが多く利用されています。以前なら絵カードやCDプレーヤーを利用していたところ、今は生徒が各自のタブレットで見たり聴いたりするようになっているのです。本学では授業支援アプリ「ロイロノート」などを活用し、日常的にICTを利用した学習を行っているので、この授業でも自分で生徒の興味をひくデジタル教材を作るなど、現場ですぐに使えるスキルも身につけることができます。
学生の英語力も上げる目的で、模擬授業はオールイングリッシュで行います。その中で「英語を学び直したい」「どうしたらもっとできるようになるかな」と考える学生も増えてきました。でも、英語力のアップと共に小学校教員として大切なことは、常に英語を学ぶ姿勢を子どもに示すことだと伝えています。子どもたちの「英語のモデル」ではなく「英語を学ぶ人・使う人のモデル」に。ALTの先生に一生懸命考えを伝えようとしている姿や、わからないところを聴きなおしている姿こそが、「あんな風に英語をまず使えばいいんだ」という子どもたちの良きお手本になります。それを理解すると「気が楽になった」「指導が楽しみになってきた」という学生も沢山出てきました。教員採用試験の模擬授業で英語を選択する学生も増え、そのサポートも行っています。小学校の現場ではますます英語指導ができる人材が求められており、そこは本学の大きな強みになると思います。
究め人のサイドストーリー
ジャムを炊いたり、豆を炊くのが好きです。じっくりと時間をかけてローストビーフやポークも作ります。仕事が溜まると何か作りたくなるので「また何か差し迫った仕事があるの?」と台所に立つと家族に聞かれてしまいます。海外へ行くとキッチングッズのお店に必ず行きます。豊富なスパイスのラックや見たこともない台所用品を見てはうっとりしています。ここ数年は、サラダリレーと称して、毎日朝ごはんに作ったサラダを写真で撮っています。ジャムは自家製、バターはエシレ、挽き立てのコーヒーとこだわりのトースターで焼いたパン、それにサラダ ドレッシングもバルサミコ酢やハーブソルトの入ったものから、ポン酢ドレッシングなど いつかは「旅館の(和食)朝ごはんシリーズ」にも挑戦してみたいです。
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