人間は宇宙や自然と一体のものと考える「中医学」

自然の変化に順応することで自己治癒力を高める

皆さんは、宇宙はどうやって生まれ、人はどこから生まれてきたと思いますか?ビッグバンや進化論を思い出す人もいるでしょう。では、どうして世の中には男性と女性がほぼ同じ数だけ生まれてくるのでしょう?また身近な話として、何を食べても太らない人がいるのに、水を飲むだけでも太る人がいるのはどうしてなのでしょう?

答えはすべて中国の伝統医学「中医学」にあります。西洋医学よりはるか以前、紀元前3~4世紀には確立していたとされる中医学についてご紹介しましょう。

中医学の最も大きな特徴は、宇宙や自然と人間は一体であるという考え方です。私たち人間も、木や草と同じ自然の一部として生命力を付与されている存在であり、自然環境の変化に大きく影響を受けるということです。つまり、自然の法則に逆らわず、その変化に順応してバランスをうまく保ちながら生活することが「健康」であり、そのバランスを欠いた状態が「病気」につながるというのが、中医学の基本的な考え方です。患者さんの身体のどこかにある病気だけをターゲットにして治療するのが西洋医学なら、患者さんの病気だけではなくその全身、生活環境、さらには時間や季節までも大きくとらえ、それに合わせた治療をするのが中医学なのです。

立春、冬至など日本の生活にも根付いている「二十四節気」は、約7000年前、太古の気象学者とされる伏羲ふし が、15日ごとの気候の変化を人の生活と関係づけて発展してきたものです。自然の変化は発散する力「陽気」と、収束させる力「陰気」のバランスで起こるとされる「陰陽説」、宇宙に存在するものすべての現象を「木火土金水」の五つに分類する「五行説」も古代中国で生まれました。中医学は、これら中国の古代思想をもとに、人間は宇宙や自然と一体化するのが理想であると説いています。病気を治療するというよりも、病気にならないようにする、つまり自然の動きに対応することによって、自己治癒力を高めることを重視しています。

目の症状は肝の問題を表していると考える

なんだかつかみどころのない話に聞こえるかもしれませんね。では、中医学では人の身体をどのように見るのかを少しご紹介しましょう。中医学では、身体の中の各器官も互いに影響し合っていると考えます。日本でも人の内臓のことを「五臓六腑」といいますが、中医学では 「しんはいかんじん」の五臓は、それぞれが「経絡けいらく」という循環経路によって、目、口、鼻などの器官とつながり、影響し合っていると考えます。

たとえば「肝」は西洋医学でいう肝臓ですが、肝と胆は陰と陽の関係であり、経絡によって目や唇と通じているので、中医学では目に何らかの症状が現れた場合、肝に問題ありと診断します。認知症は、西洋医学では脳の問題ですが、中医学では脳に通じる腎臓の問題だと考えます。

経絡は人間が生きるために必要なエネルギー「けつすい」の循環経路であり、人体には12本の経絡、365の経穴(ツボ)があるとされます。これを利用した鍼灸も伝統的な中医学の治療法です。

病院で脈をとる時、三本の指を使いますが、これはもともと中医学の脈のとり方の「形」だけが西洋医学で採用されたものです。中医学では、三本の指はそれぞれが別の五臓の様子を知るために使われています。脈によって五臓の様子を知れば、妊娠の有無、生理の状況、病気の進行など、すべて見通すことができます。痛みのある部分を触ることによって経絡循環の滞りを見る場合もあります。超音波やエックス線などの近代的な設備がなくても身体の中の様子がわかり、適切な診断ができるのが中医学です。

中医学に基づく看護教育はなぜ必要か?

必修科目として「漢方」を学んだ医師とのチーム医療にも必要

私は、看護教育に携わる者として、中医学に基づく看護教育が必要だと考えてきました。それにはいくつかの理由があります。

まず、看護師として患者さんを見る力、ケアの力を上げるという意味で、中医学の知識が役に立つからです。たとえば、処方された薬の効果を確認するのは看護師の大切な仕事ですが、同じ症状でも、原因によって対処法が違うのが中医学。その視点を持ったうえで患者さんを観察すると、薬が適切なのかどうかもふくめ、より良い対処につなげることができます。嘔吐したい患者さんに、経絡の知識を使って適切な場所に刺激を与え、楽にさせてあげることもできるでしょう。また、患者さんの様子と季節の変化を大きくとらえ、たとえば「陽の気」が不足して自然とのバランスがとれなくなっている患者さんを太陽の下に連れ出したり、ベッドの位置を変えてあげたり、中医学の視点からのちょっとした工夫で、患者さん自身の自然治癒力を高める手助けをすることも可能です。今挙げたのはほんの一例です。自分の知識を積極的に使って患者さんが楽になれば、患者さんとの距離も縮まり、看護師としての役割を再認識することにもつながるでしょう。

国連が定める持続可能な開発目標(SDGs)のターゲットの一つ「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジの達成」にも寄与できます。ユニバーサル・ヘルス・カバレッジとは、世界中すべての人が平等に健康を享受できるということ。国によって貧富の差があり、平均寿命も大きく違う中で平等を実現するには、高価な設備や高度な技術が必要な西洋医学だけではなく、脈をとるだけでその人の病気や不調を見極め、その土地の自然の営みに合わせた健康指導ができる中医学、中医看護は有効だと思います。

また、日本の医学部では2001年から「漢方」が必修科目となっています。2018年6月には、WHOが公表した国際疾病分類「ICD-11」に、中医学の診断名が追加されました。現代の医療体制は医師や看護師を含む多くの医療スタッフが対等に意見を述べ、それぞれの専門的スキルを発揮する「チーム医療」が中心。医師が中医学にもとづく処方や診断をする時、看護師もそれらに関する知識を持っているべきではないかというのが私の考えです。

究め人のサイドストーリー

太極拳を長く続けています。太極拳といえば徒手でやわらかい動きをするものを想像すると思いますが、私が今やっているのは剣を持つことで負荷を大きくする「太極剣」。これを続けることで「気」を整え、病気にならないようにしています。ただし社会人として生活している以上、ストレスは避けられません。コロナ禍への対応ストレスで目に麦粒腫(ものもらい)ができた時は、「肝の気」が滞っていることが原因だとわかっていたので、耳に針を刺して血を2滴ほど出し、気を発散させたら、翌朝には治っていました。旅行にも簡単な鍼やお灸を持っていきます。

全国に先駆けて「中医学の基礎」を開講

患者さんのケアだけでなく、自分自身のケアにも役立つ

本学では、全国に先駆けて、2021年度から学部で「中医学の基礎」、大学院で「中医学」の授業が始まります。「生命とは何か」「宇宙とは何か」といった自然生命理論に始まる中医学の概念を学び、なぜこの脈をとると心臓の様子がわかるのか、目を見るだけで肝の様子がわかるのかを体験的に学びます。

季節に応じた養生法も学びます。養生とは生活習慣のこと。中医学では、季節、時間、方位、臓器、味覚などすべてが中国古代の陰陽五行説に対応するということを知った上で、季節ごとの自然の変化に対応した養生の方法を学びます。たとえば春は、早起きをして陽気を取り入れ、肝に風の邪気を受けないよう注意し、刺激の強い食べ物に気をつけて過ごすのが良い季節です。日本では一年中早寝早起きが良いとされますが、中医学では、冬は早寝遅起きをして陽気をうばわれないようにするなど、季節ごとに養生法が異なるのも特徴です。

養生法の知識は、患者さんのケアに役立つのはもちろんですが、看護師としての自分を守ることにもつながります。この授業では、自分自身の心身のバランスをとるための太極拳も体験します。日本ではあまり知られていない 八段錦はちだんきん という体操も一緒に行いましょう。看護師にとっては自分自身の心身を健康に保つことも重要な仕事です。中医学の知識やそれに基づく健康体操を使って、いつも元気に仕事ができる看護師になってほしいと思います。

五臓・五行・五気・五志の関係

高校生へのメッセージ

手書きメッセージ

看護は、人の生命に関わる大変な仕事ですが、自分の知識や技術を活かして人と触れ合い、距離を縮めることのできる素晴らしい仕事でもあります。患者さんが元気になって笑顔で退院される時の達成感は言い表すことができません。看護の仕事を愛することができるなら、ぜひ京都光華女子大学で学んでください。看護以外の領域を学ぶ人とも一緒に、大きな視野で看護を学べる環境があります。

呉 小玉教授

健康科学部 看護学科 / 大学院 看護学研究科

中国湖南省医薬学院卒業後、看護師として勤務。1998年、笹川医学奨学金第21期生として来日。大阪府立看護大学修士課程、兵庫県立看護大学博士課程修了。園田学園女子大学人間健康学部人間看護学科准教授、北海道名寄市立大学保健福祉学部看護学科教授、兵庫県立大学地域ケア開発研究所・看護学研究科教授を経て、2017年より現職。著書に『中医看護の自然生命理論 現代看護への活用』(単著) 『老年人の家庭看護』『内科看護』『看護リハビリ』『災害看護』(共著)など

この分野が学べる学部・学科

健康科学部 看護学科

建学の精神であるおもいやりの心を大切にする仏教精神に基づく看護教育が特徴。看護師に加え、保健師の国家資格や養護教諭の免許の取得を目指すことも可能です。

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