大切なのは、自分で情報を集め、考え、自分なりの結論を出すこと
「なんとなく」のイメージで答えていないか
みなさんは「原発再稼働に賛成か反対か」と聞かれたら、どのように答えますか?授業で同じ質問をすると、最初はほとんどの学生が「反対」と答えます。でもそれは本当に考え抜いた末の結果でしょうか。原発事故などの印象から「なんとなく危ない」というイメージで答えていないでしょうか。
では、ここからはいろいろな視点で考えましょう。日本の平均気温はここ100年で約1℃上がっています。各地で豪雨被害も起こるなど、急激な気候変動も目に見えてきています。その原因となる温室効果ガスを削減するため、日本政府は2050年に脱炭素社会の実現を目指すとしていますし、世界中で同じような動きがあります。発電を石油・石炭・天然ガスなどの化石燃料に頼り続けることは難しいというのが世界の流れです。
それなら再生可能エネルギーを増やせばいいのでは?という意見があるかもしれません。でもあなたの家の近くに風力発電の施設ができたとしたら?騒音の問題もあります。巨大なメガソーラーも景観を損ねたり、反射光による光害が問題になったりしています。クリーンとされるエネルギーも、近隣住民にとっては迷惑施設になりかねません。
環境先進国のイメージがあるヨーロッパでは、実は今も多くの原子力発電所が稼働しています。フランスの原子力発電比率は50%以上。ただし、ヨーロッパは大陸で地盤が硬く、地震が少ない地域です。いくつものプレートがぶつかり合う日本に比べると、地震災害による事故のリスクは低いと言えるでしょう。
安全保障の面からも考えてみましょう。火力発電、原子力発電、いずれも日本は海外から燃料を輸入しています。石油輸入の相手は中東。日本との関係は国際情勢に左右されがちで、価格も変動しやすく、供給がストップするリスクもないとは言えません。一方、原子力発電の燃料はオーストラリアから輸入するウランです。日本とオーストラリアは友好的な関係を築いているので、安定した供給が期待できます。
考えることを始めると、もっと知りたくなる
どうでしょう。与えられる情報が多くなるほど、原発再稼働に賛成か反対かは「正解のない問い」であるように思いませんか?実際の授業でも、いろいろな情報を提示しながら賛成か反対かのアンケートをとっていくと、一人ひとりの意見は揺らいでいきます。でもそれは、与えられた情報をそのまま鵜呑みにするのではなく「本当にそうなのか?」と自分で考え始めているということ。そのうちに「もっと知りたい」と、自分からどんどん情報を集め、さらに考えるようになってくれます。
こうして私は、大学での授業を通して環境教育の手法を研究しています。以前からの専門分野である環境・エネルギーに関する問題を、授業の中で提起することによって、若い人が自分で考え、判断する力を養うことを目指しているのです。
最後の授業でアンケートを取ると、賛成と反対はほぼ半々になりますが、ポイントはそこではありません。この授業の目的は、問いに対して情報を集め、知識を身につけて、自分で考え、自分なりの結論を出すという市民としてのあるべき態度を身につけることだからです。環境・エネルギー分野以外の問題でも同じように考え、自分の意志を持って結論を出せる人になってほしいと思います。
リアルな環境問題を知り「行動する学生」を育てる
生活者の気づきや行動の変化が環境を一気に変える
私が担当する科目「地域と環境」は、温暖化、砂漠化、海面上昇など環境問題全般について学ぶものです。私が一番大切にしているのは「現場を知る」ということ。たとえば、2011年にキリバスという太平洋の島で撮った写真を見てください。プラスチックごみの問題が大きく取り上げられるようになったのは最近のことですが、この島ではこうして10年前から大変な問題となっていました。江戸時代の日本でも、同じようにごみがあふれて伝染病が流行したこともあるので、なんとかしないと命に関わる問題になりかねません。しかし現地では環境教育が十分ではなく、処理の仕方を知らない人が多いため、ごみを処理するだけでなく、教育面での支援も必要となっています。
私はゴビ砂漠の中のクブチ砂漠というところに木を植える活動を長年支援し続けています。砂漠化を防ぐには植林が必要だと知識では知っていても、砂漠で木を植えるのがどれほど大変か、実感はなかなか持てないでしょう。気温は40℃、砂の温度は70℃以上でアリ地獄のようにサラサラです。掘っても掘っても砂がサーっと流れること、水もトラックで運ばなければいけないことなどを、写真を見せながら話すことで、実感を持って「現場を知る」ことができるようにしています。
日本は他に類を見ない生物多様性に富む国です。雪山で温泉に入るニホンザルと熱帯・亜熱帯で生息するマングローブ林、その両方がある国は世界中どこを探してもありません。しかし現在、日本全域が「生物多様性ホットスポット」に指定されています。生物多様性に富みながら、固有種の70%以上が絶滅の危機に瀕している地域のことです。自分たちの間近に危機が訪れていることを、さまざまな写真と共に、あらためて学びます。
環境問題は、知るだけでは意味がありません。行動することが大切です。大きな政策や技術革新も重要ですが、結局は、生活者が行動しない限り解決できないものだと思います。大学は「考え、行動できる人」を育てるところ。生活の中での気づき、一人ひとりの行動が変化すれば、環境は一気に改善していくと思います。
究め人のサイドストーリー
趣味はダイビングです。学生時代、短期留学したオーストラリアでたまたま最初のライセンスをとったことをきっかけに、世界中の海で潜るようになりました。地上にはない景色が見られるのがダイビングの魅力。撮った写真を授業で見せることもあるのですが、写真では表しきれない本当の美しさが伝えられないことをもどかしく思っています。
フィジーで初めてサンゴの養殖を見た時は驚きました。まだ環境問題に大きな関心を持っていなかった時でしたが、サンゴを護り、増やそうとしていることに強い印象を受けました。よく行く沖縄の海も本当に美しいですが、サンゴやイソギンチャクの白化が進んでいるので、写真を撮って学生に見せ、環境問題について考えるきっかけにしています。
コロナ禍の今はどこにも行けないので、状況が落ち着いたら今度はモルディブの海に行きたいと思っています。
学園全体で地域と連携した環境活動を実施
さあ、大学の外に出かけよう
光華女子学園は「活気あるエコキャンパスの実現」をスローガンとし、環境教育、環境活動の分野で数多くの積極的な取り組みを行っています。私が室長を務める環境教育推進室でも、幼稚園から大学・大学院まで、学齢に合った環境教育を行い、地域と連携した環境活動を行っています。幼稚園なら廃材を使った作品づくりに挑戦したり、大学生なら京都市行政と協力して、ごみの分別率調査や地域の小学生への環境教育など、これまでさまざまな環境活動・環境教育にチャレンジしてきました。
身近なところからエコ活動に取り組む機会として2010年より学園創立70周年を記念して「KOKAエコアワード」も開催しています。エコ活動を啓発するポスターや川柳などの作品を募集し、優秀作品の表彰を行うものです。在園児、在学生、教職員だけでなく、昨年からは保護者や卒業生、さらには本学園に関係する企業の方からも広く募集するようになりました。今では毎年1500件以上の応募をいただくようになっています。
地域との連携も特に大切にしています。環境問題はキャンパスの中だけで起きているのではありません。学外のさまざまなフィールドに出て学ぶこともたくさんあり、地域も大学の力を必要としてくださっています。たとえば、環境関連科目の履修者やゼミ生で、本学から車で2時間ぐらいの場所にある芦生(あしう)のブナ天然林(京都大学演習林)では恒例行事とて毎年フィールド調査を行っています。また、大学で環境問題を学んだ学生が地域の高校生の環境活動をサポートする取組も11年目に入ります。
コロナ禍が明けたら、もっと学外に出て学ぶ機会を増やしたいと考えています。大学が立地する右京区の北部には面積の9割が森林の京北地区があります。今はそこで調査した鹿による農作物被害の状況や林業の現状などについて写真を提示しながら授業を進めていますが、なにかを直接「感じる」体験をもっとしてほしいと思っています。
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