本人の努力以外に何が子どもの学力に影響を与えるのかを調査

研究の成果を基にした質問項目を作成することが重要

子どもの学力が伸びるかどうかについて、本人の努力以外にどんなことが関係すると思いますか?クラスの人数、先生の力量、市町村の教育政策…色々なことが考えられますね。

私は、教育学の研究者として、理論研究だけでなく、実際の調査を伴った研究も行っています。その一つに、子どもの学力にはどのような要因が影響を与えているのかについて、市町村の首長や教育委員会のトップである教育長へ調査を試みたものがありますので、その内容について少しご紹介しましょう。

この種の調査では、質問項目を作成する段階がとても重要です。どのような項目を入れれば政策の効果や学力への影響を明らかにすることができるのか、これまでの研究によって明らかになったことを踏まえた上で項目を作成しなければなりません。私は、子どもの学力に影響を与える要因として、市町村の人口規模や財政状況などの「地域要因」、生活習慣や家計状況などの「家庭要因」、住人の規範意識や地域の連帯感を示す「地域環境要因」などを想定し、それぞれに関連する質問項目を作成しました。加えて、教育長には、どのような学力政策を行っているかについて詳細に質問しました。

家庭の要因も学力に影響を与えていた

調査の結果、明らかになったのは、「家庭要因」が学力に影響を与えているということでした。「家庭での子どものしつけがしっかりできている」「家庭での学習習慣の形成がしっかりできている」「保護者の学校に対する信頼が厚い」などにあてはまる自治体は、子どもの学力も高いことがわかりました。教育において家庭が果たす役割は本当に大きいことが見てとれます。

また、就学援助受給率の高さ、つまり貧困家庭が多いことが学力へマイナスの影響を与えているということもわかりました。家庭の経済的な要因が学力に影響を与えているとなると、これはもう国や地方の一般行政に関わる問題です。社会政策もしくは福祉政策としての「貧困対策」も求められるでしょう。自治体の首長が、子どもの学力問題の責任を学校や教育委員会に押しつけるケースがありますが、それは的外れな主張ではないかと私は考えています。

市町村教育委員会の学力政策についての調査結果も興味深いものでした。学力を高めるための政策といえば、補習授業の実施や少人数授業などが効果をあげていると考えがちです。しかし実際には、「生徒指導の充実」「少中連携の強化」「家庭における生活習慣形成」など、学力向上に直接働きかけるものではない政策も多く実施されており、さらに、それらが成功していることが、学力に良い影響を与えていることがわかりました。長期的な視点で子どもたちの人間的な成長を促そうとしている教育委員会の姿勢が印象に残りました。

学習政策の成否は、市町村の人口規模とも関わっています。人口が多い市町村教育委員会では、人材が豊富で予算も多く、革新的な政策を行えるという利点があります。しかし、人口が多くなればなるほど住民間の絆が希薄になったり、大きな教育問題が起こりやすくなったりする面もあります。教育という視点からの適正な人口規模について、今後詳しく検討していきたいと考えています。

全国規模のデータを教育施策に生かすことが大切

「全国学力テスト」調査項目の充実が必要

こうした個々の大学の調査研究では、全国すべての教育委員会を対象にすることは難しく、依頼した調査対象すべてから回答を得ることもできないのが現実です。しかし、教育に関して国が大規模な調査を行う機会があります。「全国学力テスト」です。正式には「全国学力・学習状況調査」と言い、中学3年生、小学6年生を対象に、学力テストとアンケートによる生活習慣や学校環境の調査を全国一斉に行うものです。

義務教育では、全国どこでも、誰でも、同じ水準の教育を受けられることが保障される必要があります。本当に保障されているか?教育水準が保たれているか?を調査するのが「全国学力テスト」の目的です。そして、調査結果を分析し、実態を把握したうえで、行政は、教育に対してどのような政策を打ち出すかを決定するのです。

競争を助長するのではないか、国家権力の教育への介入だ、など、批判の声もありますが、私は、この調査は必要だと考えています。そして、調査内容をもっと充実させるべきだと考えています。学力を高める政策とはどのようなものか、それが明らかになるような質問項目がまだまだ少ないというのが私の考えです。

私たちを含めて多様な分野の研究者が、調査の設計の段階から関わることができれば、これまでの研究で得られた知見を踏まえて、より構造的、包括的な調査を行うことができると思います。学校の持つ情報とも合わせ、ビッグデータとして利用すれば、学校改善に役立つ多くの有益な情報を得ることができるのではないかと考えています。

今、学校では、教科の指導だけでなく、食事など家庭での生活習慣についても指導をするのが一般的になっています。これも最新の知見を教育に取り入れた結果です。調査によって得られた情報に基づき、家庭や地域、また行政の政策など、広い視野で教育を捉え直して、それぞれに何ができるかを考えていけば、それが教育の質の向上、教育格差の是正にも役立つのではないでしょうか。

究め人のサイドストーリー

ニューヨークのコロンビア大学ティーチャーズカレッジに留学した時、ブロードウェイで初めて観たことをきっかけに、ミュージカルにはまりました。以来、ニューヨークに行くたびに観に行っています。一番好きなのは「オペラ座の怪人」。日本でも劇団四季を観に行っています。ミュージカルは堅苦しくなくて気軽に行けるのがいいですね。楽しいし、癒されます。嫌なことがあっても吹っ飛びますよ。

日本の教育を、理念と制度の面から学ぶ

教育問題について自分の意見を持ち、自分の言葉で語れるようになる

私の担当する「教育の制度・運営」は、日本の教育がどのように運営されているかについて理念と制度の面から学ぶ科目です。まずは、現代の学校教育がどのような理念に基づいて行われているかを学びます。教育の機会均等、教育の政治的中立性、教育の無償化などの理念について学び、検討するのです。次に、日本の学校教育がどのような制度の中で運用されているかについて学びます。最終的には、自分の生まれ育った市町村の教育委員会について調べ、現状と課題をレポートにまとめてもらいます。このレポートを通して、自分たちが受けてきた教育の背景には市町村ごとの教育委員会があるということ、それぞれどのような意図で教育を展開していたのかが、実感を持ってよく理解できるようになります。調べた内容を基にディスカッションもします。

この授業を通して、学生は、教育に関する問題を自分の言葉で実感を持って語れるようになります。教育委員会廃止論などに関しても、マスコミの論調や一部の過激な意見を認識しつつ、自分の頭で公平に考えられるようになっています。

こども教育学科の一番の特長は、一人ひとりの個性にしっかり寄り添った丁寧な指導だと思います。また、教科やピアノ演奏などの学び直しがしっかりできるのも大きな魅力の一つでしょう。1年生からボランティア活動をするなど、有意義な経験を積み重ねることができ、キャンパス内に光華幼稚園や光華小学校があって実習やプレ・インターンシップができるのも恵まれていると感じます。大学で理論を学ぶだけでなく、実際に子どもと触れ合いながら先生に指導される機会が多いため、早くから実践で生かせる力を身につけることができますね。

保育や教育は魅力的な仕事だと思います。そして、さらに女性が活躍できるような社会にするためには、安心して子どもを預けられる場が絶対に必要です。これは社会にとってのライフラインだと考えるべきだと思います。ライフラインとしての保育や教育の制度を安定して維持できるように、行政はもっと大規模に資金をつぎ込まなければならないと思っています。保育・教育制度は、乳幼児期から生涯にわたり、人づくり、つまり人材養成を行うという重要な役割を果たしているのですから。

高校生へのメッセージ

手書きメッセージ

21世紀は女性がさらに活躍する時代。自分の能力、個性を磨き、自分らしく生きていきましょう。教育や保育の仕事は、誰もが自分らしく活躍できる分野の一つだと思います。

河野 和清教授

こども教育学部 こども教育学科

1976年広島大学大学院教育学研究科修了、2003年広島大学付属幼稚園長、2019年4月広島大学大学院教育学研究科教授を経て京都光華女子大学こども教育学部教授に。専門は教育行政学・学校経営学。研究テーマはアメリカ教育行政学研究、市町村教育委員会制度に関する研究

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教育・保育現場でおもいやりと慈しみの心をもって、一人ひとりの子どもを尊重し、個性を深く理解しながら、その良さを引き出せる教員・保育者の養成を目指します。

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